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幸福感

 サチコも同じ感じだった。だが、リーヤとは違い人との接し合いに慣れていない彼女は、そっとしておくという判断はできない。何かしら言葉を発し、些細な事でも助けなければという答えしか思い付かなかった。



「れ、レイナさんはそんなダメな人なんかじゃないです!レイナさんは優しいし、ちゃんとしてるに決まってます!」

「いいのよそんな...変に慰めようとしなくたって。そもそも、私と貴女は今日初めて会ったんだから、お互いのこと全然分からないじゃない。」

「それでも絶対違いますよ!レイナさんはこんな私にもちゃんと接してくれたし、気遣ってくれたじゃないですか!

 ....大切な人が変わっちゃうのは良いのかどうなのかって分からないですけど、でも!その人の為にここまで行動するレイナさんは絶対ダメな人なんかじゃないです!!私...凄いって本気で思ってますから!」



 サチコの必死な発言にレイナはフッと笑を零した。だが、それは先程までの辛さはなく、スッキリとしたような表情へと変わっていた。



「....ありがとう。そう言って貰えると、少しは助かる....かな?」



 その答えにサチコは安堵する。変に傷付けずに済んだと思いホッとし、『出しゃばった発言してすいません』と言わんばかりに小さくペコペコと頭を下げて席に座った。


 そこからは会話はなかった。何となく気まずい雰囲気が漂い、会話も食事も進まない状況。

 そんな空気感が気持ち悪く、リーヤはスっと立ち上がり大きく手を鳴らした。



「は、はい!これでもう暗い話は終わりにしよ!!さっきから全然食べれてないし、もっと楽しい三人とも共感できるような盛り上がる話しようよ!!

 えっとそうだな〜...好きな人のタイプとかどう!?はい!じゃあまずウチから言うね!!」



 リーヤは挙手をしながらピョンピョンと跳ね、二人の注目を集めた。少し強引で無理矢理感があるが、リーヤの思いは二人に伝わり、互いに顔を見合わせてクスッと笑った。



「ウチの好きなタイプは〜....カッコよくて〜優しいくて〜あと...私を甘やかしてくれるような人かな!膝枕とか自然にしてくれるみたいな感じがいいと思うんだけど、どう!?」



 リーヤは目を輝かせながらバンバンと机を叩き、二人の顔を見渡す。すると、レイナはクスクスと笑い始め、リーヤはキョトンとしていた。



「フフッ....リーヤさんは分かりやすいわね。その人って昼に貴女と喧嘩みたいな事をしてたあの人でしょ?」



 レイナが言っている人物がすぐにエンスの事だと分かったリーヤは首を全力で横に振りまくった。



「ち、違う違う!!あんな変態で気持ち悪いやつなんかじゃないよ!!勘違いしないでよレイレイ!!」

「ん?でも彼は結構気軽に膝枕とかしそうじゃない?仲も良さそうだったから、てっきりそうなのかと思ったんだけど。」

「全然そんなんじゃないし、全ッッッッ然仲良くなんかないよ!サッチーもなんか言ってあげてよ!!」



 リーヤはサチコの肩を揺さぶりながら助勢を求めるが、彼女は困ったような笑いをするだけだった。そんな彼女にレイナは頬杖をして微笑みかけた。



「...サチコさんはそういうタイプってあったりする?」

「へ?わ、私ですか?」



 ――そう聞かれても....まだ男の人に襲われたの怖いし、付き合うとか好きとかそんなのはまだ考えられない。それにこんな私と真剣に付き合ってくれる人だったらタイプとか気にするのは傲慢で失礼だし...

 でも、強いてあげるんだったら...



「....優しくて何事も一生懸命な人が..良い...ですかね?」

「あ、それ分かるよサッチー!やっぱ好きな人が頑張ってると応援したくなるし、そういう人って信頼できるよね!浮気とか絶対しなさそうだし!」

「そ、そうかな?でも、私は別に拘りとか無くて、それじゃなきゃ嫌だって感じじゃないから....そもそも、私なんかと一緒に居てくれるってなら誰でも...」



 そう控えめに言うと、リーヤは首を横に振りながらバンバンと片手で机を叩いた。まるで人生相談を受けている親戚の人生経験豊富のお姉さんのようにサチコは感じる。



「ダメダメ!それ絶対ダメだよ!そんなんじゃ、気が合わない人と一緒になったら絶対に長続きしないって!ある程度合うような人じゃなきゃ!

 ま、でもサッチーがそれでも全然構わなくて、もし相手が見つからなかったら、ウチのお兄ちゃんでも貰ってあげてよ。」

「あ、リーヤちゃんお兄さんがいたんだ。」

「ん?あれ、誰かに聞いたりしてない?ウチのお兄ちゃんはギルドにいるラーズって人だよ?あの無口な筋肉質の。」

「え!?ラーズさん!?!?で、でも髪色とか全然違う....」



 あまりにビックリして目を見開きながらプルプルと人差し指をリーヤに向ける。リーヤは指摘された髪を触りながら軽く答えた。



「まぁ、お母さんが違うからね。お父さんは一緒だから一応血は繋がってるのかな?異母兄妹って奴だよ〜。ほら、目元とか似てない?」


 

 リーヤは大きな目を人差し指で差しながらサチコに見せつけ、彼女も言われた通りに目元に注目してみる。



 ――あ、本当だ。言われてみれば結構似てるかも。でも、全然気が付かなかったな〜。髪色とか勿論だけど、性格とか真反対みたいな感じだから...



「言われてみればそうだね。そっか、兄妹だったんだ〜。それはそれは...」



 なんてリアクションをすればいいのか分からず、他人行儀のような返答をしてしまう。そんな返答を受けたリーヤは目を細めてサチコに顔を近づけ、サチコは訳もわからず焦りながら少し身を引いた。



「え?え?な、何?」

「う〜ん....妙によそよそしい....怪しいな〜。もしかしてサッチー、お兄ちゃんのこと狙ってるの?」



 そうリーヤに指摘され、サチコは顔を真っ赤に染める。身体の水分が蒸発してしまうような熱を感じながら、両手の掌を振り始めた。



「え!?ち、違うよ!!そんなんじゃないって!!」

「本当に〜??そんな感じじゃなかったと思うけどな〜?あ、もしかしてウチが反対すると思ってる?大丈夫大丈夫!サッチーなら全然応援するよ!あんな無愛想な人で良ければ全然貰ってっちゃって!

 あ、もし展開あったらウチに教えてね〜。」

「ち、違うよ!誤解だよリーヤちゃん!!」



 そんな慌てて否定するサチコに追い打ちをかけるかのように、レイナは新たに注いだお酒を飲みながらニヤニヤしていた。



「別に恥ずかしがる事ないわよサチコさん。好きな人を好きって言うのは悪い事じゃないわよ?素直になるのもいいんじゃない?」

「ちょ!レイナさんまで!!本当に違いますから!」

「レイレイの言う通りだよ、素直になってよサッチー。いい加減白状しないと〜....地獄みるぞーー!!」



 そう言うとリーヤはサチコに飛び付き、脇やら横腹をくすぐり始めた。くすぐりに滅法弱いサチコはリーヤの攻撃に耐えられず、大笑いしながら身体をくねらせて何とか逃げようとしてみせた。


 だが、そんなのはリーヤは許さず、引き剥がされてもすぐに別の所をくすぐって攻撃の手を緩めなかった。涙を流し苦しいくらいに笑っていたサチコは辞めて欲しいと思う反面、心の中は暖かい気持ちに満たされていた。



 ――こんなに大笑いしたのは初めて。それに、こんなに楽しい時間は今まで体験したこと無かった。友達と思える人とこうして過ごせる、まるで夢の中みたい。



 人との繋がりが怖かったサチコにとって、振り幅を効かせるように今の状況はとてつもなく幸せに感じる。まるで天国にいるかのような幸福感にサチコは包まれる。


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