いつか思い出のカンパネルラ3
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帽子をどこかに置いてきてしまったらしい明星先生をベンチに座らせて、私はとりあえずさっきの店に帽子を探しに来た。ショッピングモールが存外大きいため戻ってくるのも一苦労だったが、それでもそこまで時間をかけずに帰ってくることができた。
店に入って店員さんに聞いてみると、やはり忘れ物であのディアストーカーを預かっていてもらっていたようだ。お礼を言ってその帽子を受け取る。見つけるのにそこまで苦労しなくてよかった。
来た道を戻り明星先生のもとまで帰ってくると、なにやら彼女は電話をしている。
「いやっ、その、急に帰って来いと言われても…。ていうかこの番号もどこから…。」
『…!』
「でも、ボクも色々あって…。」
『…っ。…!』
「あんまりもうボクに…、ああちょっと!」
通話を切られたようで、明星先生は茫然としながらスマホの画面を見ている。何かあったのだろうか?
「先生?大丈夫ですか?」
「…え?ああ、帰ってきたのですか。これは…まぁ、いや、大丈夫です。」
「いや大丈夫じゃないですよね?何かありました?」
様子のおかしい明星先生の隣に座って、話を聞こうとする。先生は話しづらそうにしながら少しだけ何があったか教えてくれた。
「…ずっと会ってなかった人から急に会いたいとか言われたのです。でもその人はあんまり…。」
「会いたくない人ってことですか?だったら無理に会わなくても…。」
「でも電話番号もバレてますし、それに…。ボクが行かなかったら事務所までやってくるかもしれませんし…。」
いつもの調子はどこへやら、妙に歯切れの悪い明星先生。詳しいことはよくわからないけど、このまま放っておくわけにはいかない気がする。
「じゃあ、誰かと一緒に行くのはどうですか?阿須原さんとか。」
「阿須原さんはダメです!番号ばらしたのも多分…!」
「え?」
「あっ、いや、…とにかくそれはダメなのです!」
「うーん、じゃあ私はどうですか?」
「え?」
私の言葉に明星先生は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「男と一緒に行くっていうのはちょっとあれかなって思ったんですけども…。それでも一人で抱え込むより良いですよ。明星先生その調子で行ってもしんどいままでしょ。」
「ええっと、それは、そうなのですが…。」
いつもは人使いが荒いのに、明星先生は少ししり込みしている様だった。どうしたもんかなぁ。
「…足大丈夫ですか?」
「え?」
「この前の事件でたくさん歩き回ったから筋肉痛になったんですよね?だからここにも電車とかで来たくなかった。違います?」
「…ええ、そうです。」
「私は明星先生に比べたら馬鹿ですけど、それでもちょっとは便利に使ってもらえる能力はあると思ってます。運転とか。」
「…。」
「今日は大学があったので流石に渋りましたけど…。それでも一応助手のつもりなので、自由に使ってくれて大丈夫ですよ、明星先生。」
「…。」
少し驚いたようにする明星先生。黙り込んでいた彼女だったが、しばらくすると笑いながら口を開いた。
「図に乗るんじゃねぇよ。馬鹿。」
「え?」
「ふふん。一個気づいたことがあるのです。」
「え?え?」
「実はその人がいるのは山の中なのです。つまり何かボクに不都合があってもなかなか逃げられないのですよ。」
「つまり?」
「車を運転できる奴がいれば、すぐに逃げられるってことです!」
「えぇ…。」
明星先生に名案を閃いたかのように得意げに言われる。あんまり堂々と言うことではない気がするが…。まあそれでもいつもの先生が少しは帰ってきているように見えた。
「じゃあまた今度の土日は開けといてください、馬鹿」
「はいはい。」
「はいは一回。」
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