お菓子の家攻城戦11
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黒ずくめの女性の叫び声が響く中、廊下を走る。角を曲がって奥に進むと行き止まりになっていた。慌てて引き返そうとするが、銃を持った女性が追ってきているのを思い出し足が止まってしまう。すると今さっき通ってきた曲がり角の先から声が聞こえてくる。
「おい!全員出てこい!嗅ぎつけた奴がいる!今すぐだ!!」
そして複数人の足音が廊下に響く。複数人の仲間がいるらしい。
(まずいまずいまずい怖いまずいまずい怖いまずいまずいまずいまずい!!!!)
恐怖心でどうにかなってしまいそうだ。そうだ、ここがマンションの廊下であることを思い出し、見えるインターホンを片っ端から押していく。
「誰か!誰かいませんか!!助けて!!」
しかしどのインターホンからも返答はない。全部留守?
角の先から聞こえる足音は大きくなっていく。急激に思考がクリアになった。いや何も考えられなくなった。終わったのかもしれない?
「廊下の先だ!」
「行き止まりか?行くぞ!」
「銃あるのお前だけか?」
「焦るな、逃げ場所なんてない」
「この先の部屋の住人が助けていたら、そいつごと黙らせろ」
心臓の音が大きくなる。肺が止まらない。奥歯が震える。
ここで死ぬのか?来なきゃよかった。嫌。誰も助けに来てくれない。銃で撃たれる。あの男性のように。怖い怖い怖い。銃あるのお前だけか?死にたくない。銃あるのお前だけか????
他の人は銃がないということ?あの黒ずくめの女性だけが銃を持っている?
来ている人は、足音からしても5,6人ほどだと思う。それにみんな女性のはず。
迷っている暇はない。どうせこのままだと殺される。
急いで移動し、角の影に身を潜め、足音をよく聞く。多分もう来る。だけど待つ。
待てるだけ待つ。足音がすぐそこに来た時、勢いよく角の先に飛び出る。そこには複数人の女性の姿。いきなり飛び出したので驚いているようだ。一番前にはあの黒ずくめの女性。右手に銃。
目を丸くしている間に黒い女性を思いっきり押し出した。そのまま彼女は倒れてしまう。状況がようやくわかった周りの女性たちが取り押さえようと私をつかむ。私はそれを振り払うように力任せに前に進んだ。力の差から人の壁を押しのける。男の臂力を舐めるな。
そうして道は開けると、そこには扉が開いたままの部屋が一つあった。あそこか。
階段から下に降りればあの男性のように追いつかれてしまう。それに先ほど全員出てこいと言っていた。なら部屋に犯人の仲間は誰もいないはず。
誰もいないことを祈って部屋に飛び込み、扉を閉めて鍵をかける。開けられないよう扉を抑えるが、外にいる人の誰も鍵を持っていないようで怒号のような叫び声が聞こえてくる。
「おい!誰か鍵!!」
「中だ!!」
「くそっ!早くオーナーを呼んで来い!!!」
とりあえず大丈夫そうなので扉から離れる。恐る恐る部屋の奥の方へ歩みを進め、部屋を確認していくが誰もいない。最後に残ったリビングに入ると、そこには縛られた全裸の男性が3人。一気に緊張が解けその場にへたり込んだ。
男性たちは助けてくれと眼で訴えかけてくるが、こちらも一応追い詰められている立場だ。こういう時どういう言葉をかければいいのか分からないので、とりあえずピースサインをしておく。
そのまま私は服に取り付けられたピンマイクを撫でた。
「こちらです!早く!!」
「全く何をしているのですか。露見すればどうなるのかぐらいわかるでしょう。」
オーナーがマスターキーを持って21階の一室の前にやってきた。待ちわびたように部屋の前にいた女性たちが反応する。
マンションのオーナーは女性たちを叱りつけながらキーを扉に差し込もうとする。その時だった。
「あら、すみません?」
「ッ!?どちら様です。」
そこには上品な雰囲気をまとう妙齢の女性。サングラスを服のポケットにしまいながらにこやかに微笑んでいる。オーナーと女性たちは一気に殺気立った。
「そちらの部屋の中の方をお迎えに来たのですが」
「そうですか。…皆さん、やりなさい。」
女性たちは一気に阿須原に駆け出す。その中で黒ずくめの女性は銃を構え、発砲しようとした。しかし狙いをつけた時には射線に阿須原はもういない。
殺到する女性たちの間を水のように抜けた阿須原は黒ずくめの女性に迫る。女性は慌てて銃口を動かすが、阿須原が懐に潜り込む方が早かった。そのまま女性の顎に掌底を打つ。黒ずくめの女性はその勢いそのまま吹き飛び、昏倒した。
掌底の動きから勢いを殺さず他の女性に素早く近づいた阿須原。飛んでくる握りこぶしは空を切り、隙だらけの体に逆に拳を叩きこむ。驚き硬直してしまった女性には鋭い蹴りを加え、飛び掛かる女性はつかんで投げ飛ばす。
あっという間にオーナー以外の女性たちを気絶させてしまった。残されたオーナーは慌てて倒れた女性の手から銃を奪い取る。しかし顔を上げた時には阿須原のかかと落としが迫っており、声を上げる暇もなくコンクリート製であるはずの床にめり込むように倒された。
周りを確認した阿須原は細く息を吐いた。すると物陰からひきつった顔の天神明星が出てくる。
「阿須原さん…?みんな倒しちゃったのですか…?」
「はい、早くしないと有木さんが危ないので。」
「なんでそんなに強いの…」
「習い事のおかげです。」
「ごめん!大丈夫!?フロントを抑えるのに時間がかかって…えぇ?」
阿須原の答えでさらに顔を引きつらせる天神。そこに相川が慌てるように走って現れる。しかし惨状を見て同様に顔をひきつらせたようだった。
阿須原はにっこりとほほ笑んだのち、部屋のドアを独特なリズムで叩いた。
連絡のあったリズムで扉が叩かれる。ゆっくりと扉を開けるとそこには阿須原さんの姿。息を吐き出して部屋の外に出ると、そこにはあの女性たちが全員床に倒されていた。すごいな、コレ。一人顔が床にめり込んでるし。…ん?これオーナーか?
周りを見ると天神先生と相川さんもいた。相川さんが何とかしたのかな。やっぱり警察だもんね。流石に強いなぁ。
ところで何で二人顔真っ青なんだ?
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