ジュリエットは怨恨の心を知る1
相川によって私を含めた5人ほどの人間が集められる。どうやら事情聴収を後回しにされた者たち、つまりは返り血が多くかかってしまった人のようだった。
「皆さんは事件が起こった際被害者の近くにいました。重大な手掛かりとなる可能性があるので、事件が起こった際の周りの様子を教えてください。」
「ついでにあなた方がどういった名前、身分なのか、事件の時何をしていたのかもボクに教えてください。」
美少女が口を挟む。私たちは彼女に対し怪訝な顔を向けるが、彼女は気にするなと言わんばかりに首を振る。相川は茶髪の太り気味なおばさんに手を向けた。
「まずはあなたからお願いします。」
茶髪の女性は周りをきょろきょろと見渡し、不安そうながらも話始める。
「輪島花といいます…。普段は会社で事務員をしています。事件のときは満員電車に耐えるのに必死であんまり周りは見ていませんでした。」
「身分証はありますか?」
「普段持ち歩かないので、今はないです。」
相川は理解したという風に頷くと、女子高生のほうを向いた。女子高生は俯いたまま体を震わせている。
「次はあなた。お辛いでしょうが、その時あったことを話してくれるだけでいいんです。協力していただけないでしょうか?」
女子高生は恐る恐る顔を上げ、顔をうかがうようにこちらを見てきた。あーなるほど。こいつ事件の前に何やってたかバレたくないのか。顔色を悪くしながら頭を横に振り続ける。どうしたものか。
すると、彼女の近くにいた細身の緑色の服を着た細身のおばさんが声を上げた。
「この子、あの男に痴漢してたのよ!」
相川が驚いたように緑色のおばさんに顔を向ける。女子高生は目を見開いて体をはねさせた。
「私ずっと見てたんだから!あのイケメンのあんなところやこんなところを自分一人だけで~っ!」
「い、いや、私は満員電車で偶然当たっただけで…。」
「当たっただけであんな触り方になるもんですか!」
「ああもう!一回落ち着いて!」
緑のおばさんが白熱し、女子高生に詰め寄る。そのあまりの迫力に周りの人間は固まるが、相川はいったん落ち着かせようと緑のおばさんを引きはがした。
「とりあえず、あなたの身分を教えてください。話はそのあとでお願いします!」
無理やり抑えられたこともあってか、少しは落ち着いた様子のおばさんは数拍置いてから話始めた。
「私は高原のぶ江です。で!電車の中で男の人がいて珍しいからちょっと見てたのよ!そしたらそばにいたあの子が急にその男の体を触り始めたの!それを見てたらいつの間にか血がかかってたっていうわけ!それであの子イケメンの尻を撫でまわすように触ってて、感触の違いを確かめてんじゃないかっていうぐらいしっかりと強めに…」
「そこまでで結構です。」
またヒートアップした女性をモノトーンの美少女が制止する。私は声も出ない。
「何よ!今話して…」
「しっかりと見ておられた割に止めようとか考えなかったのですね。」
「それは、その…。通報しようと思ってたわよ!」
「そうですか。身分証は?」
「あります!」
財布から免許証らしきものを出すと相川に投げる。相川はそれを慌てることもなくキャッチするとそれを素早く確認した。
「もちろん彼女が痴漢を行ったのであれば、しかるべき処罰と反省が求められるべきです。しかし、今は少し自重していただけませんか?」
「…わかったわよ。」
私に顔を向けながら美少女は諫める。渋々といった様子だが高原はおとなしくなった。相川は改めて女子高生へ向き直す。
「どうぞ。」
「は、はい。佐藤光です。女子高生で学校帰りでした。普段この時間の電車に乗らないので満員電車に慣れてなくて、彼にたくさん当たってしまった感じです。身分証は学生証ならあります。」
「そうですか。とりあえず別の課の警察を呼びますので、佐藤さんにはまた事件とは別にお話を聞かせていただけますか?」
「はい…」
話を聞き終えた相川は私に一瞬目を向けるが、少し考えた後もう一人の女性、30歳ほどだろうか美女という言葉がよく似合う黒のコートを着た女性に声をかけた。
「次はあなた。お願いします。」
「はい。私の名前は西村紗枝です。普段はOLをしています。人が多かったので身動きが取れず、窓の外を見ていたら事件が起こりました。身分証は持っていません。」
「ありがとうございます。」
落ち着いてものを話す西村。相川もうなずいてから言葉を返す。そして最後に残った私に顔を向ける。
「最後になりましたが、お願いします。」




