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契約の呪文

 レイナは必死に言い寄る彼女に面食らいながら静かに首を縦に振った。それを見たリーヤは深い溜め息を吐きながら座り込み、少し時間を開けてサチコは覗くようにしながら尋ねた。



「リーヤちゃん?....あの...一体どういう事なの?その魔法って凄く危ないの?」

「...うん。契約の呪文(チェイン・スペル)は例えるなら"術者との絶対に破れない約束"みたいなやつだよ。お互いの同意の上で初めてかけられる魔法なんだけど、契約を受けた人が破ったらその人は魔法の効果で死んじゃうの。」



 その説明で事の重大さを理解したサチコ。驚愕の声を漏らし、自分が受けていないにも関わらず冷や汗が出てしまう。



「え!?じゃあ凄く危ないじゃん!な、何とか出来ないの!?」

「無理だよ。術者が死んじゃうか契約が終わるかじゃないと基本的に解けない。

 この魔法以上の反魔法なら強制的に外せない訳じゃないんだけど、この魔法の強さは段階四(レベル四)。その上、掛けた時の魔力の質によるから、術者によっては段階六(レベル六)の魔法じゃないと強制的に解けないかも....」

「そ、そんな....」



 初めて会えた自分と同じ境遇の者同士、情報交換やら良い関係を築けると思っていたサチコはその答えに落胆する。

 だが、そんなサチコの肩を叩き、リーヤは微笑んで彼女を慰める。



「大丈夫だよ。契約内容はハッキリしてるし、術者の事を言わなければいいだけだから簡単だよ。殺害目的だったら変に条件を長くして本人が気づかないような細かいものを詰め込んだりするの。

 今回はそんな心配は無さそうだし、この魔法は本人の意識部分が関係してるから契約違反の事を自覚しなければいいから大丈夫だよ。

 大丈夫なんだよね?」



 その問いにレイナは静かに頷き、サチコもホッと安心する。



「じゃあ聞かせてもらえる?ムルガの居場所と魔法、それとムルガの最終目的を。兵士の身内を狙ってるから自分の怒りを味わせるっていうのは分かるんだけど、それだったらキリがないでしょ?ムルガのゴールは何?」

「...彼の居場所は分からないわ。私自身ずっと探していたんだけど...手紙にも落ち合う場所の指定なんて無かったし。だけど、魔法と目的の事は話せるわ。」



 レイナは一息つけてリーヤを見つめながら話し始める。



「彼の魔法は触手生成(ボーンミーム)、地面とか壁とかから触手を生成して戦うって魔法よ。結構手数はあるけど威力に欠けるって彼は嘆いてたわ。」



 ――昨日の夜に見たまんまの魔法なんだ。それだったらノトレムさんが居ればまた楽勝なのかな?



「それと彼の最終目的は出来る限り多くの人を殺して自らが糧になることよ。」

「....糧?」



 ふと言葉に出してしまったサチコの目を見つめ、レイナはジッと彼女を見つめてこくりと頷く。



「えぇ。彼は死ぬつもりなの。多くの兵士を悲しませて怒り狂わし、自分の犯行理由を明らかにしてから死ぬつもりよ。そうやって上級国民以上の者に自分の怒りを伝えて、今後の下級国民に対する扱いが良くなるのを望んでるの。」

「そ、そんなの!...」



 そこでサチコの口は塞がれる。ムルガを大切に想うレイナの前で完全に否定的な言葉を言うのを自らが拒み、黙り込んでしまう。



 ――そんなの....絶対に無理だよ。確かに良い人達ばかりだったり、亡くなるのを極端に嫌がる政体とかなら分かるけど...この世界は違う。下の者に何したって基本お咎めなしなんだ。死んじゃっても心に響く人なんて....



 そんなサチコの思いをレイナは十分に理解している為、顔を暗くしながらもこくりと頷いた。



「...私は彼に死んで欲しくない。生きて一緒に暮らしていきたいだけなの...新天地に私の居場所なんてない。私の居場所は彼の傍しか有り得ないから...」



 レイナは机に肘を置いて両手で顔を塞いだ。喋るにつれ呼吸が荒くなり、身体が震え、指の間から見える彼女の目は瞳孔が開ききっていた。


 綺麗でお淑やかな女性というイメージから、依存性の高いやや危険そうな女性へサチコは印象変更してしまう。

 このまま変に笑い始め、暴れてしまうんじゃないかとサチコは息を呑むが、レイナはスっと何事も無かったかのように落ち着き、再び頭を下げた。



「お願いします...ムルガ君を救って下さい。帝国軍にも渡さず、命を奪わず助けてください。後は責任もって私が連れて帰りますから、お願い....」

「分かったよ〜。僕に任せておけば全て解決!悩める女性を助ける救世主ことエンス君にお任せあれ〜。」



 背後から聞こえた聞き覚えのある声にサチコとリーヤはすぐに振り向くと、そこにはドア枠に寄り掛かるエンスにそんな彼を見て少しアセアセしているノトレムがいた。



「え、エンス君。ダメじゃないか、女の子の部屋なんだからノックくらいしなきゃ。」

「ノック?何寝ぼけたことを言ってるんだい〜?ノックなんかしたらもしかしたらお宝映像が....いや、緊急事態かもしれないだろ〜?身元不明の女性がいるんだ〜、仲間が危険って言うことならそんな律儀に返事待ちなんて有り得ないよ〜。」



 ――いや...どちらかというと危険なのはエンスさんで、緊急事態というと今起きたっていってもいいくらいなんだけど....



「ノットーの言う通り!ノックぐらいするのがマナーでしょ!?緊急事態かどうか分からないほど鈍いわけないし、何変な言葉並べて正当化しようとしてんの!!ってかマジで無音で入ってくるの気持ち悪い通り越して怖いから!!」



 サチコの気持ちを代弁するかのようにリーヤはエンスに近付き、彼の胸元を指で強く続きながら言い寄った。だが、相手はメンタル最強。普通の男性なら少なくとも傷付いてしまう状況だが、彼にとっては屁でもなかった。



「いやいや〜、本当に危ないと思ったんだけどな〜。あ、ボディタッチかい〜?嬉しいな〜、少し時間がかかったけどリーヤちゃんもそんなに僕と仲良しになりたいのか〜。」

「マジでキショい!!本当にキショい!!ノットー!こいつ縛り付けてどっかに捨ててきてよ!!」



 リーヤはドン引きしながらノトレムにお願いするが、基本的に人に乱暴出来ない彼にとっては出来ない注文。結局困り果てながらも軽く笑うことしか出来なかった。



「まぁまぁ〜、落ち着いてリーヤちゃん。僕の顔に免じてノトレムにそんな残酷なことをさせないであげて〜?」

「あんたをどうにかしたいのに、顔立てられるわけないでしょ!?」

「はは、まぁお遊びはここまでにしようよ〜。ここから仕事モードだから。リーヤちゃん、彼女について聞いた事を教えて貰える?」



 変に逃げられたリーヤは歯を食いしばって悔しそうにするが、スイッチの入れ替えはちゃんとする男というのを理解している為、叩きたい気持ちを堪えて説明する。




「.......そっか。彼は僕に『世界を変える』とか言ってたから、何かしら事情はあると思ってたけど...」

「まぁ同情は出来るけど、賛同なんて出来ないね〜。やってる事があまりに荒いし、皆のためと言ってもついでの目的。本人が気がついてるかどうかは知らないけど、どう考えたって復讐が第一の目的のはずだね〜。」

「で、でも助けるんですよね?私も話を聞いて、何とか出来ないのかなって思ってるんですけど....」



 レイナの願いを応えたいと思っていたサチコは控えめに意見をする。そんなサチコをエンスは微笑みながら頷いて答えた。発言や思考は危ないものの、表情から伝わるエンスの優しさにサチコは少しホッとするのだった。



「うん、やってる事は間違ってるけど償う道はあるはずだよ〜。僕も何かしら考えてみるさ〜。

 ただ、教えて貰いたい事があるんだ。レイナちゃんにね〜。」

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