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魔人の襲来

「...ガガッ!良いね〜、女同士楽しそうで何よりだ。」



 サチコの幸せな空間は、唐突に聞こえた男の声で切り裂かれる。奇妙な笑い声にドスを効かせる低い声、初めて聞く声に三人は一斉に同じ方向に目線を向ける。


 その声はレイナの背後にある窓から聞こえた。目を向けると、窓には一人の男性が窓枠をハンモック代わりにするかのように座っており、三人をギラついた目でニヤニヤしながら見ていた。


 髪は何本も束ねて編み込み、後頭部へ流れるようにしているコーンロウスタイル。根元からは黒色で、脳天辺りからは金色に染まっている。側面は薄く髪を残し、日本ではそうそうお目にかかれない髪型をしていた。

 眉毛は薄く、目はまるで猛獣のように鋭く、その目力だけで他を威圧出来てしまうような迫力。

 そんな目に合わさって顔や身体付きもゴツゴツとした骨格で、首や二の腕などが丸太のような頑丈さを有しているのは目で見て分かる。


 その膨張した筋肉のせいなのか、着ている黒光りするコートとそれに合わせたズボンも筋肉を浮かび上がらせていた。



 ひと目でわかる危険な人物。当然見たことも無い人物だが、サチコは復国軍の人員じゃないかと思いリーヤに目線を向けようとする。

 すると、リーヤはサチコの元をすぐに離れ、レイナの腕を掴んでその男から離れさせると、サチコとレイナを庇うかのように二人の前に立ちはだかる。


 リーヤのこの行動はサチコの浮かび上がった疑問の答えには十分だった。


 男はゆっくりと窓枠から部屋に降り立ち、三人に見せつけるように右手を前に出し、ゆっくりだが力強く指の関節を曲げる。まるで重機械を連想させるような動きを見せると、指鳴りが威嚇のように部屋に鳴り響いた。



「でも...そんな会話で大丈夫か?もっとあるだろ、話さなきゃならないことが...なんせ、人生最後の会話になるんだからな。ガガッ!」



 魔力はなくとも伝わる威圧感に熱い闘気は部屋の空気を重くさせ、いつもより重力の重さを実感するような身体のだるさを感じ、酸素も薄く呼吸が荒れる。

 そんな状況に耐えつつ、額に汗を滲ませてリーヤは会話を試みる。



「あんた...一体誰!?ウチらに何の用!?」

「戦闘も出来なさそうな貧弱な女に言っても仕方がないんだが...まぁ、この事を誰かに話すってなったら....


 "魔人に襲われた"と言っておけ。」



 魔人というワードが出て、この人物の正体が分かるのではとサチコは期待するが、リーヤの反応はイマイチでパッとしていないのは見て分かる。


 

「は?魔人?何それ...聞いたこともないんだけど。

 あと、戦闘も出来ない貧弱って...手合わせした事も無いくせに何がわかるって言うの?」

「確かに....お前は違うようだな。ほんの少しだけは楽しめそうだが、その後ろの二人は言うまでもないだろ?戦闘慣れしてないのは明らか、俺が目の前にいるにも関わらず、虫のように隠れてるんだからな。」



 男は鼻で笑いながらそう言うと、レイナの席に置かれていた表面が石のように硬い木の実を手にする。

 開けるのには小さな刃物を要し、殻と殻の隙間から徐々に切り込みなど工夫をしなければ食べれない実を、その男は口に放り込み大胆にも噛み砕く。



「俺と対峙した奴らは全員、自信と身体を今食ってる実みたいに粉々にしてやったよ。そんな俺と...殺り合うってか?タイマンでこの俺に勝てると思っているのか?」

「まぁ無理なんじゃない〜?でも〜、三人ならわけないかもよ〜?」



 背後から聞こえる聞き慣れた声、サチコは勢いよく振り向くと、部屋に入ってきたエンスとノトレムが立っていた。



「え、エンスさん!ノトレムさん!な、何で」

「やぁやぁサチコちゃん〜。リーヤちゃんから個性魔法(オリジナルマジック)の緊急合図を受けてね〜、違和感は部屋が離れてても分かるくらいだったから、すぐ飛んできたんだよ〜。」



 ――そ、そうだったんだ。リーヤちゃん、全然魔法使ってる感じなかったし、あんな怖そうな人を前にしてよく咄嗟に....



「で、僕ら全然状況理解出来てないんだけど〜。リーヤちゃん、その人誰〜?僕という人がいながら浮気は良くないな〜。」

「今ふざけてる場合じゃないでしょ!?それにウチらだって知らないよ!!突然部屋に入ってきたんだから!」

「え〜?それは許せないな〜?女性のプライバシーを侵すような男はモテないよ〜?

 ま、取り敢えず、君の目的を聞こっか。誰だか知らないけど〜。」



 思い切り自分にはね返る言葉を言い放つエンスをジト目でサチコは見るが、すぐに男の方へと目線を向ける。

 男は顎に手を置きながら、買い物で商品を見るかのようにして現れた二人を品定めしていた。



「....ガガッ!俺は魔人・ロー、表立てしない人間にはそう呼ばれてる。勘違いしないで欲しいんだが、俺は黒爪(ブラッククロー)なんかじゃねぇ。集団行動はそんな好きじゃなくてな、余っ程の理由じゃないとしない。

 俺は個人で依頼を受ける...言うなら個人ギルドみたいなもんだ。」

「へぇ〜そうなんだ〜。じゃあここに来たのも誰かの依頼って訳だ〜。こんな貧弱な下級国民に何の用だい?」



 そう聞かれた魔人・ローはニヤッと笑いながら太い指でレイナを指差す。レイナは指を向けられてビクッと身体を跳ねさせ、困惑していた。



「お前の愛しのムルガ君からの依頼でな。『帝都に来たは良いが、俺の邪魔をしようとしている。始末してくれ』と言われていてな。」

「う、嘘よ!!ムルガ君が私にそんなことを言う筈ないじゃない!!彼は私を必要としてくれてるからここに呼んだ!彼は私を愛してくれてるの!!」

「嘘なんかじゃねぇよ、重てぇ勘違い女が。じゃあ聞くが、そんなムルガ君は何故お前の目の前に現れない?そして俺みたいなのを寄越す?言葉にしなくても結果は出てるだろ。ガガッ!」

「そんな....そんなの...」



 レイナはその言葉に落胆し、力無く座り込んでしまった。顔から生気が失われ、辛く泣きそうになっていた。サチコはそんな彼女に近寄りるが、悲しそうな彼女を前に何も言えなかった。


 すると、後ろにいたノトレムは前に立ち、拳を握りしめて対抗しようとしてきた。

『そんなことは絶対にさせない』と言わんばかりにローを睨みつけ、大きな歯を食いしばる。


 そんな彼に対して、ローはニヤッと笑うとノトレムを指差しながらゆっくりと歩み寄ってきていた。



「邪魔をしない方が身のためだぞ獣人。俺の目的はそこの痛い女だけだ。大人しく壁の隅に立ってりゃ無傷でいられると約束しよう。ただ、手を出そうってなら、無惨に死ぬ。イザゼル帝国の下級国民なら尚更勝てる見込みはないだろ?」

「下級国民なんて関係ないし、君のやろうとしてる事を認めたくもない。だから絶対にどかないよ。それに、君はムルガ君から依頼された...なら、彼の居場所を知っていてもおかしくないでしょ?僕らは、彼に話があるから。」



 ローが近付いてきてもノトレムは一歩も引かず、銅像のようにその場に居続けた。それを見てローは立ち止まり、腰に手を当てながら天井を見つめた。



「まぁ〜...そうだな。俺は奴の居場所を知っている。だが、だからなんなんだ?もしかして俺を倒そうだなんて思っているのか?獣人と言えど下級国民に留まってる雑魚に俺が負けるとでも?」



 嘲笑うように言い放つローの反応にサチコは内心ガッツポーズを決めていた。



 ――よし!この人はノトレムさんの実力を知らないんだ!普通、あんな凄くて強いノトレムさんを見て『下級国民に留まってる』なんて発言は出来ないはず!!それなら絶対に大丈夫、頑張って下さいノトレムさん!!



 まるで自分の事のようにサチコは誇りらしく思い、目で言葉を発しないエールと期待を伝える。

 エンスとリーヤ、そしてノトレムまでもがサチコと同じ考えだった。

 昨夜のノトレムの実力を知っていての態度だったら青ざめる場面だが、そう出なければ思わず笑みが零れる。逆ドッキリを仕掛けられている人物を小馬鹿にするようなノトレムの笑みは、ローの顔をピリつかせる。

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