境界剝離、ブラックアウト4
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急いで遥空を電話で叩き起こし、車で彼女を拾って商店街に向かう。起こされたのが気に食わないのか遥空はどこか不機嫌だ。
「…それであの涼香っていう人が殺されたんですか?」
「そうらしい。今朝商店街で銃殺されたって聞いた。」
「商店街?約束って10時からですよね?なんで早くから来てたんですか?」
「わからない。そこらへん含め調べに行くぞ。」
「…それ私要ります?寝てたいんですけど。」
「お前一応助手だろ…。」
お前から助手にしてくれって事務所に乗り込んできたくせに…。
コントロールセンター近くの商店街に着くと警察が既に検証を始めていた。野次馬も多くいる中、相川さんは現場で指揮を執っている。そんな相川さんに近づいた。
「相川さん。今来ました。」
「おはようございまーす。」
「ああ、おはよぉ。早速だけどこっち来てみて。」
相川さんが現場の奥の方へ案内してくれる。ブルーシートで遮られた向かいに行くと、そこには稲垣涼香さんの遺体があった。仰向けになるように倒れていて、遺体からは血が溢れている。よく見ると体には穴のようなものがぽつぽつと開いていた。
「この穴って…。」
「銃で撃たれた跡だね。近くに住む人の話によると、今朝急に銃声のような音が響いたらしいんだ。それで外に出てみたら倒れている女性と、フードを目深に被った人がいたみたい。」
「フードの人?」
「うん。顔なんかは見えなかったし、体格もよくわからなかったって。」
「その人は捕まったんですか?」
「いや、集まってきた人に取り押さえられかけたものの、振り払われて逃げられたらしいよ。今周辺の目撃者とかカメラとかを探してるんだけど、一向に情報が集まってないね。」
「じゃあどこに行ったのか分かってないってことですか?」
「そうなんだよねぇ。フードの人とか絶対目立つはずなのに。脱いだとしても怪しそうな人すらいない。」
相川さんもどこか悔しそうだ。しかも先日の事件でこのあたりの監視カメラは一通り把握しているはず。それでも見つからないということは、本当に映っていないことになる。
相川さんが思い出したように続ける。
「そうだ、有太郎君に見てほしいものがあるんだ。」
「ん?何ですか?」
「これ。」
相川さんがジップロックのような袋を見せてくれる。その中には拳銃が入っていた。
「犯人が人を振り払って逃げた時、銃を落としていったようなんだ。それがこれ。」
「なんでこれを私に?指紋とか?」
「指紋はこれから調べるんだけど…。3年前のマンション男性監禁事件覚えてる?」
「ああ、男性ホイホイのやつですか?」
「そう、あれで犯人グループが使ってた銃。これとモデルが一緒なんだよね。」
あの事件の凶器と一緒の型の銃?ということは。
「…逢性麗人会?」
「関係してるんじゃないかって。気になるでしょ?特に君は。」
「…そうですね。何かわかったら教えてください。私も調べてみます。」
「りょーかい。君もあの会社を調べてるんでしょ。君も何かあったら教えてね。」
「あっ、あと黒鍋近代鉄道にまた行くときは一緒に連れてってください。」
相川さんは微笑みながら手をぱたぱたと振る。ここは相川さんたちに任せよう。
その場を離れようとするが、大事なことを忘れていた。涼香さんの遺体のそばに改めて近づく。血まみれになった彼女の顔は驚きと苦悶の表情に染まっていた。何を伝えようとしていたかはわからないが、きっと大事なことだったのだろう。
眼を閉じて彼女の最期の心中を察する。そのまま手を合わせ彼女の来世の幸福を祈った。
遥空と車まで戻ってきた。遥空は欠伸をしながら今後のことを聞いてきた。
「ふわぁーあ。これからどうしますか?」
「…涼香さんは何かを警察に伝えようとしてた。それを伝える前に殺されたってことは」
「犯人にとってそれが不都合な内容だったから?殺して口封じなんてよっぽど大事なことなんでしょうねぇ。」
「となればその不都合な内容が手がかりだな。それが関わってそうな場所といえばあそこだろ。」
「黒鍋近代鉄道ですか?でもどうやって調べます?」
「調べられそうな人が一人いるだろ?その人を足掛かりにしようかなって。」
「ああ、神崎さんですか。住所から電話番号、車まで色々旦那さんから教えてもらいましたもんね。結局調べることは一緒かぁ。」
「そういうこと。さあ行くぞ。」
車のエンジンを点け、発進しようとする。そこで遥空が待ったをかけるように声を出した。
「あっ、先生!提案があります!」
「…何?」
「私先生に起こされて急いで準備したんですよね。」
「ああ、悪かったよ。」
「それでまだ何も食べてないんですよ。」
「…」
「朝ごはん食べたいです。」
「…いい感じの店探してくれ。」
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