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情報提供者

「....レイナさんが嘘をついているのかどうかは私には分からない。だから、今の話を信じたい気持ちと疑ってしまう気持ちがあるんです。また嘘をつかれたくないって思えば思う程、レイナさんの話が全部嘘に聞こえちゃうのが本音です。」

「....ごめんなさいねサチコさん。本当に本当に...信じるのなんて難しいわよね?私が貴女の場合でも、同じ感じになると思うわ。」



 レイナはサチコの言葉に顔を曇らせ、俯いてしまう。だが、それと反してサチコは顔を上げていた。先程までの暗さは消し飛び、嵐が去った晴天のように彼女の顔には迷いがなかった。



「でも!私、信じたいと思います!嘘つかれたら嫌だし怖いけど....レイナさんのことを信じたいんです。

 これからも...その...と、友達みたいな....感じでいたくて....なんかすいません変な事を....」



 顔を真っ赤にして目線を逸らしたサチコにレイナは微笑む。目から静かに涙は流れるが、その顔は笑顔そのもの。

 そしてこの涙は悲しみではない歓喜の涙であった。



「ちっとも変なんかじゃないわ。

 同じ境遇同士.......ううん、そんなの関係なく貴女とは友人でいたいのは私も同じ。ごめんなさい嘘をついて...そして、この件が終わっても友人でいましょう。」



 レイナは近付き、サチコの前に手を差し伸べる。自分に差し伸べられている手が信じられず、同時に歓喜を感じ、サチコは涙がこぼれそうになりながらも彼女の手を両手で握った。



「....はい!よろしくお願いします!!」



 二人の仲直りをノトレムとリーヤは微笑みながら見守っていた。



「良かったね、仲良くなったみたいで。変な言い争いに発展しなくて安心だよ。」

「だね〜。これで、ウチら全員賛成ってことで決まりだね。じゃあエンス、これからどう....」



 リーヤがくるっと振り返ると、そこには窓枠に手をついて夜景を眺めていたエンスがいる。ただ眺めているというのではなく、表情からは悲しみが滲み出ていた。



「...どうしたのアンタ?らしくないな〜、そんなにサッチーの言葉が効いたの?」

「いや〜...あんな真顔でハッキリと言うとは思ってなくてね〜。心の準備が全然できてなかったよ〜。」



 心做しか声が震えて聞こえ、変なため息を吐いていたエンスを見て、リーヤも深いため息を吐き捨てる、



「心の準備よりか心の制御をしなさいよ全く....それより!ウチらはもうレイレイの事信じるって決めたけど、これからどうするの?いつ下水道へ向かう?」

「ん〜?決まってるでしょ〜?今すぐだよ〜。」

「は!?今!!?そんな急にしなくたっていいじゃん!明日とかゆっくり準備してても」



 声を上げて驚くリーヤに微笑みながら、エンスは腰を窓枠に移して背伸びをしながら答えた。



「帝国軍はまだ魔人・ローと追いかけっこしてるはずさ〜。だから人員と意識はそっちへ向かう。ポドルフ君が対応してくれたから今は凌げるけど、明日にでも帝国軍の連中が僕らを秘密裏に監視するはずさ〜。魔人・ローと何かしら関わりがあると疑われてね。」

「時間が経てば経つほど動きずらくなるってことね。....レイレイ、ここからムルムルがいる隠し部屋まで結構距離離れてる?」

「む、ムルムル!?あ....い、いいえ?そこまではかからないわ。人目につかなければすぐ着くはずよ。」

「マジ!?良かった〜、街の反対側なんて言ったら普通に日を跨ぐからね〜。じゃあ...」



 リーヤは目線をエンスへ合わせると、彼はこくりと頷いた。彼の意思を読み取るにはさほど難しくはなく、全員に緊張感が漂っていた。



「うん、今すぐにでも出発だよ〜。じゃあ道案内よろしくねレイナちゃん。」




 ―――――――――――――――――――――――



 まるで昼のように照らせれている石造りの廊下を歩く一人の兵士。

 見慣れた廊下、見慣れた光景、何度も通る道を進む筈がその兵士の顔色はすぐれず、まるで敵施設に潜入したかのような警戒心を抱いていた。


 後ろを度々見つつ、別れ道に差しかかる時には必ず耳を澄まして足音が無いかを確認、誰かが近付くのを感じ取るとすぐに身を潜めていた。


 前方から足音と話し声が聞こえ、その兵士は近くにあった物置部屋へと隠れる。

 近付く足音より遥かに大きく自分の胸の鼓動が鳴り響く。次第に汗ばみ、息をするのも苦しくなっていく。


 足音が通過して離れていくと、緊張していた分の脱力感が襲ってきて深くため息を吐く。



「ふぅ〜....ったく、自分の味方が憎たらしく感じるぜ。全員黙って部屋で酒でも飲んでろよ。」



 額の汗を拭うポドルフはそんな嫌味を吐き捨てつつ、ドアをゆっくり開けて廊下を見渡す。他の兵士の姿形、足音や話し声も聞こえない。

 大きな音を出さないよう扉をゆっくりと閉め、目的地を目指して歩み続けた。



「エンスさんも無茶なこと頼まないで欲しいや〜。これしくったらこの立場すら危うくなるって言うのに....」



 ポドルフはエンスの頼み事を叶える為、危険な綱渡りをしていた。

 彼は同じに行動していた二人の兵士に"エンスらを監視する為、ここに残る。"と言い伝え、エンス達に監視がつかないようにした上でポドルフの単独行動を可能とさせた。


 当然、伝えたまま馬鹿正直に監視などする訳もなく、帝都に何塔もある帝国軍の防衛基地に向かう。潜入するのは当然として下級国民宿舎のエリアを守る基地だ。


 監視と伝えたはずなのにその任を外れてコソコソしている。その事がバレたらとても不味いなのは言うまでもない。

 失敗は許されない筈なのに失敗の事ばかり頭に浮かび、時間が経つ事にため息の数が多くなる。



「あ〜ちくしょう....あの人も急に言うよな〜。今の基地責任者が六将のタイガさんなのも嫌だよな〜。これバレたら多分死にかけるまでボコられら〜。死にてぇ〜。」



 小さな鬱を感じつつ、ポドルフはエンスからの伝言を思い返した。



『ポドルフ君。この地域の防衛基地を今から探ってくれない〜?殺人鬼側に付いてる兵士が居るはずさ〜。それが情報提供とさっきの魔人を帝都に入れた筈さ〜。手を出したり問い詰める事はしなくていい、ただ存在の確認だけしてくれ〜。』

『それだけでいいんすか?俺に任せて貰えれば、他にもなんか出来ますよ?』

『いや、リスキーだし確認だけで大丈夫〜。僕らは今から秘密裏に殺人鬼を捕まえに行くから手があかない。もし、ポドルフ君に何かあっても駆けつけられないからね〜。』



「エンスさんはそう言ってたけど、俺は復国軍な上に兵士だ。エンスさんらには適わないけど、俺だってそこそこやれるしな。確認だけじゃなくて取り押さえでもしたら、ちょっとは見直してくれるかな?」



 そんな独り言をブツブツ言いながらも警戒心を解かず、恐る恐る歩を進める。

 結局ポドルフは誰にも遭遇することなく、目的地にしていた部屋の前まで辿り着いた。



 ――ここだ、今は使われてない空部屋。情報提供してるような奴が直接的に作戦とかに関わってるとは思えない。ここの下が丁度会議室だからな、何かしら魔具や魔法で聞き取ってもおかしくねぇ。



 ポドルフはゴクリと唾を飲み込み、一息ついてからドアを開ける。空部屋は暗闇に包まれていた。使われていない又は壊れている魔具がそこらに積まれているのが薄く見える。


 無駄足かと落胆していたポドルフだが、人影らしきものを発見した。暗くて誰かは判断出来ないが、人が自分に背中を見せながら椅子に座っているのが見える。


 ポドルフはグッと拳を握り、高ぶる興奮のまま空部屋の上に吊るされている古い電球に魔力を放つ。

 すると小さな光が灯り、部屋と中にいた人物を照らした。その人物は光が灯った事に動揺することもなく、ピクピク動いていただけだった。

 それと同時にポドルフは堂々と部屋に入り込んだ。



「おい!お前ここで何してんだ!?」



 怒鳴り声のように声を掛けるが、その人物は首を横に動かして首の骨を鳴らすだけで応答しない。そんな危機感を感じない妙な人物に違和感を感じつつも近付いた。



「聞こえてないのか?こんな所で何してんだ?場合によっては責任者に報告をす」



 そう言いながらその人物の目の前に移動して顔を覗くと、ポドルフの言葉が途切れる。その人物の顔を見た瞬間、彼は青ざめて血の気が引く。恐怖で身体の力が抜け落ち、倒れそうになりながら後退りをして壁に背を預けた。



「な、なんで....なんでこんな所に....」

「........ふざけんなよお前、俺の睡眠邪魔してくれてよ〜。ここ、静かで気に入ってたのによぉ〜?よくも俺の時間に干渉してきたなお前。」



 その人物はポドルフを睨みつけながらゆっくりと立ち上がり、彼に近づき頭を鷲掴みにする。ポドルフは掴まれても抵抗する気はなく、下半身から体液が溢れ出していた。



「あ、あんたがここに居るって知らなかったんだ....もうここにはこない!だから許して!」

「あ?お前、俺の事を"あんた"って言ったのか?お前如きが?大した身分でもないお前が...人間社会の一員如きのお前が俺に敬語もしない、その上俺に頼み事か...お前みたいな奴は〜、この世界に要らねぇな?」



 ググッとポドルフの頭を掴む手に力が入る。小さな力だが、それでポドルフは死を実感する。涙と鼻水を漏らしながら、彼は必死に懇願した。



「ゆ、許してください!申し訳ありませんでした!!アズ」



 その声を最後にポドルフの頭は弾けた。水風船を割るかのように血と脳漿を辺りに撒き散らし、ズルズルと亡骸は倒れる。手にかけた人物の手の中にはポドルフの血と肉と骨が混ざり合っており、その人物は手を広げてそれをジーッと見ていた。


 そしてあろう事かそれを舌で舐め、口に含んだ。鉄の味が口を満たし、粘膜性がある脳漿を舌で遊び、コリコリとする骨を噛み砕き飲み込んだ。普通の食事のように食べ終わると気持ちよさそうにため息を吐き、自分の唾液と脳漿の残骸でテカる手をジーッと見つめていた。


 すると思い出す。過去の忘れたくとも忘れられない濃厚な思い出、ある人物。それを懐かしんだその人物は部屋の灯りを消し、再び椅子に座って眠り始めたのだった。


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