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お菓子の家攻城戦8

https://twitter.com/Wakatsukimonaka

 てっきりクビにされるかと思っていたが、天神先生からマンションにもう一度行くように言われた。なんでだ?


 「な、何でですか?まだ手掛かりが欲しいんですか?クビは?」

 「あー…、クビはいったん保留にしてやります。んで、手掛かりというか証拠を集めに行く感じです。大体事件の全容がつかめたと思うので。」


 天神先生には謎がすべて解けているらしい。しかし、私がまたあのマンションに行かされるとのことだ。…行きたくないな。

 言葉に詰まる私を横目に相川さんが口を開く。


 「じゃあ誰が犯人なのかも目星がついてるってこと?」

 「大体は。でも証拠がないのでこの馬鹿にそれを取りに行ってもらう必要が出てきたのです。」

 「そっか。…でも有木君大丈夫?あのマンションで何かあったんじゃないの?」


 相川さんが心配そうに私に問いかける。ああ。

 もう行かなくていいと、渚さんにもう会わなくていいと思っていたのに。何が少し前に戻れるだ。本当に少し前の、ある種の純真さにまだ戻れると信じていたのだったか。いや今も信じているのか。

 それでも今の私は思い描いたものではなく、獣らしさもヒトらしさも無くしてしまいそうな生き物だった。此処を失ってしまえば、きっと私は一生誰かに愛されない。


 「…やっぱり私が行こうか?聞き込みって言えば私でもマンションに入れてもらえるし。」

 「いえ、それではダメなのです。相川さんはすでに警戒されているはずですから。」

 「でも、無理に彼を…」

 「いえ、大丈夫です。私がもう一度行きます。」

 「それは…」

 「ふん、じゃあ早速準備をしましょうか。」

 「でも一日だけ時間が欲しいです。いつでも入れるっていうわけじゃないので…」

 「ほーん、まあこっちも色々あるので待ってやります。でも逃げたりしたら許さんからな?」

 「大丈夫です。ちゃんと行きます。」


 ふん、と鼻を鳴らして天神先生は事務所の奥の方へ行ってしまった。相川さんが心配そうに声をかけてくる。


 「有木君大丈夫?無理はしない方がいいよ?」

 「平気ですよ。それにこれは私が行かないといけないことなので。」

 「…そっか、でも心は大事にした方がいいよ。無理はしないようにね。」


 相川さんは不服そうながらも身を引いてくれた。天神先生も一日だけ時間をくれたのでここは帰らせてもらう。荷物を持って事務所の外に出る時、彼女は悲しそうにこちらを見ていた。

 さて、まずは渚さんに連絡を取らないといけない。





 家に帰ったころには夜も更けていたため、そのまま倒れるように眠る。起きてみるとやはり疲れていたのか、昼前になっていた。そろそろやらないといけない。

 数回のコール音の後、渚さんは電話に出た。


 「もしもし?渚さんですか?」

 『えっ!?有太郎さん!?あっ、はい渚で合ってます!』

 「よかった、今大丈夫ですか?」

 『は、はい、大丈夫です。…昨日はごめんなさい。無理にしてしまって。』

 「いえ、私が誘ったんですから。明日休日ですよね?もしよかったら、またお家に行かせてもらえないですか?リベンジしたくって。」

 『よ、予定は大丈夫なんですが…。有太郎さんは大丈夫なんですか?その、無理にしなくて、気にしないでいいですよ…。』

 「今度こそ大丈夫です。…それに私たちこのままじゃダメだと思うんです。だからまた会いたいです。」

 『…そうですか、私もまた有太郎さんに会いたいです。…でも、』

 「はい」

 『そういうことは無しにしましょう。私たち、少しずつ慣れていくべきだと思うんです。だからお家で二人の時間をゆっくりとるっていうのがいいと思います!』

 「…わかりました、じゃあそうしましょうか。また明日の朝10時くらいに伺いますね。」

 『はい!フロントの人には言っておきますね。そしたら私の階まで通してくれるはずなので。…あの、有太郎さん!』

 「はい、何でしょう?」


 渚さんは何やら口どもっている様子だったが、意を決したのかはっきりと言葉を出した。


 『私、ずっと一人ぼっちで、親とかにも全然見てもらえなくて。お父さんも生まれた時からいなくて。心から通じている人がいなくて。それでも有太郎さんは私の中身が好きって言ってくれて。本当にうれしかったんです。だから私この出会いを大切にしたいんです。』

 「はい。」

 『だからもう一度やり直させてください。次はきっと幸せな関係にするので。』

 「はい、わかりました。じゃあ、そろそろ。」

 『楽しみにしてます。また明日。』


 そういって電話が切れた。…彼女は私に何を期待しているのだろうか。

 とりあえず、明日またあのマンションに行けそうだ。





 翌日の朝、一旦天神探偵事務所に向かう。扉を開けると天神先生だけでなく相川さんもいた。


 「あれ、相川さんもいるんですね。」

 「まあ、証拠が出たらすぐ動けた方がいいしね。同行しようかなって。」

 「来るのは自由なのですけどね。…先に事件のことについて話しておきましょうか。そっちの方が相川さんにも馬鹿にも都合がいいでしょうし。」


 天神先生が事件のことについて切り出した。白黒のディアストーカーの鍔を弾き、少女は語り始める。


 「あのマンションは男性ホイホイです。」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々予想したりして楽しんでます。(ここに書くのは野暮なので心の内に留めておく) 続きが待ち遠しい…!
[一言] 更新が速くて嬉しいです。
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