再戦?
特徴的な笑い声に忘れるはずも無いドスの効いた声、サチコは一気に血の気が引いて開いた壁の奥を見ると、壁に腕組みをしながらもたれかかっている魔人・ローがいた。
初めて遭遇した時のように彼は無傷で、こちらを不思議そうに見つめるがレイナを視界に捉えると口角が上がっていく。
「なるほどな〜、その女がゲロったか。ガガッ!!味方として呼んだのが敵に回るとは、ムルガって奴は人を見る目がないな。」
笑いながらもローは獣のような眼光でレイナを見つめてくる。彼女はその目に怯えるが、エンスがスっと彼女の前にたちはだかる。
「やぁやぁ、さっきぶりだね〜。僕の予想だったらまだ追いかけっこか戦ってる最中かな〜っと思ったけど、無傷で戻ってくるなんて流石だね〜。」
「ガガッ!無傷だと思うか?流石にあの状況で無傷で済むわけもねぇ。傷を癒しただけだ。まぁ、六将の奴が魔法探知を苦手としてたか分からねぇけど、思ったより早く巻けたんでその分傷も少ないがな。」
言い終わるのとほぼ同時に、ローは両肩を少し前の方に動かし、勢いよく壁にぶつける。するとローのよりかかっていた壁が半壊し、その反動でローは立ち上がる。
ボキボキと首と手の骨を鳴らしながらゆっくりと近付いてくる。それに対してエンスは構え、それを見てローはほくそ笑む。
「ガガガッ!!ヤル気なのか?無理なのはお前が一番わかってるだろ。ここは地下だから、魔力をある程度出しても帝国軍には悟られにくい。それに対してお前らは未だ制限付き。さっきはこの条件以下でほぼ負けてたろ?勝てるとでも思うのか?」
「そうだね〜。確かに今のままじゃ、歯が立たないのは明白だ〜。だけど、制限を気にしないっていうなら、話は変わってくるよね〜?」
彼の言葉にローの眉がピクリと動き、足を止めた。ジーッとエンスの表情を見つめる裏で、サチコらの表情も観察する。サチコはエンスの言葉が嘘か真か分からずにオドオドしているが、リーヤとノトレムは制限破りの戦闘を覚悟している。
胃が痛くなる静かな空間がしばらく流れると、ローは口を大きく開けて笑い始めた。
「ガガガガガガッ!!!何警戒しているんだ?俺は一言も"戦う"なんざ言ってないぞ?何でもかんでも暴れまくる阿呆と一緒にすんじゃねぇよ。」
「....君ってゴリアム皇国で暴れてたんでしょ〜?そんな阿呆だって普通は思うさ〜。だから、そんな冷静みたいな雰囲気出してるけど、実の所はダメージが大きくて虚勢張るしかないんじゃないかな〜?」
エンスはニヤニヤとローを小馬鹿にするように挑発するが、ローの表情は崩れず、彼を鼻で笑った。
「ガガッ!強がるのはよせ。分かってるだろ?お前達じゃ俺には勝てない。裏切り女と変な格好した女は大して動いてないから分からないとして、他の三人はイザゼル帝国の十頭....いや、六将クラスか?そこの獣人は四天クラスはありそうだな。
それを踏まえて言ってやる。お前達は束になっても俺に殺される。ボコされて分かってるはずだろ?
だからそうやって煽るのは程々にしておけよ?俺との戦闘が目的で来たわけじゃあるまい。」
ローはほくそ笑みながら近付き、警戒しているエンスの肩を軽く叩くとそのまま通り過ぎる。サチコらは近付いてくるローに道を開け、まさにそれは貴族の行進だった。
何事も起きずにホッとするサチコだが、ピタリとローは足を止めた。
「....あ、そうそう。ひとついい事教えといてやる。ムルガって奴、『俺はアズザ・レオフォードを倒した男だ!』なんて言ってるぜ〜。」
「....アズザ・レオフォード...?」
サチコはポソりとその名を呟き、記憶の棚を開けていた。聞き覚えがあり、この世界に来た時のことを片っ端から思い返していると、ようやくその名を思い出した。
――あ!!それってバルガードさんが以前言ってた人だ!この世界最強って言ってたけど...その話が本当なら私達でムルガ君を何とかできるの!?
分かりやすいほど慌てているサチコだが、レイナを除く三人は特に動揺もしておらず、エンスに関しては鼻で笑った。
「へぇ〜。もう出てきやしないって思ってたけど、まだそんな事を言う奴っているんだね〜。そんな戯言を言う奴らは全員、アズザに殺されたっていうのにね〜。」
「ガガッ!同感だ。....だがな、これは確実な話だが、今回の事件の裏ではアズザが動いていたぞ?帝国軍の配置場所や待ち伏せやら情報提供をしていた。」
その言葉に先程は毛ほども動揺しなかった三人の顔が青ざめた。
「...それって悪い冗談だったりしない〜?」
「そう思いたいなら思っとけ。ただ、俺がムルガみたいな名も知らないチンピラに協力すんのはアズザが絡んでるからだ。アイツは俺の目標みたいなもんだからな〜、顔ぐらい売っておきたかったって訳だ。」
ローは止めた足を進めて背中を向けながらも手を振った。そのまま帰ってしまいそうな彼にエンスは再び声をかけた。
「いいのかい〜?僕らがムルガ君を止めたらアズザの機嫌を損ねて殺されるかもしれない。そしたら、そもそも止めれる段階だったにも関わらず、僕らに背を向けた君も殺されるはずだよ〜?」
ピタリと足を止めたローは振り返り、にやけ顔のまま指をパチンッと鳴らす。すると、壁の触手が動き出し、徐々に壁へと変化していく。閉じていく壁の隙間からローは白い歯を見せながら笑っていた。
「そんな事は起きねぇ。アイツがそれを望まないならお前らの首は既に飛んでる。だろ?ガガガッ!!」
それを言い残してローの姿は壁によって遮られた。
それからはしばらく無言が続いた。ローの言い放った言葉に各々感じ、整理していた。
そんな静寂はリーヤの一言で終わりを迎える。
「....どうするの?もし本当にアズザが関わってたなら、レイレイには悪いけどウチらじゃどうしようも出来ないんじゃない?」
彼女はレイナをチラッと見つつ、深刻な表情でエンスを見つめる。彼はローが消えていった壁をジーッと見つめながら小さいため息を吐く。
「...いや〜?そうでもないよ〜。さっきのローの話通り、もし邪魔なら僕らはとっくに死んでる。つまり、この状況はアズザが容認しているってことさ〜。」
「な、なんでそう言い切れるんですか?もしかしたら、気が付いてないかも....」
サチコが恐る恐る質問すると、エンスは静かに首を横へ振った。
「それはないね〜。アズザが裏で動いているなら、昨夜の僕らの行動も目に付いているはずさ〜。彼に調べる気力があったのなら、今頃僕らが何者なのか大方検討はついてるだろうね〜。彼は...ちょっと特別だからもう知ってると思うよ〜。」
復国軍のリーダーであるバルガードが己の信念を変え、皇族だろうが黙らせる事が出来るアズザに目を付けられる。
アズザの実力がどれ程のものなのか知らないサチコにとっては妄想の域を出ない話だが、青ざめた復国軍メンバーの顔を見るだけで彼女は不安で仕方がなかった。
「フフッ...そんな暗い顔しなくて大丈夫だよ〜。不安に思ってても事は進んでるんだ〜。引き返すことは出来ないから、前に進むしかできない。もしものことが起きても、サチコちゃんはちゃんと守ってあげるから安心してね〜。」
彼にそう言われるが、サチコ自身に感じてる不安が解消される訳もなく、より一層顔を暗くしながらも渋々頭を縦に振った。
「...じゃあ行こっか。ムルガ君を説得しにね〜。」
彼は両手を上げて軽く解しながら進んでいき、各々モヤモヤを抱えながらも彼について行く。目の前に立ちはだかる壁と銀色の鉄扉、エンスはその扉を両手で押すとゆっくりと扉が開かれる。
扉の先は通路とは違い、広めな感じだった。体育館を半分にしたような敷地の広さに、周りには部屋のドア代わりに小さい洞穴が何個も設置してある。
通路とは違って灯りをともす魔具も新品で、その敷地は昼より少し薄暗くしたような感じだった。
「....レイナ?戻ってきたのか?」




