魔人の襲来④
そう言い残すと、ローは外へ飛び出してその場を離れようとする。ところが、部屋から出て外の冷たい風を感じるのと同時に無数の人の目線を感じ取る。
ローからは笑みが零れ、周りをゆっくりと見渡すと、総勢二十人ほどの帝国軍に囲まれていた。
「警戒網が敷かれているとはいえ、早いね〜帝国軍。こりゃあ優秀だな。」
「言い残すのはそんだけか?チンピラ。あんまり調子づくんじゃねぇぞ。」
そう言いながら一人の兵士がローに歩み寄ってくる。その兵士は六将の一人、サチコと出会った狂戦士・タイガだった。白銀の鎧を身にまとい頭にはバンダナ、両手の指をボギボキと鳴らしながら近寄ってくる彼をローは観察する。
「俺は六将のタイガって言う者だ。最近の殺人騒動の主犯はお前か?」
「....さぁ?それを調べるのもお前らの仕事だろ。それよりも気になったんだが、お前の腰にあるその剣、見た目はいいが大したもんじゃねぇ。それに新品...使おうとも思ってない態度....いいね〜、お前は俺好みだ。ガガガッ!!」
「てめぇの趣味なんて知らねぇよホモ野郎。喋り方もそうだが態度も気に食わねぇ。イラつくんだよ、てめぇ....」
そう言うのと同時にタイガは魔力を帯び始める。まるで炎のような威圧感と危険さ、それを前にしてもローの表情は崩れずニタニタしていた。
「ガガッ!やっぱり思った通りだ!隠し事は苦手か!?」
「黙っとけボケ。死んどけやチンピラぁぁ!!」
怒号と共にタイガは地面を蹴りあげる。魔力を帯びたその脚力は瞬時にローとの間合いを詰め、大きく拳を振りかざす。ローはニヤけたままそれを両腕でガードするが、タイガの攻撃も凄まじく、ローは下級国民宿舎の目の前にある家の壁に激突。
そしてタイガはそのまま追い打ちをかけ、砂埃で見えなくなっているが迷わず突っ込み、ローがいるであろう場所目掛けて拳を振り下ろす。
それと同時に砂埃からローが飛び出し、家の屋根上に着地。頭から流れる血を手で拭い、舌で舐めとった。
「ガガッ!悪いが敵地で暴れまくる程馬鹿じゃないんでね。お前とは楽しい殴り合いが出来そうだ....顔、覚えておくぞ。」
ローは自分の魔法で姿を透明にさせながらそう言い残した。ローが姿を消したことに慌てている兵士の一人にタイガはつかみかかった。
「何ボーッとしてる!!早く探知しろ!!」
「は、はい!!...あ、あそこです!屋根を渡りながら移動しています!!」
「ちっ....お前ら!俺についてこい!!あのチンピラ追い込んで必ず確保する!!」
タイガは探知要因である兵士の腰を掴み、家の屋根に飛び移る。そして兵士の言う場所目掛けて屋根を渡り走り、残りの兵士は下からタイガのあとを着いていく。
その様子を壊れた窓から見ていたエンス。身体が軋むように痛み、切れた唇を痛そうに拭った。
「いててて...取り敢えず奴は行ったよ。もう大丈夫だ。」
初めてきた時とは見違える程荒れている部屋、大の字になって倒れているノトレムはレイナが、リーヤはサチコに回復魔法をかけて傷を癒している。
ノトレムの方はダメージが大きいのか、回復魔法で癒されているものの呼吸が荒く汗が滝のように流れていた。
かと言ってリーヤもダメージの蓄積で辛そうにしており、サチコは罪悪感を抱いている。
「ごめんリーヤちゃん....ちゃんと拘束できなくて、逃がしちゃって...」
――もう....自分が情けなくて仕方がないよ。折角動きを封じたのに私が不甲斐ないせいで....今ならムルガさんを逃がして落ち込んでたノトレムさんの気持ちが痛いほど分かる...
緑色の粒子に包まれながらも、彼女の顔色は暗くなっていく。自分のせいで逃した責任に押しつぶされそうになっていたが、リーヤはゆっくりと頭を横に振った。
「ううん、そんな事ないよ。サッチーは最善を尽くしてくれたよ?ウチらが倒せなかったアイツをサッチーが封じてくれた、あのままだったらウチらの誰かが死んじゃってたかもしれない。サッチーのおかげでウチらは生き残れたんだよ?」
「で、でも...」
「でもじゃないの。サッチーが動いてくれたおかげで生きてるのは事実だし、あんなヤバい奴の動きを封じただけでも凄いことなの。ここにロアっちがいたらきっと目を丸くするよ?見てみたかったな〜。」
辛そうにしつつも笑を零し自分を励ましてくれる、歳は自分より下にもかかわらず人として立派なリーヤにサチコは感謝し、責任による重圧も幾分か楽になる。
「....確かに、見てみたかったかも...」
「でしょ!?いつも無表情で人形見たいなロアっちがキョトンとしてる姿絶対に可愛いし面白いよ!あ、ギルドに帰ったら真っ先に報告しようよ!それだけでもビックリしそうだな〜。」
「....うん!」
お互い笑顔を向け合い、回復が大方終わったらサチコがリーヤに魔法をかけて傷を癒していく。
――う〜ん....いい雰囲気になって楽しかったのに、魔法を使うってなったら誰かを憎まなきゃならない。本当に不便だな〜。
改めて自分の魔法に嫌気がさすサチコ。だが、これのおかげでグリムや今回の魔人・ローとの戦いで生き残れたのも事実、複雑な思いに包まれるのだった。
リーヤの回復も一段落つくと、今度はノトレムの回復に移った。レイナの回復魔法があまり上手くいかず、三人がかりでノトレムを癒す。
サチコはエンスの方を回復させようとも思ったが、本人は否定し、「かわいい女の子に回復させてもらうなんて贅沢だな」とセクハラ発言をして追い返した。
三人がかりというのもあってノトレムの呼吸も収まり楽になっていく。彼は各々に感謝と謝罪を言って回っていた時、部屋の扉が勢いよく開いた。
部屋の前には三人の白銀の兵士。中心にいた人物は五人を睨みつけ、部屋に入ってくる。
「お前ら、さっきの奴と何か関係してるだろ?色々と話は聞かせてもらう。言いたくないなら言いたくないでたっぷり遊ばせてもらうぞ?ククク...」
兵士は不気味に笑うと、振り返って他二人の兵士に指示をする。
「おい、ここの下級国民共は俺が相手をする。お前らはこの宿舎内を徹底的に調べろ。
まぁ帝都にわざわざ来る下級国民は殆どいやしないから、宿全体ガラッとしているだろうが、誰が泊まっているのかも把握しておけ。宿に泊まってない奴が潜んでいるかもしれん。」
「はっ!了解しました!!」
二人の兵士は敬礼を行うとすぐにその場を離れていった。部屋に残っている兵士はしばらくすると歩をゆっくりと進めてくる。
下級国民の扱いを知ったサチコは口の中に溜まった唾を飲み込む。頼りある仲間がいるが、上級国民であり兵士には手出しが出来ないのは理解していた為、何を聞かれ何をされるのかサチコは恐怖する。
「.......と、まぁこんな感じっすかね。いや〜お久しぶりっすエンスさん、ノトレムさん、リーヤさん。」
先程の重々しい雰囲気が嘘のように消し飛び、兵士はヘラヘラ笑いながら軽い口調で話す。ポカーンと口を開けるサチコとレイナだが、他三人は兵士同様に笑みが零れる。




