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レイナの魔法

 名を呼ばれたことに反応したレイナは飲んでいた水のコップをそっと置き、少し緊張気味にしていた。



「....何でしょう?」

「今までの君の話は一応信じて行動するよ。ただ、その信用を固める為に君の個性魔法(オリジナルマジック)を見せて欲しいんだ〜。」



 その答えにレイナは顔を曇らせる。パッとしていないのは火を見るより明らかで、サチコも何故魔法を確認することが信用に繋がるか理解出来ていなかった。



「エンスさん?それってどんな意味が...」

個性魔法(オリジナルマジック)はその人しか使えない魔法だからだよ〜。自分しか持ってない特権、言うなら自分の主力武器。

 もし、誰かと戦うってなって対策をするとしたら、個性魔法(オリジナルマジック)を主軸に策を練るんだ。だから基本的に個性魔法(オリジナルマジック)は誰しもバラしたくないって訳だよ〜。」

「じゃあ、そんな重大な情報と引き換えに信用を得るってことですか?」

「うん。そこまでの覚悟があるなら信用してもいいと思うよ〜。それに、もし変に心変わりして僕達を襲うってなった時に対応が早くなるしね〜。」



 エンスはそう話しながらレイナの目を見つめる。彼女は少し難しそうな顔をしていたが、すぐに顔は晴れてこくりと頷いた。



「分かりました。なら、少しだけ時間貰えませんか?まだ慣れて無いものですから....」



 そんなレイナの申し出にエンスは頷く。そして彼女は目を静かに閉じ、眉間にしわを寄せた。それは身体の中の魔力を集める作業というより、何かを思い出しているようにサチコは感じる。


 少しするとレイナの身体から魔力が伝わってくる。すると、この世界で生きてきたエンス達は驚きの表情を浮かべ、サチコはエンス達のように驚きはしないものの強い違和感を感じていた。


 レイナから伝わってくる魔力は、サチコが今までこの世界で感じてきた魔力とは質が異なっていた。

 例えるなら、木のハンマーと鉄のハンマーの違い。二つとも同じ形状をしているが、見てわかる鉄の頑丈さと破壊力。

 レイナの練り上げられている魔力は少ないものの、僅かな魔力だけで広大な海のような大きな規模を思い浮かべる。


 そんな彼女の魔法を目の当たりにして、サチコはふと感じていた事を心の中で呟いた。



 ――レイナさんの魔力....私と似てる?



 彼女の身体の周りは水色のオーラが備わって、美しい黒髪はオーラと同じく水色へとつむじから浸透していくかのように染まっていく。目をスっと開くと、綺麗な黒色の瞳だった彼女の目も同様に水色へと変化していた。



 そんな彼女を息を呑んで見ていた四人に向け、レイナは手をかざす。すると、掌から水色の霧がゆっくりと四人に向かっていき、その中のノトレムが霧に包まれる。


 心配そうに三人がノトレムを見つめると、ノトレムはビクッと身体が跳ね、何故かポロポロと涙を流し始めた。



「ノットー!?ど、どうしたの!?」

「え?あれ?わ、分かんないよ。分かんないけど、なんか凄く悲しくなっちゃって....」



 溢れてくる謎の涙に戸惑いながらゴシゴシと目を擦るノトレムを見て、レイナは微笑んだ。



「そのくらいのことで涙を流すなんて、貴方は凄く心優しい方なんですね。」



 そんな言葉にエンスは反応してニヤッと笑って彼女を見る。それは今までの人を小馬鹿にするようなヘラヘラした笑いではなく、新しい玩具を見つけた子供のようにその笑みからは好奇心が溢れていた。



「へぇ〜、これが君の魔法かい?凄く興味深いね〜。」

「はい。これが私の個性魔法(オリジナルマジック)です。私の感情を相手と共有する感じです。それとその...信じて貰えないかもしれないんですが、私はその....結構稀な魔法らしくて、体験や記憶で"哀れみ"を感じることで魔力を作る"感情型"と呼ばれてるんです。」

「え!?か、感情型なんですか!?私もです!」



 自分の魔力と似る違和感の正体、それが発覚した衝撃のあまり、先生に質問するかのように手を挙げて思わず立ち上がった。

 レイナもその言葉に目を丸くさせ、信じられないと顔で語っていた。



「え?本当なの?」

「はい。条件は違うんですけど、私もそんな感じで....魔力とかも結構似てるっていうか。」

「そう...貴女以外の感情型と出会ってないからハッキリとしないけど、もしかしたら転移してきた人の共通点なのかもしれないわね。

 それで....これで信用して貰えますか?」



 判断を促す発言を受けたエンスは腕組みをして少し悩んだような素振りを見せる。



「う〜ん...それ以外に何か出来たりすることはあったりするかい?感情を共有する以外の何か。」

「一応あります。感情共有くらいなら簡単に出来るんですけど、感覚共有みたいな魔力をもっと必要とするやつは私の血液を相手の体内に入れなきゃ発動しなくて....疑うのなら誰か試しに...」

「あ、それなら僕が」



 渋々聞いたレイナの言葉にエンスは素早く立候補。だが、リーヤが彼の頭を叩いたことによりそれは阻止された。



「エンス!あんた絶対今仕事モード解除してたでしょ!珍しいからって一気にキモイ思考に変わんないでよ!」

「え〜?なんでわかったの〜?やっぱ流石だな〜リーヤちゃんは。そこまで僕の気持ちが伝わるのは長年一緒に仕事してる賜物かな〜?あ、それとも僕の事が大好きだったり〜?」



 下から覗き込むように言い放つエンスの意地悪発言にリーヤは顔を真っ赤にし、腕をブンブン振ってエンスを叩く。



「そんなんじゃないし!マジキモイ!マジでキモイ!!」

「えぇ〜?ショックだな〜。僕はリーヤちゃんの事大好きなんだけどな〜?」

「うるさい!ガチキモエンスは黙ってて!!」



 力を入れて叩き続けるリーヤだが、エンスはニヤニヤと彼女の反応を見て笑う。それを見てリーヤもムキになり、ノトレムが裏で何とかしようと慌てていた。



 話しかけた本人が置いてけぼりになり、少し気まずそうにしていたレイナ。そのことに気がついたサチコは頭の中で慌てて文章を作成し、レイナに話しかける。



「えっと....その...な、なんというか....ごめんなさい...」

「え?あぁ、気にしなくていいのに。仲が良いのはいいことだもの。」

「いや、あれは仲が良いって言うのかちょっと...」



 場を繋がせようとするサチコだが、そこで会話が途切れてしまう。何を話そうと頭がパンク寸前だったサチコを見て、レイナは助け舟を用意する。



「う〜ん....あ!それより、貴女も感情型なんでしょ?貴女の魔法はどんな感じなの?良ければ教えて貰えないかしら?」

「え!?私の!?」



 お互い共有のネタとして良いと思って話しかけたレイナだが、これは完全に地雷ネタ。人当たりが良さそうで、これから行動を共にする人に『私は憎しみの感情で、相手を呪えるんです。』なんて言えるわけも無いサチコは汗をダラダラ流していた。



 ――私の魔法を暴露した日にはきっと『あ、この子は凄く暗い子なんだ。』とか『この子は凄く物騒な子なのね。』みたいに思われるに決まってる!

 で、でも聞かれたのを無視する訳には....



「......の......n...ろ...い....です。」

「ん?ごめんなさい、聞き損ねちゃったわ。もう一回いい?」

「えっと....私の条件は....に、に、...にc..シ....みぃ....で!魔法は....の........r....ぃ....です!」



 重要な所は声も小さくして濁し、少し困っているレイナを見て心の中でサチコは土下座をしていたのだった。


 すると、エンスが突然手を叩いて注目を集める。その音にサチコとレイナは反応し、リーヤの攻撃もピタリと止まった。



「....何よ?」

「まぁね?もっとこのまま遊んでてもいいんだけど、取り敢えず話し合いを締めようと思ってね。結論的にはレイナちゃんの話は僕は信じるし、ムルガ君を確保して帝国軍からも逃がすって方向でやろうと思ってるんだけど、皆どう?」



 あまりに急な切り替えにリーヤはまた暴れ出しそうになるが、コロコロ変わるエンスの行動には慣れつつあり、深い溜め息を吐いて怒りを抑える。



「...ウチもそれでいいよ。まぁ、あっちが話を聞いてくれるか心配だけど...」

「僕もそれでいいかな。彼の気持ちも分かるし、助けてあげたいから。」

「わ、私も賛成です!」



 全員同意、その事実にレイナは目に涙を浮かばせ、改めて頭を下げた。



「ありがとうございます。ありがとうございます。このご恩は必ず....」

「恩なんて要らないよ〜。僕らはただ自分達がしたいって行動するだけだからね〜。まぁ、どうしてもお礼をしたいって言うなら、この騒動が終わったらムルガ君の傍で彼の心の傷を癒して、見守ってあげることを約束してね。」



 エンスはレイナに近付き、彼女の肩に手を置きながら優しく伝える。その言葉にレイナは上げた頭を再び下げるのだった。



 ――凄く感動できる言葉と光景なんだけど...エンスさん、あんな事を言えるんだ...何か凄い違和感。


 その違和感は他二人も感じ取り、三人揃って微妙な表情でエンスを見ていたのであった。


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