クリアリング・ホロウ5
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その後、あとは相川さんと警察に任せるということになり、私たち二人は帰路に就くことになった。今は最寄りの駅まで歩いている。
「あぁ、もう。阿須原さんも何で一人で帰りますかね。なんたら教室があるとか言っていましたけど、それにしたって普通置いていきます?」
「…」
「このボクの足が太くなったらどうするのですか、全く。」
「…」
…彼女を、渚さんを傷つけてしまった。思えばその通りだ。自分の都合で彼女に近づいて、自分勝手に嘘をついて。彼女の心なんて少しも考えていなかった。自分のことしか考えていなかった。
彼女の言葉をきちんと聞けていなかった。
駅に着き、私と天神先生で並んでベンチに座り電車を待つ。間には人一人分の間隔があけられていたが、それでも天神先生の貧乏ゆすりが響いてきた。
広いホームの割に人はまばらで、風が細く通り抜けていく。
何が愛されたい、だ。人に求めるばかりで、自分から心を知ろうとしていなかった。
渚さんは私が好きだったのだろうか。それとも別の何かを求めていたのだろうか。彼女の言葉、表情、気持ち、心を気に留めなかったばかりに、今となっては何もわからない。
もっとちゃんと見るべきだった。いや、そもそも打算で彼女に近づくべきじゃなかった。
ホームにアナウンスが響き、しばらくしてから回送電車が通り過ぎていった。それまで緩やかだった風は急に強く鋭いものになって吹き抜ける。天神先生がディアストーカーを飛ばされないように頭を押さえた。
天神先生は?
天神先生は何を考えていたのだろうか。彼女の心の中をきちんと見たことがあったか?
あの夜。男としての体しか見られないこの世界で、心から愛してほしくて。そんな女性を探していた。天神先生なら私の心の中を見てくれると思ってこの探偵事務所に来た。
でもそれは私の押し付けに過ぎないんだ。求めているばかりだったんだ。
愛されるんじゃない。愛し合わないといけない。
「…天神先生。」
「ん?」
「本当にすみませんでした。」
「…はぁ」
「先生を傷つけることばかり言って。私のことばかり優先していました。」
「本当にそうですね!…そうですね。」
「先生の求めてないことばかり言ってしまいました。先生は多分素直に認められたかったはずだったのに、それに気づかなくて、思ったことばかりで…、それで…」
「ああ!!もう!!お前不器用だなぁ!!!」
天神先生が苛立ったように叫び、構内に声が響いた。そのまま私の方に向く。私はそれに正面から目線を合わせた。
「…ボクの為だったのでしょう?」
「はい」
「はぁ、まあ。役には立ちましたよ?」
呆れたように天神先生は言う。すると私たちが乗る予定の電車が着いた。天神先生は立ち上がり乗り込もうとする。
「早く乗りますよ。今度はもっとボクを上手く称賛できるといいですね。」
「え?」
「まあ、試用期間延長にしといてやります。…ほらさっさと乗れ馬鹿。」
車掌のホイッスルが聞こえたので慌てて電車に乗る。そうか。
「ありがとうございます!明星先生!」
「ふん!…んえ?明星先生?」
「あぁ、嫌でした?」
「…ふふっ、ははは!」
「?」
「なるほどです。いえ、そっちの方が好きです。」
そういって少女は笑った。
「本当にありがとうございました!!」
後日、依頼人の飯田さんが監禁されていた三木さんと事務所にやってきた。腕を組み朗らかに笑いあっている。
二人でお礼を言いに来てくれたらしく、明星先生も珍しく上機嫌だ。
「本当になんとお礼を言ったらいいことか!おかげでまた二人でいることができます!」
「僕からもお礼を言わせてください。皆さんが助けてくれなければあのまま監禁されていたでしょうから…!」
「ええ!ええ!まぁこの名探偵が本気を出せば?この程度造作もないのです!ふはははは!!…では今回のこのボクの功績をネット、新聞社、各メディアに是非広めてくださると…!」
「「はい!勿論!!!」」
「ふはははははははは!!!」
…何だこれ?
そんなこんなしていると阿須原さんが何かを持って事務所に帰ってきた。そしてそれを明星先生に手渡す。
「どうぞ、天神先生。新聞です。今回の事件が一面に載ってますよ。もちろん先生を称賛しています。」
「はい!はい!今回もどーんとこのボクを讃える一面が…ああああああああ!!!!」
急に明星先生が叫んだ。思わず耳をふさいでそちらを見ると、先生の顔色が上機嫌から不機嫌に染まっていった。
「何だこれ!!ふざけんなぁあああ!!!!!」
「何ですか?何があったんですか?…ん?」
新聞にあの事件のことが一面に載っていたのだが、その見出しが…。
『男性集団監禁!?現代のホームズ&ワトソンが解決!!』
「なんでお前も載ってるんだよぉおおおお!!!!」
「しっ、知らないですよ!そういう風になっちゃってるなんて!!!」
「ああああああ!!!ボクの称賛が薄れる!功績が取られる!!ああああああ!!!」
「落ち着いてください!落ち着いてください!」
「ああああああぁぁあああああ!!!もうクビにしてやるぅぅううう!!!!」
「相川警部、あの監禁事件に使われていた銃を調べたのですが、」
「うん、出所はわかった?やっぱり?」
「はい、逢性麗人会が関与している疑惑があります」
「そっか、一般人が銃なんて持ってるからもしかして、と思ったんだけどね。…あの団体が関わってる証拠はある?」
「それが決定的なものはなかったです。つながりは徹底的に潰しているのかと」
「尻尾は見せないねぇ。国外もきな臭いし、もうちょっと洗ってみようか。」
「はい!」
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