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ジュリエットは怨恨の心を知る8

https://twitter.com/Wakatsukimonaka

 驚いた。彼女の後を追い、様子を見ているとカバンから血の付いたナイフを取り出したのだ。それを確認した相川さんが周りに潜んでいた他の警察に合図を出し、一斉にライトを点灯させた。突然照らされた彼女はまぶしそうに目を細めている。

 それを見ていた天神さんは満足そうにうなずいて、周りに笑顔を見せながら洋々と車の前に躍り出ていった。


 「いやー、どこから出したのですか?所持品検査はしっかりやってもらわないと困っちゃうなぁ。…まあボクのおかげで何とかなったのですけどね!」

 

 うるせぇなあいつ、と相川さんが口を漏らす。もっと怒ってもいいと思うんだけどなぁ。

 天神さんはそのまま歩いていき、彼女の車のボンネットに腰掛け足を組んだ。


 「出てきてくれませんか?そのナイフ一本ではどうにもならないですからね。…西村紗枝さん?」


 西村さんはゆっくりと車から出てきた。天神さんを睨みながら問いかける。


 「なんでわかったの?」

 「証拠はありませんでしたよ?だからこそこうして追ってきたわけなのですし。ただ一番怪しかったのがあなただっただけです。理由も聞きますか?」


 彼女は端正な顔を歪ませながら静かに頷く。


 「まず被害者男性が女性と一緒に専用車両に乗っていたことは確信しています。あとその女性とデートしていたこと、事件時その女性はすでに降車していたこと、これも皆さんのボディチェックを行う前にわかっていました。」

 「……。」

 「気づかなかったのですか?被害者の持ち物を見せた時にトレーにこれがなかったこと。」

 「…それは、あの人の。」


 天神が青いカバーのスマートフォンを取り出す。どうやら被害者男性のものらしい。そういえば彼の持ち物の中にスマホは見受けられなかった。


 「最近のスマホは便利ですねぇ。ロックを解除しなくても通知センターで送られてきたメッセージの内容が読めちゃう。見ますか?」


 天神さんは西村さんにスマホの画面を見せる。私も先ほど見せてもらった内容だ。


 『今日は楽しかったよ!満員電車大丈夫?早めに男だけの車両行きな~(*´ω`)次はいつ会える??』


 「送られてきたのはすでに彼が刺された後。彼が殺されていることを知っていたらこんなメッセージは送らないですよね。つまり犯人は彼と会っていた女性ではない。」

 「あの女。」

 「ご存じの方のようで。…そもそも彼は背後から刺されたのです。正面に立ってしまうと相手に警戒されてしまう、犯人と被害者は面識のあるとボクは考えました。」

 「満員電車だったから偶然背後に陣取ったのかもしれないじゃない。」

 「だから容疑者の中から被害者と関係のある人がいないか探し始めました。彼に手伝ってもらいながら。」


 天神さんは私の方を見る。それに続いて西村さんもこちらに顔を向けた。ひどい顔をしている。


 「色んな女にべたべた触らせたのね。」

 「男性の交友関係を考えると、妻、恋人、友達、それ以下です。残念ながら現在のこの国、世界の男女比は1:15。異性と関わりなく生涯を終える女性も多いです。普通男性と接触した女性は高原さん、和島さんのようにパニックになったり、下心を出して接触を図ったりと少なくとも落ち着きのない行動をとります。」

 「へぇ。」

 「しかし貴方は落ち着いて行動し、彼とできるだけ接触しないようにした。男性と接触するのに慣れている、既婚者っぽい動きをしたわけです。」

 「暴論ね。」

 「あと彼からもう一つ教えてもらったことがありまして。有木さんは貴方と手を結んだそうですが、彼の右手の指にファンデーションが付いていたそうです。」


 西村さんははっとして自身の左手を見る。そのあと顔をしかめて舌打ちをした。


 「ついているのではないですか?左手のファンデーションの下に隠している指輪の跡が。」

 「……。」

 「殺された被害者は男性。容疑者の中に既婚者であることを隠す女性。限りなくダウトです。これが貴方を追跡した理由になります。」

 「…ああアァッ!!」


 激高して自身の車を蹴った。凹むような鈍い音が地下駐車場に響く。


 「貴方と被害者の男性は夫婦だったのですよね。何故このようなことをしたのですか?」

 「…何もかもこの世界が悪いの。何でヒロインは私だけにできないの。」

 「被害者男性にもう一人奥さんができようとしていたのですね。」


 男女の人数差が著しく男性の数が少ないこの国では一夫多妻制が認められている。しかし、他の妻をよく思わない女性が大半のため、基本的には妻同士は出会わないように、その存在を臭わせ無いように配慮されるのがこの世界の常識だ。他の妻に嫉妬したり、自分との時間が奪われると思ったりした女性が事件を起こすことは珍しいことではない。

 

 「何をやっても彼に他の女がくっつくの。じゃあ私だけのままにするしかないじゃない。」

 「そういう世の中です。…相川さん。」


 相川さんが警察官を引き連れ西村さんを拘束する。そのまま彼女を連れて行こうとするが、その時思い出したように西村さんは天神さんに顔を向けた。先ほどと打って変わり笑っている。


 「自分が気持ちよくなるために彼を利用したの?」

 「…事件解決の為です。」

 「あなた処女ね。モテないでしょ。」


 そのまま相川さんに引かれていった。私は彼女が車に乗せられるまで見ていたが、ふと天神さんに視線を向けると。


 べー。


 不機嫌そうにあっかんべーをしていた。




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