表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/338

小話

 そこからは各々別行動になった。ムルガの住処が分からない以上、昨夜のように待ち伏せする他ない。犯行傾向を見越して昨夜のように動くのは明日か、エンス達を警戒してもう一日ムルガが様子を見ると読んで明後日にする予定とし、今日は情報整理だけで休むとエンスを中心に決まった。


 レイナはサチコとリーヤの部屋で寝泊まりすることに決まり、ベッドが二つしかないのでリーヤとサチコは一緒に寝ることに決まった。

 部屋自体は三人でも寂しく、軽く運動が出来るほどの大きさなので全く問題なく、他人と同じベッドで寝ることなど経験したことがないサチコは、まるで彼氏と初夜を過ごすかのようにドキドキしていたのであった。



 三人は特に外でも用事がある訳もないので、軽い話をして時間を潰していた。最初は少しぎこちない会話も時が経てば経つほど肩の力が抜けていき、会話を楽しむことが出来た。

 気が付けば日は暮れ、宿屋の人から食事が運び込まれた。


 パンやら何かのお肉、そして女性というのを配慮してくれたのか野菜が全体の半分を占めていた。

 この世界の歴が浅いサチコは目の前に拡がった食べ物はどれも新鮮、ひと口ひと口が幸せで小さい冒険をしているかのように感じた。


 食事と会話が盛り上がり、次第に笑い声が上がるようになった頃、サチコはふと自分の中で気になった思いをぶつけることにした。



「あ、あのレイナさん?聞いてもいいですか?」



 小さいグラスに注がれているお酒を飲んでいる所で話しかけられ、そっとグラスを置いて頬を赤らめながらサチコに目線を合わせる。同じ女性でも感じる色っぽさに少しドキッとサチコはしてしまう。



「ん?何?」

「その、レイナさんはどんな感じでこの世界に来たんですか?」



 その質問に先程まで輝いていた笑顔は電気を消すかのように無くなり、顔が暗くなっていく。せっかく盛り上がった所を邪魔してしまったと思い、サチコは慌てふためく。



「あ!す、すいません!!どうしてもって訳じゃないんで言いたくなかったら全然!!その....レイナさんみたいな新天地出身の人と会ったの初めてで、色んな共通点を知りたくて...」

「.......」

「こ、この世界に多分ですけどあと二人新天地出身がいると思うんです。だから、もし会えたら共通点を共有して、私達がなんでこの世界に来たのかちょっとでも分かるんじゃないのかなって....」

「...二人?何か当てがあるの?」



 そうレイナに聞かれたサチコは、以前ステアが話していたシアラの予言について説明した。彼女の予知魔法と東西南北に別れて現れる存在。その事を聞いたレイナは少し難しそうな顔をして考えていたが、続けてサチコは話す。



「わ、私は東の森にいました。だから、私と同じ新天地から来た人が他の方角に居るんじゃないかって思って....」

「........私は南よ。南のゾラマ砂漠ってところ。」

「マジ?あそこめちゃくちゃ熱くて装備整えないと死んじゃうような所だよ?レイレイ...よく無事だったね。」



 リーヤが勝手に付けるあだ名のような呼び名。レイナはそんな風に言われるのに違和感を感じつつも、お酒をひと口飲みながら話していく。



 閉じていた目を開くと、レイナは暗い洞窟のようなところに横になっていた。魔鉱石が青くその洞窟を照らし、石に囲まれた洞穴のような場所にいて、レイナは混乱する。

 何故こんなところにいるのか、自分の今の状況が見えず、その洞穴を抜け出し、風が吹いてくる洞窟の一本道をひたすら歩いていく。


 歩けば歩くほど熱気を感じ、ひんやりと寒さを感じる外からの風は熱風へと変化していく。

 洞窟の出口を抜けると、そこは熱風と砂が漂う砂漠があった。地平線を見ても何も見えず、聞こえるのは風と砂が舞う音、感じるのは尋常ではない熱気だった。


 日本にいた時に犯した自分の罪を罰するかのように、熱い日差しと熱気でレイナを蒸し焼きにして苦しめようとする。

 レイナはすぐに引き返して自分が目覚めた洞窟の奥へと移動し、そこで縮こまっていた。


 ここに居れば暑さからは身を守れるが、食料どころか水すらない。飢餓状態は避けられないが、一歩外へ出れば凄まじい熱気に苦しんで死ぬのは目に見えている。

 留まっても動いても待ち受けるのは死。どうしようもない状況にレイナは涙を流すしかなかった。


 結局レイナの判断はここに留まり、餓死で死ぬことを選んだ。外で蒸し焼きにされ、地獄の苦しみを味わうのが嫌だったからだ。


 だが、レイナは思いもよらない事態に陥る事となる。

 日が沈み夜になっていくと、洞窟の中は冷凍室かのように寒かった。歯をガチガチと鳴らして、寒さを通り越して痛みを感じる程の極寒。少しでも温まるようにと肌を擦ったり、着ていた衣服を工夫して全身を包み込んでみるがただの気休めでしかなかった。


 砂漠の夜は日中の暑さからは考えられないほど寒くなる。それこそ極寒、対策や準備をしていないと危険である。それに加えてレイナがいる所は砂漠の暑さを通さぬ洞窟、外より格段に凍えてしまうのだ。


 身体中に走る痛みはレイナの決意をすぐさま消し去り、彼女は外へ飛び出してひたすら歩いた。多少マシになったとはいえ外も十分に寒く、砂漠の砂に足を取られて体力も削られていく。

 白い息と小刻みに身体を震わせ、美しい星々に照らされた薄暗い先へと歩いていく。


 眠気は寒さで強引に消し飛ばされ、体力だけが問題だったがレイナは休憩することなく歩き続ける。日が出てくると、あの灼熱の空間に身を焦がされることになることは分かっていた。レイナは歩き続けなくてはならなかった。


 日が当たりを照らし始め、それが同時にレイナにとっては絶望的な光だが、その光のおかげで地平線の彼方まで更地だった景色に現れた小さな森を見つけることが出来た。



 砂漠の夜の寒さを耐えきり、何とかレイナは砂漠地帯を通り過ぎ、森へ侵入。

 気温的には天国のように思えたレイナ、ようやく地獄から脱出したかと思うと一気に身体の力が失われ、山道で無防備に気を失ってしまった。


 そしてそこで偶然通り掛かったムルガに救われ、レイナはムルガの家で過ごす事となった。新天地出身というのは信じては貰えなかったが、彼はレイナを快く受け入れ、レイナは彼の事を想うようになっていった。


 幸せな日々はあっという間、ムルガと過ごした長い月日の思い出は昨日の事のように思い返せるのであった。



 グラスに注がれているお酒を小さく回しながらレイナは静かに語った。辛さと悲しみを思い返し、少しながら魔力を帯びる。



「....私が話せるのはこの世界にいたまでの経緯だけ。日本に...新天地にいた時の話は話せないわ。」

「そうですか...でも話を聞けてよかったです。ありがとうございます。」



 サチコはぺこりと頭を下げるが、それは心のこもってない形だけのお礼。サチコは顔色を籠らせていた。



 ――大変な思いをされて、貴重な話をしてもらったけど、やっぱりどうやってこの世界に来たのかが知りたかったな〜。でも、そんな体験談を話してもらっただけで有難いし、これ以上求めるのはわがままだよね。レイナさんとはこれっきりって形にはしたくないし、色んな話を聞いてっていつか聞ければいいか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ