表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/338

魔人の襲来③

 リーヤとノトレムはお腹を中心に上に居るものに押しつぶされそうになるが、エンスは腹に集中的に圧力を感じる。お腹から胃液で無いものが混み上がってきて吐き気と苦痛で満たされ、視界と思考がチカチカと小さい花火を照らす。



 ――や....ばい...ね〜。このままじゃ...死んじゃう........面倒な事になるけど...やるしかない...一番奴に近い僕が...



 充血した顔も青ざめてくるエンス。苦痛に意識を吹き飛ばされないよう耐えながら魔力を上昇させる。そのスピードは首輪を気にしたものではなく、全力を意識したもの。首輪の限界を保って勝てる相手ではないと判断したからだった。


 しかし、急上昇を見せていた魔力がピタリと止む。それと同時にローの浮かび上がらせた笑みも消し飛び、頭に銃口を突きつけられているかのような悪寒が走り、顔を上げる。


 ローの視界には一人の少女が自分に飛びかかっていた。頬を叩かれただけで何も出来ないと確信していた灰色の制服を身に纏う臆病な少女は、自らを奮い立たせ、腰に携えた短刀を手にして斬りかかってくる。



 ――いつまで守られてなんかいられない!皆が危ないのに何も出来ないのは絶対にヤダ!私は....復国軍の一員なんだ!!



「やあぁぁぁぁぁ!!」



 サチコはそう叫びながらローに銀色の刃を振った。だが、その刃はローの頬にかすり傷を負わせる程度に終わり、サチコはその場で転げる。

 しかしすぐに立ち上がり、再び彼に向かって斬り掛かる。


 だが、そんな素人丸出しの攻撃が二度通用する訳もなく、ローの掌底は彼女の頭を捉え、床に叩き付けられた。



「ヴッ!...ググ....」

「危ねぇな...ちっ、何も出来ないと見せかけて不意打ちとは性根が腐ってんなぁ〜?正々堂々と対面して戦おうとしねぇのか?ま、失敗に終わった今ではどうでもいいがな。お前も串刺しにしてやるよ、ガガッ!」



 そう言ってローは鼻血を滝のように流すサチコに手を伸ばす。だが、その手はサチコの髪に触れる直前でピタリと止まった。動画の一時停止のように綺麗に止まった手にローは力を込めるが、プルプルと痙攣するだけで彼女の髪には届かない。


 そこでローは全身に黒い血脈のような線が張っていっているのに気が付いた。斬られた小さな傷口から無数の黒い線がミミズのように這い回り、ガッシリと全身を包んでいく。



「な....こ...れは....」



 血管を浮かび上がらせながらも何とか動こうとするが、痙攣するだけで自由を得られない。そんなローをサチコは漆黒の瞳で睨み付けていた。



 ――この人に不運の呪い(アンラッキー)は使えない。使ったらみんなを巻き込んでしまう。だから、私が使ったのはあの時グリムにやってみせた拘束魔法...名付けて



拘束の呪い(ヘイトリストレイント)....だ!」



 そう言い放つのと同時にサチコは思い返した。

 レイナは自分と同じく感情型、霧の攻撃で相手を翻弄出来るが、強めの魔法を使うとなると自分の血液を与えるというひと工夫が必要だった。

 その情報とグリムに魔法をかけたことを組み合わせると、サチコの魔法は相手を傷付けることでかけることが出来ると推測、読みは的中した結果だった。


 ローが拘束されると、踏みつけられる圧力が収まる。その隙に三人は脱出し、ノトレムは背中、エンスは左腕で対称にリーヤは右腕を掴んで床へ抑え込む。


 痛みと言うより悔しさに声を漏らすローだが、三人の拘束どころかサチコの魔法すら解けずにいた。

 サチコは流れ出てくる鼻血を抑えながらフラッと立つと、丁度目があったエンスは白い歯を見せて彼女に微笑んだ。



「ありがとうねサチコちゃん。助かったよ〜。」



 その言葉にサチコの身体に巣くっていた痛みは取り除かれていく。その言葉がまるで身も心も浄化してくれるような感覚、サチコは歓喜のあまり思いっきり頷いた。

 誰かに認めてもらいたい、誰かを救いたい、そんな思いがまた一つ報われるのだった。


 すると、ノトレムが息を荒くさせながらエンスに話しかける。実質彼が一番ダメージが大きく、疲労困憊なのは見てわかった。



「エンス君...どうする?この人...」

「決まってるでしょ〜?この人について殆ど情報ないんだから、一旦連絡入れて僕らの同士を連れてくる。収容所に入れて、時間をかけてもいいから聞き出すしかないね〜。帝国軍に預けていいのかどうかもわからないし....」



 ここで言う"同士"とは復国軍のことを指しているのはサチコでも理解出来る。当然二人にも伝わり、ノトレムはこくりと頷き、ローの首に手をかけた。



「苦しいかもしれないけど、我慢してね。本当は段階三・電気(レベル三・スパーク)が良いんだけど、首輪が発動しちゃうからね。」

「ガ....ガガッ...ついさっきまで....殺そうとしてきた奴に.......随分優しいじゃねぇか...なら....この拘束を解いてもらった方が....いいんだがな?」

「それは出来ないのはよく分かってるでしょ?君みたいな危ない人は放ってはおけないよ。大丈夫、大人しくしてれば命までは取られはしないから。」

「そうか....解いてくれないか...なら....自分から....解くとするかな?」



 小さい声でそう呟くのと同時に、ローは急激に魔力を上昇させる。その高まるスピードと膨大していく魔力は帝国軍を意識したものではなかった。



「の、ノットー!急いで!!」



 危機感を感じたリーヤはそう叫び、ノトレムはそれに応じて思い切り首を締め付ける。だが、首を絞められてもローの魔力は止まらず、血管を浮かび上がらせながら強引に身体を動かそうとする。

 サチコの魔法が徐々に引き剥がされ、気を失う前に解放した右腕で、リーヤを振り払ってノトレムの頭を殴る。



「グッ!」



 ノトレムを引き離すと、すぐさま取り押さえようとするエンスにカウンターの要領で腹に強打。崩れたエンスを他所にローはゆっくりと立ち上がり、雄叫びと共に魔力を解放、サチコの魔法は完全に解き切る。



 ――よ、弱めてはいたけど、私の魔法が!それに、何なのこの人!?魔力が大きすぎる!!



 ローの発する魔力はこの世界での経験が薄いサチコにも分かる規格外の大きさ。そしてこの世界で生きてきた三人にとってはこの者の実力が半端では無いのを確信させた。


 深呼吸すると、ローは凄まじいスピードで三人を殴り飛ばした。台風のように繰り出される攻撃と殴り飛ばされる仲間達、まるで天災のようだとサチコは瞬間的に感じる。

 そしてその暴力の嵐はサチコにも訪れ、気がついた時には壁に激突、その後すぐにお腹に強烈な痛みが走り、悶絶した。


 四人がローを中心に倒れ込み、まるでオーバーヒートした機械のようにローは魔力を帯びて荒れている息を整えていた。


 口から吐血し、汗で顔を滲ませながら倒れ込んでいたエンスは辛うじて声を上げる。



「ゴホッ....い、いいのかい〜?そんな暴れて...帝国軍に狙われちゃうよ〜?」

「ガガッ!そんなことを気にして捕まったら元も子もないだろ?それに、この状況は別に悪くねぇ。俺の依頼はあの女を殺す事だが、理由は邪魔立てされるからだ。

 帝国軍からしたら、俺が殺人鬼のように感じるだろうし、そうならなくてもここまで暴れる俺にお前らは関係していると見る筈。てなると、お前らは自由に動けなくなるよな〜?」



 ローはエンスに唾を吐き捨てると、壊れた窓に飛び移り、振り返る。



「じゃあなお前ら。次会った時は制限なし、全力で戦ってみような〜。ガガッ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ