お菓子の家攻城戦9
少し時間がかかりました。
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「あのマンションは男性ホイホイです。」
「男性ホイホイ?」
どういうことだろう?そんな虫みたいな話だったっけ?
「…どういうこと?」
「今から説明しますよ。まずあのマンションは男性フロアの住人の入れ替わりが激しい状態にありました。不動産屋に行っても一般フロアは満室だったのに対して、破格の家賃である男性フロアの募集はまだあったことからもそれがわかります。またその原因はオーナーから家賃のつり上げの要求があったことにありました。」
「まあ、それはそうだったね。」
「しかしその実質的な退去要求に付随して十二分な賠償があったことから、その目的は家賃などの金銭に無いことがわかります。つまり部屋を開けること、新しく住人を迎え入れることに目的があったと考えられます。」
「え?」
何故そんなことを?どうせ住人が部屋に入るのなら何も意味がないように感じてしまう。むしろ誰も部屋に入居していない空白期間ができてしまい、利益が出ないのではないだろうか。
「なんでそんなことを?逆に損することになりません?」
「おそらくなのですが、ボクはその目的が男性の品定めをすることにあると考えました。」
「品定め?」
「はい。破格の家賃のマンションで男性を集め、恐らく容姿のいい男性をそのまま住まわせて、おじさんのような気に入らない男性を追い出していると考えます。」
「つまり気に入った男性がマンションに集まるようにしていたっていうことかな。でも集めてなにがしたかったの?住人に対してオーナーや従業員が手を出したっていう話も聞かなかったし。」
「それについては、まず住人の中に行方が分からなくなっている人がいることに触れないといけません。」
行方が分からなくなっている人のことについて話すという天神先生。しかし音信不通かもしれなかった人は全員自身の職場に一応の連絡を入れていたはず。であれば行方知らずの人などいないのでは?
「馬鹿の考えていることも分かりますが、とりあえず聞いておいてください。」
「あっ、はい。」
考えを読まれた。エスパー?
「射殺された男性や私たちが探している三木優斗さん、部屋を留守にしたままの男性2名は全員3週間ほど前から職場に何も言わず来なくなったことがわかっています。また相川さんの話では射殺された男性の部屋はホコリぽかったと。」
「そうだね、結構ホコリがたまってたね。」
「さらにその男性はマンションからかなりの叫び声をあげて出てきたのにもかかわらず、男性に何かあったはずの部屋周辺では男性の叫び声は確認されていません。ここから考えられるのは一つ」
「…男性は自分の部屋に住んでいなかった?他の人も同じようにマンションの別の部屋に?」
「おそらく性目的で監禁されています。そうすれば男性が射殺されたのも音信不通だったのにも、男性が全裸で出てきたこと、マンションが男性を集めていたこと、すべてに理由が付きます。」
「うーん…、でも仕事場に来てなかった人は最近職場に短いけど電話をしてきたらしいんだよね。監禁されてるんだったらそんなことできないんじゃない?」
「それなんですが、」
相川さんの切り返しに天神先生が素早く返す。
「ボクは昨日三木優斗さんの職場にもう一度行って来たのです。」
「えっ?この前行ったばかりなのに?」
「はい、会社の方に話を聞くと、三木優斗さんも同じように短く電話をかけてきたらしいのです。」
「えっ、三木優斗さんも?」
「そこで飯田さんに確認すると、三木優斗さんから電話はかかってきていないとのことでした。」
飯田さんは三木優斗さんの恋人だったはず。となると三木優斗さんは恋人に安否の連絡をせず、職場にのみ連絡をしたことになる。
「変ですね。恋人に連絡せず、仕事場にだけ連絡をするなんて。」
「銃殺事件の話に戻りますが、相川さんが被害者の部屋を見に行った際シャワーが出っぱなしになっていったのでしたよね。」
「うん、だからシャワー中に何かあって被害者が部屋から出てきたんじゃないかって思ったんだけど。」
「さらにそこの馬鹿の話によると、普段は倉庫の鍵は開いているのかもしれないとのことです。…事件時、倉庫の鍵が閉まっていたという情報の為に、ボクたちは犯人が倉庫側の窓から先回りしたのではないかという考えを捨てざるをえなくなりました。」
「うん、…まさか?」
「はい、犯人側が偽装工作しているかと。」
偽装工作?そうなると今までのいろんな考えを改めることになる。それにどこからどこまでが偽装されている情報なのかも考えないといけない。
「男性を監禁していることが銃殺事件から露呈してしまうことを防ごうとしたのでしょう。犯人は事件発生直後、まず犯人のルートを隠す目的で倉庫の鍵を閉め、男性が自身の部屋から出てきたと見せかけるため被害者男性の部屋の扉を開け、シャワーを出しっぱなしにしたと考えます。」
「じゃあそれぞれの職場に電話がかかってきたのは、音信不通の人がいないようにするために電話をかけさせたのかな?情報ができるだけ漏れないように仕事場だけに、できるだけ最小限の話にとどめるようにして。」
「そのせいで恋人に電話を掛けない奇妙な状況ができたわけですが。マンションの家賃操作まで監禁の計画に含まれているとすれば犯人と全体はおのずと見えてきます。」
「…オーナー。」
「おそらく状況から見るにオーナー以外にもマンション側に仲間がいると思われます。…今回の事件を整理しましょう。」
天神先生がこれまでの推理と情報を整理する。
「まず、オーナーたち犯人は気に入った男性を探すためにマンションを男性フロア、一般フロアと分けて男性の家賃を破格な値段まで下げました。その際集まってきたどうでもいい男性たちには家賃の値上げをしますが、波風立たないよう賠償はきちんと払うようにし、男性フロアの住人の入れ替えが起こるようにしました。その後気に入った男性が入居してきたら拉致監禁を行い、被害者が入居している部屋とは違う部屋に閉じ込めました。それまではうまくいっていたのかもしれませんが、ある時監禁していた男性が逃げ出しました。そして監禁が露見しないように犯人の一人が追いかけます。」
「ここからが今回の事件だね。」
「はい。男性は逃げ出しますが、マンションを出た際フロントにいたオーナー、もしくは仲間の従業員が男性の逃げた方向を確認し仲間に伝えます。逃げた方向を知った追跡者は倉庫の窓から先回りをしようとし、そこで男性とかち合う形で出会いそのまま口封じに射殺した、というのがあの事件だったということです。」
「そこから事件の偽装工作が始まった。」
相川さんの言葉に天神先生がうなずく。
「まず射殺した犯人が外にいると見せかけるために倉庫の鍵を閉めてマンション内に犯人がいないように見せかけました。そして被害者が別の部屋にいたことを察知されないよう、被害者の部屋の扉を開け、シャワーを出しました。次はマンションの住人に連絡が取れていない人がいることを隠すために、監禁されている人たちに自身の職場に電話をかけさせた。…おそらくこれが全貌です。」
「でも推理とか憶測ばかりで証拠がなくないですか?それに監禁されているっていう人もマンションのどこにいるかわからないですし。」
「そこでお前の出番なのですよ。」
そういって天神先生が段ボール箱を机の上にドカッと置いた。その中には何やら小さな箱のようなものがたくさん入っている。
「なんですか、これ?」
「小型カメラです。このボクが厳選した、人などの動くものを感知した時だけ記録する優れものです!」
「まさか…」
「はい!これをマンションの廊下に仕掛けまくって怪しい人やぼろが出てきた瞬間などの証拠画像を集めるのです!」
「えぇ…」
「お前の話では射殺された男性の叫び声が聞こえたのは上の一般フロアである21階なのですよね?となればその階、もしくは付近の階で男性たちが監禁されている可能性が高いということです。つまりそこらへんにカメラを仕掛ければ、犯人たちを直接的に調べられるというわけです!」
天神先生が胸を張って話す。なんか問題がありそうな手段だったので相川さんの方を見ると、目を閉じて紅茶を飲んでいた。知らないふりをするつもりらしい。いいのか警察。
「さあ!情報共有は済みました!いい加減に出発しますよ!珍しく今回は阿須原さんが運転してくださるらしいですし!」
天神先生が意気揚々と席を立つ。阿須原さんはサングラスをかけて車のキーをくるくるとまわしている。
箱の中を見るとなかなかの数の小型カメラ。…これ私だけで仕掛けんの?
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