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愛なき世界、恋なき出会い1

「お兄さん、今暇?」


 アースカラーの洋服を着た中年の女性が私に話しかけてくる。こちらの手を取り笑顔で誘ってくるが、生憎おばさん趣味はない。


「ごめんなさい。また今度ね。」

「あ、ちょっと!ちょっとだけでいいんだけど!」


 しつこい。手を振り払い、駅に突入。そのまま改札にゴールイン。目当てのホームまで移動する。周囲の女性の目を感じつつ電車を待つと、五分かそこらで電車がやってきた。先ほどの経験から今日ばかりは男性専用車両に乗るかと迷ったが、いつかの美人の髪の匂いを思い出し、自分に呆れながらも通常車両に乗り込んだ。

 一斉に向けられる目線に謎の高揚感を感じつつドア近くの空いているスペースに立った。これから人が増えてくるだろうが、美人が近くに寄って来てくれるとありがたい。

 なんとなく車内の広告に目を向けるとセンシティブな格好の男のキャラがかぼちゃをかぶっていた。そういや前世もこのくらいの時期で死んだだろうか。なーんか懐かしい。





 自らの前世が何なのか考えたことはあるだろうか。私はこの世に生を受けたとき、驚くことに前世の記憶が残ったまま生まれてきた。おかげで母乳を飲むとき非常に気まずかった。いや喜びながら飲んだか?


 私の前世は普通の男性だった。ただ全然モテないだけで。

 中学高校と彼女はできず、大学でも初体験をすることなくキャンパスライフを終えてしまった。その後も何度かマッチングアプリだの相談所だののお世話になろうとしたもののうまくいかず、ようやく女性と会えたとしても、ちょっと話してそのまま解散。恋愛できないなら仕事に打ち込もうと社畜魂を燃やしていたところ、それが祟ったのか、私に魔法使いは荷が重すぎたのか、内臓がやられそのまま30半ばで死んでしまった。


 眠るように息を引き取り、次に意識を取り戻した時には何か暖かい袋に包まれているような感覚。絞り出されるように袋から追い出されると、自分の体が非常に小さくなっていることに気が付いた。驚く間もなく自分の体がそうさせられているかのように泣き叫び、また意識が浮き沈みしていく中で気が付けば、どっかの家の中でハイハイをしていたというわけ。素晴らしいファンタジー。


 ただよく見てみると前世とは大きく違う部分があった。男性がいないのだ。信じられないことに小学校にいくまで父親以外の男性を見たことがなかった。父親に会えるのも月に一回あるかないかぐらいだったので、ほとんど女性に囲まれて幼年期を過ごしていたことになる。

 今世の世界ではなんと男女比が1:15らしく、数少ない男性の赤ちゃんは非常に大切に育てられるため、ほかの男と会う機会がなかったのだ。小学校になると男のクラスメイトもできたもののやはり教室には女の子ばかりで、唯一精神年齢が40程度の私はなかなかに悶々とさせられた。幼女趣味は無いけどね。無いけどね!


 男女の壁が薄い低学年のときは普通に女の子とは接することができていたものの、年が重なるにつれてやはり目覚めていくのか、高学年になるころには女子たちが明らかにこちらのことを意識するようになった。

 その男女差が悪いのか、中学にもなれば性に奔放、もっと行けば獣のようになっていき、こちらに対してアタックの連続や無理やり迫るなどその行動は常軌を逸し始めた。そのせいで男たちは女子に対し恐怖心を抱くようになり、超超超草食系男子たちが量産されたのだった。これが昨今の子供が生まれない要因にもなる。

 そんなに肉食系女子ばかりならさぞかしいい思いできたんだろって?…まあ確かに迫られたことにならいっぱいあるが、いろいろあって私はまだ童貞だ。





 (結局男ならだれでもいいんだよな)

 夜の都市を貫くように電車は進む。停車するたびに人が乗り込み、車内は隙間なく人が詰められ、私も人の波に押されて壁に流れ着いた。

 目論見通り女性たちの匂いが充満するものの、それが良いものだとは思えず、むしろ不快に感じることに気が付く。次の駅でひとまず降りるかと思ったが、突然臀部を鷲掴みにされた。ゆっくり確認すると高校生らしきセーラー服を着た女性が鼻息荒く私の体を触っている。前世であればクラスのマドンナであったであろう美貌の彼女が私に興奮するのを見て、初めて気持ち悪さに体を震わせた。

 女性たちが性に目覚めてから感じた違和感。前世なら私が自分から求めていたもののはずなのに、結局それは自身の欲求につながらず、ただ相手の気持ちよさにのみ体が消費されている。ああ、なるほど。私はこの世界の女性が…


 (タイプじゃなかったのか)


 高校生は痴漢行為にひどく興奮しているようだった。周りの人は気づいているのかわからないが、この満員電車の中では他の人間など気にしている余裕もないのかもしれない。次の駅に着くまでにもまだまだ時間がかかる。まさぐる手も激しくなっていき、彼女も体を大きく震わせてきた。気持ち悪さにのども詰まっていたが、何とかして大きな声を出そうと息を吸った時、何か温かい液体が飛んできた。目の前の少女に対する驚きと今までにない気色悪さを感じた時、それが鉄のような嫌な臭いを持つことに気づいた。瞬間大きな悲鳴が起こりその方向を見ると、すぐ近くにいた男性から血が噴き出ていた。


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