愛なき世界、恋なき出会い2
人がひしめく車内で突然男性が首のあたりから血を吹き出す。勢いよく飛び出た血は私を含めた周りの人間にかかってしまい人々はパニックとなり、しばらくして電車は最寄りの駅に停車した。
その後はあっという間だったと思う。救急隊と警察が到着し、刺された男性が運ばれて行った。乗客たちは駅にて待機させられ、現在少しずつ事情や状況を警察に聞かれている状態だ。
「では何も見ていないと?」
「人がいっぱいいて何が何だかわからなかったんです…」
とはいえ帰宅ラッシュだったこともあり、聴収しなくてはならない人が多すぎるようだが。私は返り血をたっぷり浴びてしまったため、そちらをふき取ることを優先し事情聴取を後回しにさせてもらっている。
周りを見ると例の女子高生は肩を抱いて震えており、少し離れたところにいる茶髪のおばさんは落ち着けないようでしきりにあたりを見渡している。やはりあのようなことがあったからか周囲の雰囲気は暗く、警察の話す声だけが広がっていた。
「なんで君がここにいるんだ!?」
驚いたような声が急に響く。視線を向けるとモノトーンの女性が警察に詰め寄られていた。白のシャツに黒のランダムプリーツのロングスカートを合わせ、その上から黒のコートを着こなしている。艶やかな短めの黒髪の上には白黒のディアストーカーをかぶっており、女性とは言ったがかなり若くさらには整った顔で、まぎれもなく美少女だった。
「ボクはたまたま調査の帰りでした。迎えの車もなかったものですから電車に乗っていたのですが、こんなことになるなんてねぇ?」
「いや、ねぇじゃなくて…」
「で、どんな事件なのです?このボクに話してみません?どうせよくわからないのでしょう?相川さん?」
先ほどまで詰め寄られる側だった美少女が、今度は逆に相川と呼ばれたスーツ姿の警察にじりじりと近づいている。警察と美少女は面識があるのかかなりフランクな雰囲気だ。
「でも一応君一般人だし…」
「今更ぁ!相川さんたちがわからなかった事件をこのボクが何件解決してきたとお思いで?いつも通りボクが盗み聞いちゃったってことにしましょう!さ、ほら早く!早く!」
「ああもう!めんどくさい!まだ被害者の近くにいた人の聴収がまだなの!」
億劫になったのか話を切り上げ、警察の人がこちらにやってきた。いやなんか美少女もこちらにやってきた。にやにやすんな。
「一課の警部、相川といいます。事件に巻き込まれ大変な思いをされたでしょうが、解決のためお話をお聞かせ願えませんか?」