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新たな二人

 サチコは何回も頭を下げ感謝の言葉を述べながら通っていると、目の前に教会で保護されサチコが相手していた子供たちが群がってきた。


 その光景に目を丸くしていると、サチコの元へ一人の少女が近づき、ギュッと抱き締めた。



 「サチコお姉ちゃん...もう行っちゃうの?まだ遊ぼうよ....」



 すると他の子供たちもサチコに群がりその小さい手で服や足に抱きついてくる。

 サチコは動揺していたが、すぐに目頭が熱くなり静かに涙を流しながら何度も頷いた。



 「 ...ごめんなさい....でも、絶対また帰ってくるから...その時はまた遊ぼうね...」

 「うん、絶対だよ....」



 子供達は暫く抱き着いたままだったが、周りの村人に促され離れていく。中には泣いている子もいてサチコは申し訳なさと嬉しさで心がごっちゃになる。


 一人の村人の合図で木の正門がゆっくりと開く。すると見てくる一人の人物。


 その人物は人間ではない。しかし、人としてカウントしないかと言えばそうでもないと初見な筈のサチコは感じる。



 二本足で大地を踏み、二本の手があり目や鼻口がある。シルエットで見れば人間だと言えるだろうが、実際目の前にするとやはり人間とは似て非なる存在。



 白色のズボンの股下はまるでスカートのようにダボっている現代で言うガウチョパンツ。臍の上程までしかない茶色の上着を身につけ、サイズが小さいのか胸が大きいのかピッチリとしている。


  しかし、靴や手袋というものは身につけておらず、鋭く黒い爪が強調される赤い体毛に包まれた四肢が強調される。

 手足だけでなく、晒されている腹も赤い体毛が生え揃い、中心には上に目掛けて白い体毛が伸びる。そして顔も当たり前のように獣のような体毛だらけ。中心は白で周りは赤。


 人間のように腰まで伸びる赤い髪はあるものの、頭の上には二つのキツネのように綺麗で立派な耳を立たせ、犬のように鼻と口は顔のラインから飛び出し、光が反射するくらい綺麗に磨かれた鋭い歯をチラつかせる。目も人とは違い、目は金色で中心には縦に黒い瞳孔がある。



 教会でこの世界の歴史を調べたのなら必ず出てくる存在だ。この世界で個体数は少ないものの珍しくはない存在、人間ではないが人として接することが認められている存在、獣人。

 目の前にいる狼のような獣人の女性は文字通り燃え盛るような獰猛さを感じられる姿をしているが、門の前に立っていたその人物はこちらを警戒したり嫌悪するわけでもなく、ただ何となくボーッと腰に手を当てて立っていた。


 その姿形は違えど、サチコの目には普通の人間のように一瞬映った。

 


 「あ、ステアさん。珍しいですねステアさんが来るなんて。出迎えにはラー君かロアさんかと思いましたが」

 「ロアはちょっと先に止めてある馬車で待ってるよ。私も出迎えはかったるいな〜って思ってたんだけど、狭い馬車で男がいるのはどうかってバルガードが。ラーズも珍しく行きたがってたんだけどね〜。

 あ、もしかして....この子が例の?」



 ステアと呼ばれる獣人の女性はサチコを指さした。サチコは身体に響き渡る心臓の鼓動を感じながら、何とか口を開けた。



 「あ、あの...前田....あ!えっと、サチコ・マエダです...これきゃらよろしくお願いしましゅ!」



 サチコは女性と目を合わせることが出来ず、顔を真っ赤にしながらスカートを両手で握っていた。




 ――何やってんの私! 全然ダメじゃん! はぁもうヤダ...絶対キモいって思われてる...穴があったらいっそ入りたい....



 恥ずかしさと後悔が過り、心に黒いモヤがかかろうとしていた直前、女性はキラキラと目を輝かせてサチコに抱き着いた。



 「可愛いじゃぁ〜ん!何この子!めっちゃ初って感じするわ〜!服も最高にキマッてるし、肌もスベスベだわ!はぁ〜私絶対この子可愛がってやるわ〜!!」



 女性はサチコの頭をガシガシ撫でながら大きな胸元に顔を引き寄せた。サチコは大きな柔らかさと、優しく愛撫するかのような体毛に癒しを感じるのと同時にその圧力の耐えきれず、息も出来なくて何とか引き離そうとするが女性の力は機械のように強かった。



 「ちょ!ステアさん!サチコさんが死んじゃいますって!!スキンシップは程々にして下さいよ!」

 「え?あぁゴメンゴメン。何かテンション上がっちゃって」




 女性が力を緩めるとサチコは少し距離を置いて荒ぶる息を必死に整えていると、目の前に手がさしのべられた。



 「自己紹介が遅れたね。私の名はステア・ロベリング。これから宜しくね〜サチコ」

 「あ、はい。よ、よろしくお願いします....」



 サチコとステアが握手を交わすと、ステアはニコッと微笑んでくれた。



 ――何か凄い元気な人だな...シアラさんも信用してるっぽいし、悪い人じゃなさそう....



 「うん。あ、忘れ物とか大丈夫?ここにすぐ取りこれる距離じゃないから、身支度はしっかりとね」

 「あ、大丈夫です。一応、纏めてはあります...」

 「おっけー。それじゃあ早速行こうか。ロアも待たせてるし....あ、ロアっていうのは私達のメンバーの一人なんだ。後で紹介するよ」



 ステアはサチコの背をポンポンと叩きながら村を離れ始める。それに釣られてサチコもシアラに着いていく。




 「サチコさん!お気を付けて!!辛くなったら何時でも私を頼りに来てくださいね!?一人で抱え込まないでくださいね!!?」



 シアラは離れゆくサチコに向かって大きな超えで呼び掛ける。サチコは振り向き、今までの感謝を込めながら頭を下げた。




 村の門が閉まり、ようやくナルテミ村との別れを強く実感させられる。サチコは振り向くことはしなかったが、悲しさを感じて早くも帰りたいと思ってしまっていた。

 それはもしかしたらこれから始まる新しい生活に不安を抱いているかもしれなかった。



 「...緊張してる?サチコ」

 「へ?あ、えっと....そうですね。自分何かが上手くできるかって不安で...」

 「まぁそうだよね〜。でも、そんなカチコチにならなくて大丈夫だよ。メンバーの皆良い奴らばっかだし、すぐに打ち解けれるよ。まぁ、ロアはちょっと一癖はつくけど....あ、ほら。噂をすれば、アイツがロアだ」



 ステアの指差す方向には木に隠れていた馬車と一人の人物が待っていた。


 髪の毛を乱雑に切ったような短い銀髪、大きな目をしており、口元は小さく人形のような女性がそこにはいた。

 全身を包隠せる程の灰色のローブを被り、その内からは黒や白が入り交じる服を着ていることしか分からない。


 女性の両手は肌すら見せない厚そうの黒い革製のグローブを身につけ、臍辺りでギュッと握ており、まるでメイドが主人を迎え入れるような感じだが、顔は無表情。それこそ人形と思える感情を感じられない表情にサチコはステアの説明も加わり、不気味にも思えていた。



 「サチコ、紹介するよ。コイツはロア。基本的には戦闘ってよりかサポートや密偵って感じの仕事してるよ。

 ロア、この子が例のサチコ。私の見解だと大丈夫だとは思うんだけどね」

 「それで完全に信用することは出来ません。ですが、参考までに抑えておきましょう。

 ロア・ゼルターと申します。以後、お見知り置きを」



 この世界に来てからフレンドリーな人物ばかり出会っているせいか、現代のような素っ気ない対応にサチコは深く傷付いてしまう。



 ――うっ...今にでも逃げ出したい...だ、だけど我慢しなきゃ...私は生まれ変わるんだ。この人に認められるようにならなくちゃ。



 「さ、サチコ・マエダです!その...よろし」

 「貴女の名前や基本情報は既に把握していますので自己紹介は結構。話は馬車の中でも出来ますので、ここで長々と会話をする必要性はありません。

 移動しましょう。ご乗車下さい」



 ロアはバッサリと切り捨てるように言うと、馬車のドアを開けてさっさと中へ入ってしまった。

 サチコは自分の誠意を踏み躙られたロアの行動に心底傷付き、涙を流しそうになる。



 ――あれ? おかしいな..なんでこんなにショックなんだろ?日本に居た時は毎日のようにクラスメイトにされてた筈なのに.....慣れきってたと思ってたのに...



 サチコが唇を噛みながら目から出そうな涙を必死に堪えていると、ステアはポンポンと背中を優しく叩いてくれた。



 「大丈夫サチコ?ごめんね、ロアはあんな奴なんだ。まぁ、悪気は無いはずなんだ。許してやってくれない?」

 「....はい」

 「うん、じゃあ馬車に乗ろっか。中で色々話もある事だし」



 サチコは背中を手でさすられながら馬車へと近付く。馬車の中は前と後ろで分けられており、前に座っているロアは馬の二本の手綱を握り、乗車してくるサチコをジッと見ていた。


 サチコは反射的に目を逸らし、なるべく目を合わせないように何度も小さく頭を下げながら申し訳なさそうに乗車。

 ステアはサチコの後に乗り込み、ドカッとため息を吐きながら馬車内の長椅子に腰を掛けた。


 全員が座ったのを確認し、ロアが手綱を操作。ゆっくりと馬車が走り出した。

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