クリアリング・ホロウ4
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「か、帰ってきましたー…。」
備品の車を返さなくてはならないため天神探偵事務所まで帰ってきた。天神先生に会ったら即クビにされる気がするのだが、天神先生はいるだろうか?
びくびくしながら頭を出すと、そこには阿須原さんしかいなかった。どうやらティータイムを楽しんでいるようだ。
「あ、お帰りなさい。」
「天神先生はまだ帰っていないんですか?」
「天神先生なんか歩き疲れたらしくて、事務所に帰らず家に直帰すると電話で。そういや一緒に車で出ていませんでしたか?」
「あっ、はい、そのことなんですが…。」
流石に黙ったままなのは良くないと思い、喧嘩して車を出ていかれたことを話した。阿須原さんは特に怒ることも驚くこともなく、笑って話を聞いている。
「ていうことがありまして…。」
「ふふっ、天神先生らしいですね。一度へそを曲げるとなかなか機嫌を戻すのは難しいですし。」
「そうですよね…。ああ、クビかぁ。」
「そう悲観的にならずに。少し待っていてください、お茶を淹れるので。」
「ああ、大丈夫で…」
「いいですから。」
鍵を返してすぐ帰るつもりだったが、阿須原さんは手際よく紅茶を淹れてくれる。自分の分も淹れなおすと私にテーブルを挟んだ向かいに座るよう促した。ここまでしていただいたので言葉に甘えることにする。
「どうぞ。」
「ああ、ありがとうございます。」
「…天神先生って変わった方でしょう?」
「そうですね、唯我独尊っていう感じです。」
まじであの人自分のことしか考えてないんだから。大体自分のことしか言ってない気がする。よくよく考えたらパワハラとか何かのハラスメントに当てはまってるのではないだろうか。調べてみようかな。
「ふふ、いろいろ他にもあったみたいで。」
「はい、言おうと思ったら虚勢発言を大量に言える自信がありますよ。」
「でも別れた後も有木さんいっぱい動いてくれたのではないんですか?」
「ああ、クビにならないようできるだけ情報を集めとこうかと。自分大好きな先生に機嫌を直してもらえるかわからないですけど。」
「でもただそうなだけじゃないんですよ?」
「え?」
「ただ自己中心な人物でした?」
「でも……ああ。」
車中の彼女。天神明星。
いつしか私の夜を忘れていた。
「 」
「…」
「星みたいだと」
「…」
「昏い星みたいな人だと思いました。」
「…いつか星は人の腕に抱かれないといけません。」
「え?」
「でなければ心臓を愛せないでしょう?」
「…」
「どうして有木さんはこの探偵事務所で働きたいと思ったんですか?」
「それは…」
「…」
「…愛されたいからです。」
「はい」
「顔や体ではなく、心から。愛されたいから。」
「そうですか」
「…紅茶美味しかったです。」
荷物をまとめ事務所を出ようとする。ここで阿須原さんが声をかけてきた。
「一つお願いしてもいいですか?」
「…何でしょう?」
「どこかでいいので、彼女を明星先生と呼んで差し上げてください。」
「え?」
「どこでもいいですから。」
「どうして阿須原さんはそう呼んであげないんですか?」
「それは私ではないので。」
「…考えてみます。」
そういって扉を出た。
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