境界剝離、ブラックアウト8
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車を走らせ、遥空の家の前まで行く。ちょうど着いた時には遥空は家の外で待っており、そのまま遥空が車の助手席に乗ってきた。
「おはようございまーす。で何するんですか?あと休めました?」
「ああ、おはよう。おかげさまで寝れたよ。あと今から黒鍋のコントロールセンターに行って相川さんと聞き取りをする感じ。」
「そうなんですねー。じゃあ着いたら起こしてくださいー。」
そういって遥空はどこからかアイマスクを取り出し、装着して寝てしまった。こいつ…。昨日は珍しくしおらしかったくせに。
そんな遥空を置いておいてさっさとコントロールセンターまで移動する。一昨日と同じように敷地近くに車を停め、寝ている遥空を蹴り出してセンター入り口前まで移動すると相川さんや刑事さんたちが待っていた。
「やぁ、有太郎君。」
「おはようございます、相川さん。これからですよね?」
「うん、そう。じゃあ行こうか。」
相川さんたちとセンターの中に入る。短い間に二人も従業員が亡くなったのだから大騒ぎになっているのかと思ったが、特にそんな様子はない。あの指令室のような大きな部屋に入っても同様で、いつも通り全員が仕事していた。本当に人が死んだ職場か?
私たちが入ってくると、あの統括主任の丸山さんがこっちに来た。
「お待ちしていました。稲垣のことですね?」
「はい、それにこの会社の一つの部署の方が短期に二人も殺されています。何らかの関連性を疑うしかありません。それでもう一度お話を聞かせていただきに来ました。」
「そうですか…。しかし私どもも驚いていることでして、話せることといいましても…。」
…このままにしていてもあまり何も聞き出せない気がしてきた。私は二人の話の間に挟まる。
「でしたら昨日の朝、何をしていたのかここにいる皆さんに聞いてみてはいかがでしょう?」
「えっ!?」
「ああ、確かにそれがいいかもねぇ。」
「ちょ、ちょっと待ってください!私たちを疑うのですか!?それに業務もありますし…!」
「容疑者までとは言ってません。少しお話をお聞きするだけです。お一人ずつお呼びして2,3分話するだけならお仕事に影響ないですよね?」
「それはそうですが…。」
「それとも何か協力していただけない理由でも?」
「いえ…。わかりました…。」
かなり嫌がっていた丸山さんだったが、観念したようにこちらの要求を呑んだ。これで詳しい話を聞ける。
話を聞く役目は刑事さんたちに任せると、彼らは仕事している人たちから一人ずつ別室に呼び出し話を聞いて行く。それを見て丸山さんが私たちから離れて業務に戻っていった。
「で?どうするの?」
「そこら辺の人たちの聴収は刑事さんたちに任せます。」
「ふぅん?話を直接聞きたい人がいるみたいだね。」
「丸山さんと最初に殺された大木さんの上司の柏木さん、あと…神崎さんも。その人たちの話を聞きたいです。」
「りょーかい。その人たちは私と聞こうか。」
相川さんが部下の人たちに指示を出しに行った。手持ち無沙汰になったので見渡すと、遥空が立ったまま居眠りをしていた。こいつ。
私は居眠りをしている馬鹿の頭が治るようチョップを落とした。
私が指定した人たち以外の聴収は終わり残るは3人だけになったので、相川さんと別室で待機する。
待っていると、まずは丸山さんが来た。
「…どうも。」
「協力ありがとうございます。早速ですが、昨日の朝、6時から会社に来られるまで何をされてました?」
「何って…。普通に朝起きて準備して会社に来ました。特に変なことはないです。」
「何で来られました?」
「車です。…あの私からも質問良いですか?」
「何でしょう?」
丸山さんが私の方を向いて話を続ける。
「そこの男性の方、以前来られた時稲垣から何か渡されていませんでした?あれは何だったんでしょう?」
「どうしてそんなことを聞くのですか?」
「い、いえ。故人のことですし、気になっていたもので…。それに何か失礼があっても大変ですし。」
「…重大な「ただのナンパの紙でしたよ。電話番号とか書いてあるような」」
話をしようとした私の言葉を遮って相川さんが答える。訂正しようとすると相川さんがこちらに目線を合わせて制止する。
「そうでしたか。それは大変な失礼をいたしました。申し訳ございません。」
「いえ…。慣れているので大丈夫です。」
その後は特に手掛かりになりそうなことも聞けないまま聴収は終了し、丸山さんは部屋を退出していった。相川さんが少し怒ったように口を開く。
「さっきの君、あの紙にはすごい大事なことが書いてあったんです、って言おうとしたでしょ。」
「は、はい。」
「稲垣さんが何かを警察にリークしようとしたから口封じされたとするんだったら、あの紙に秘匿したい情報が書いてあったことにして有太郎君が秘密を知っていると認識させる。そうすれば刺客が自分を殺そうとやってくるはずだから、それを糸口にしようとした。違う?」
「その通りです…。」
「危険すぎる。そんなことは到底許せないよ。」
「…昔は銃持った犯人のいるマンションに一人で行かせてくれたのに。」
「その時学んだんだよ。…それに愛する彼女が目を覚ました時に君がいなかったら悲しむよ?」
そういって相川さんは私に微笑みかけたのだった。
次にやってきたのは最初に殺された大木さんの直属の上司だった柏木さんだ。
「昨日の朝何をしていたのか話せばいいんですよね?」
「はい、そうです。お願いします。」
「6時くらいに起きた後、日課のジョギングに行ってました。そして帰って準備してから会社に行きました。」
「ジョギング?ちなみにどこを?」
「家の近くをぐるぐると。ここからも商店街からも離れてます。」
「そうですか。ちなみに会社には何で来られました?」
「車です。」
淡々と話す柏木さん。あっという間に聞きたいことも全て聞いてしまった。
「…わかりました。以上で聞き取りは終わりです。ありがとうございました。」
「そうですか。では。」
柏木さんはさっさと立ち上がって部屋から出て行ってしまう。
「淡々としてたねぇ。」
「そうですね。」
そして最後に神崎さんの番になった。部屋に入ってきた彼女は一昨日見たより疲れてそうな顔をしている。
「ではよろしくお願いします。」
「はい…。」
「まず、昨日の朝6時から会社に来るまで何をされていました?」
「朝は6時30分くらいに起きて、普通に準備してから車で会社に来ました…。」
「そうですか。ちなみに結婚されているんですか?」
「え?」
「薬指に指輪をされているので、そうかなぁって。」
彼女の左手薬指を指さしながら、私はおどけた口調で言った。
「は、はい。結婚しています。」
「そうなんですか、旦那さんと仲いいんですか?」
「ええ…。…でも最近は私が家に仕事のストレスを持ち込んでしまっていて、少しピリピリしています…。」
「へぇ。」
「夫には申し訳なくて…。こんな私なんてすぐに切られてもおかしくないのに…。すいません、警察の方に言うようなことではなかったですね。」
「いえ、大丈夫ですよ。以上で聞き取りは終わりです。ありがとうございました。」
「はい、では失礼します。」
そういって神崎さんは部屋から退出していった。これは…夫婦間でずれがあるのかな。
一通り話を聞き終わったのでコントロールセンターを後にすることになった。出口まで歩いていると、前から執事服のような服を着ている、大きめのボストンバッグを持った女性とすれ違った。
うん?この人どこかで?
私が振り返って彼女を見ていると、遥空が不思議そうにこちらに聞いてきた。
「先生?どうかしました?」
「いや…。今の人どこかで会ったことある気がするんだけどなぁ。」
「え?でももう相川さん達行っちゃいますよ。」
「ああ…。行こうか。」
「視察はいかがでしたか?」
「特に問題ないようです。今日の夜にはあの方をお連れします。」
「わかりました。歓迎させていただきます。」
「あと。各所に荷物を置かせていただいているのですが、それには触れないよう。」
「え?それは一体?」
「あの方の指示です。彼がいるなら、と。…とにかく動かさないようにしてください。後であの方が回収します。」
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