お菓子の家攻城戦5
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阿須原さんの言っていたことがぐるぐると頭の中で回る。結局その日は帰ってすぐベッドに入った。あれこれ考えを巡らせる間にどうやら寝ていたようで、考えがまとまらないまま渚さんとのデートの為に準備しなくてはならない時間になっていた。
待ち合わせの場所に行くとまだ時間には早いのにも関わらず、渚さんは待ってくれていた。ナチュラルメイクに青色のワンピース、それに合わせた白い帽子と、昨日に比べ一目でわかるほど容姿に気合が入っている。
「お待たせしました。待たせてしまいました?」
「いえ、今来たばかりです!ふふ。」
「そうなんですね!今日のワンピース可愛いですね。めちゃくちゃ似合ってます!」
「ありがとうございます。頑張って選んだ甲斐がありました!いい時間なのでご飯食べ行きましょうか!」
そういって渚さんが歩き出す。私は横に並び素早く手をつないだ。渚さんは驚いているようだったが、顔を少し赤らめて握り返してくれた。
食事を済ませた後もゲームセンターやセレクトショップなど様々なところを巡った。渚さんも楽しんでくれているようで、笑顔をよく見せてくれている。今はカフェで少し休憩をしていた。
「さっきのセレクトショップ綺麗な服ばかりでしたね!どれもいいなって思っちゃいました!」
「そうですよね!渚さんが選ぶ店いいとこばかりですね!」
「またまた~。あはは、有太郎さんと話していると時間もあっという間ですね。」
「そうですね。本当に楽しいです!」
「ふふっ。…ねぇ、有太郎さんが私とデートしてくれるのって私の外見とかが気に入ったからですか?」
「そんなことないですよ!渚さん綺麗だけど、話してて楽しかったり優しいところがあったりで、内面が好きだからデートしてますよ~。」
「…そうなんだ。ちゃんと私の内面を見てくれているんですね。」
渚さんが何やら感慨深そうにしている。内面かぁ。そういや天神先生は外面も内面もないよなぁ、あの人自分の気分のいいようにしか振舞わないし。…いや、そうじゃない。
昨日の阿須原さんと話したばかりじゃないか。彼女はただ自己中心的な、ただ輝くだけの星ではなかった。
「私も有太郎さんの軽いけど心から接してくれているところが好きですよ。」
「そうなんですね。ありがとうございます。」
車の中で話した彼女。輝くばかりでなかった星。
『ええっと、…な何で探偵になろうと思ったんですか?』
『…それ言わなきゃダメ?』
『星ですか?あんまり考えたことがないですね。まあどちらかというと嫌いですけど。』
『あいつら詩的表現の塊みたいなものじゃないですか。そういったものは嫌いなのです。』
『称賛されることは好きですよ。ですが、そういった表現を考えて言う奴が苦手です。』
昏い星。もしかしたら私の見ていたものはまだ彼女の外見に過ぎないのかもしれない。であれば本当の彼女は?私が彼女に求めていたものは虚構に過ぎないのだろうか?
「もう一回聞いてもいいですか?…有太郎さんは私の中身が好きですか?」
「はい、好きですよ。」
私を誰が愛してくれるのだろうか?
いけない、天神先生のことばかり考えていた。マンションに入らないと。
「そろそろいい時間ですけど…、もう少し渚さんと一緒にいたいです。」
「えっ、は、はい。…私ももう少し一緒にいたいです。」
「渚さんってこの辺に住んでたりします?私の家少し遠いんですよね。ホテルもないし。」
「あっ、私の家はこのあたりなのでもしよかったらそこでも…」
「そうなんですね。お邪魔してもいいですか?」
「はい、ぜひ…。」
ちゃんとデート中に少しずつマンションの方に近づくよう工夫している。真っ赤な顔の渚さんと手をつなぎながら例のマンションに向かった。
改めてみても立派なマンションで少し緊張する。というかここに住めているということは、意外と渚さんお金持ちなのだろうか。
「すごいマンションですね。」
「ふふ、自分でもそう思います。でもこの前なんか変な事件があったらしいですよ。裸の男性が叫びながら出てきたとかって。」
「へー、何かあったんですかね。」
「そうかもです。すごい叫び声で、私の部屋にもその声が聞こえるぐらいだったんですよ。…行きましょうか。」
フロントの前を通り、エレベーターに向かおうとする。フロントにはあの女性オーナーがおり、万一に覚えられていて怪しまれても困るので、渚さんを盾にして視界に入らないようにした。しかし突然渚さんがオーナーに向かってお辞儀し、オーナーもそれに返した。一瞬バレるかと思ったがどうやら私を覚えていないようで、そのまま通ることができた。
「ああ、すいません。あの人ここのオーナーなんですけど、このマンションに住んでてご近所さんなんですよね。」
「そうだったんですね。近所づきあいとかありますもんね。」
そのままエレベーターに乗り、渚さんの部屋があるという21階に上がった。
今日もボクは事件や三木優斗さんの件を探るために一日動いていたのだが、阿須原さんが何か茶道教室があるとか言って車を出してくれなかったので徒歩と電車で回ることになった。これもあれも全部あの馬鹿のせいだ。クッソ筋肉痛がひでぇよぉ。
そんなこんなやっていると相川さんからある程度調べが付いたという知らせがあり、その結果を聞くために合流する運びになった。待ち合わせの駐車場に行くと相川さんの車があり、ボクはその助手席に乗った。
「ふー、お迎えご苦労。」
「その辺に投げ飛ばしたろうか。…で、君の方は何かわかったの?」
「いろいろ情報は集めていますよ。相川さんはちゃんと調べてくださいました?」
「一応ね。じゃあ言ってくよー。」
相川さんの報告が続く。重要な情報が多くあったものの、やはり今一つ足りない。
「…まだ足りないです。」
「えー、まだぁ?ちゃちゃっと考えてよ。」
「そもそも考えるの相川さんの仕事じゃないですか…。はあ、マンションの情報がもっと集まればいいのですけれど…。相川さんちょっと今からマンションの方に行ってくれません?」
「ええ、今から?面倒だねぇ。」
「そう言わず、少し調べるだけです。」
そうして相川さんの運転でマンションに向かった。やはり車は楽だ。次に雇うバイトは運転のうまいやつにしようかな。そんな奴が来るとは思えないけど。
あっという間に着いてマンションを観察する。しかしやはり外からでは情報は集まらない。どうしたものか…。
「ねぇねぇ。」
「何ですか、いま考えることで忙しいのですけど。」
「あれ、有木君じゃない?」
「もう今話しかけないでくださ…、はぁ!!??」
見るとあの馬鹿が女性と手をつないで歩いている。一瞬ボクに謝りもせず遊び惚けているのかと思ったのだが、馬鹿はそのまま女性と例のマンションに入っていった。
「え?えぇ?何やってんだあの馬鹿?」
「ああ、フラれちゃったねー。」
「違いますよぉ!!!」
男子大学生は総じてクズですからね。
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