表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/338

学生さん?

 精一杯元気づけようとした彼女の言葉にノトレムは好反応を見せる。信じられないといった表情でサチコを見つめ、口が開いていた。



「僕がカッコイイ?そ、そんな訳ないよ〜。僕なんて図体だけ大きいだけの蜥蜴人だよ?人どころか他の獣人にも気持ち悪がられるし....」

「そんな事ないですよ?必死になって戦ってたノトレムさんはカッコイイって本当に思いましたし、あんなに素早く動けて強くて凄いって思ったんです。あの時のノトレムさん、凄く逞しくて憧れましたから!」



 サチコは彼を少しでも元気づける為に声をかけたが、言葉にする内に次第に昨夜の事を鮮明に思い返し、少なからず感じていた興奮が蘇る。目をキラキラさせながらかけた言葉の力か、ノトレムの目元も頬も緩みまくり、照れながら頭を撫でていた。



「え、えぇ〜?そうかな〜?僕なんかがそんなカッコイイ....なんて〜。」

「本当です!だから、その...情けない話なんですけど、私が困ってる時とか手を貸して貰えたらな〜なんて....も、勿論!自分でなんとかするのは大前提なんですけど!」



 ハッとしてパタパタと手を振りながら彼女はすぐに否定的な発言をする。人に何かをしてもらう・助けてもらうという事に免疫のないサチコは手を貸してもらう即ち、相手は少なからず面倒と思っていると勘違いしていた。


 日本ではクラスメイトが先生の指示でサチコの手伝いを命じられると決まって溜め息、裏で陰口が当たり前。親や兄にしても例外ではなかった。


 日本では出会うことのなかったいい人達、心の底から信頼できて仲良くしたいと心から思える大切な人物達。そんな奇跡的に作れた関係を台無しにしたくなかったサチコは慌ててしまう。


 勿論、面倒に思うはずもないノトレムは目元を弛めながらも自信満々な表情へ回復、ドンッと胸を叩いて頼りがいをアピールしていた。



「そんな堅苦しくなんなくて大丈夫だよ!!こんな僕にできることがあったらなんでも言って!!なんでも協力してあげる!!なんたって僕はサチコちゃんのせ.......」



 そこでノトレムは顔を真っ赤に染め上げて言葉を止めた。サチコか不思議そうな目線を向けているのに気が付くと、言葉の続きではなく嘘くさい咳払いで誤魔化した。




 ――どうしたんだろノトレムさん?なんかこんな雰囲気、ギルドに居た時もあったよね?



「と、とにかく!!サチコちゃんが困ってるのを助けるのは僕の役目っていうか、僕自身がやりたいってことだから、本当に遠慮なんて」



 まだ顔が赤いままノトレムが話していると、路地裏から誰かが飛び出してきてノトレムにぶつかる。ぶつかってきた人物はそのまま転倒し、ノトレムはビックリしたくらいだったが人に当たってしまった事実に顔は真っ青に変化し、表情もビックリするくらい弱々しくなっていく。



「うわぁぁ!!ごめんなさい!!変に道にスペースとって図体だけ大きい約立たずで能無しでごめんなさい!!」



 サチコが折角癒したノトレムの心は意図も簡単に壊れ、ぶつかったのと関係ない昨日の事まで口に出して謝罪し始めた。

 その壊れようは見てて清々しい程で、サチコは少しだけ頬が緩むが、当たってしまった人物を見てすぐに顔が真っ青になる。



 ぶつかってきた人物は綺麗な女性だった。高身長に合わせるかのような大人びた顔立ち、黒く美しい髪は右肩の方へ軽く束ねて腰まで巻かれている。


 青いカーディガンに合わせた水色の長袖の上着、そして膝元まで伸びているスカートを着こなしている。

 そこまでは何もおかしくはないが、サチコが冷や汗をかいた理由は彼女には首輪がなかった。ノトレムは運悪く上級国民とぶつかってしまったのだった。

 上級国民に危害を加え、その上女性。サチコはとんでもない罰があるのではと心配になった。



 そんな女性は尻もちをついており、両手で地面をつき足は若干あげてスカート中身が見えそうになっている。だが、自分の格好・ノトレムの謝罪に目を向けず、姿形的にはおっとりとした優しい女性という印象とは相まって瞳孔を開いてブツブツと呟いていた。


「....やく.......ないと........彼が....」


 怯えているというより何かに慌てている感じ。必死に誤っているノトレム他の三人はそんな女性の違和感を不思議に感じていた。


 女性は少しの間呟いていると目線をノトレムに移し、掴みかかった。精神がボロボロのノトレムは図体に似合わず変な声が出てしまうが、女性は懇願の表情を浮かべ、報復の行為ではないとサチコは察する。



「あ、あなた、お願い!私に手を貸してください!お願いします!」



 ここでようやくノトレムもおかしな状況に気が付き、動揺しながらも自分に掴みかかった女性に目線を合わせる。



「え、え?手を?な、何なんですか?」

「私の大切な人がとんでもないことをしてるんです....多くの人を悲しませて多くの人の命を犠牲にしようとしてるんです。今も何人か犠牲に...この帝都で....」



 その言葉にハッとするノトレムはエンスを見ると、彼も同じように感じていた為こくりと頷いた。ここまで話の展開に他三人よりワンテンポ遅れてきたサチコだが流石にこの状況、女性が何を言いたいのか分かった。



 ――もしかして、殺人鬼のこと?この人は帝都で暴れてる殺人鬼について何か知ってる?もしそうだったら、またあの殺人鬼を追い詰めることだってできる!



 サチコの思いもノトレムも感じていた。彼にとっては名誉挽回のチャンス、慎重に関わらないといけないと緊張しつつ話しかける。



「お、落ち着いて下さい。まずお話だけ聞かせて貰えませんか?」

「ほ、本当ですか?ありがとうございます....あ!あの...話をする上で帝国軍の方に情報とかはちょっと....」

「分かってます...あ、で、でも、僕の仲間には情報は共有しますから、それはその....」

「構いません!帝国軍に情報さえいかなければいいので...ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。」



 女性はペコペコ頭を下げてノトレムに感謝を述べる。上級国民が助けを求めるとはいえ下級国民に頭を下げる、それが異常な光景なのはサチコも理解する。

 本来依頼する側なのだからおかしい事ではないが、この世界の上下関係は絶対。上の者が下の者に同情すらしないというのはこの短い期間でもサチコは実感できた。


 ずっと頭を下げ続ける女性にエンスが近づいた。だが、彼は小馬鹿にするような笑みではなく下心丸出しの笑みだった。こんな状況でそんな思考に至るエンスにサチコはドン引き、リーヤは頭を叩いてエンスが痛がっている隙に女性に近付く。



「えっと....ウチはリーヤっていいます。ノットー...あ、いや。この獣人はノトレム、あの変態がエンスでこっちの可愛い女の子がサチコ。ノトレムが言ってた仲間はウチらです。ウチらを信頼して話してみて下さい、そしたらウチらだって全力で手助けしますから!」



 そう声をかけると女性はゆっくりと顔を上げ、再び感謝の言葉をかけながら紹介された一人一人に頭を下げた。



 ――上級国民なのにこんなに必死になって....この人は殺人鬼のことをよく知ってるのかな?凄い親しい人だったりするのかな?それなら複雑な気持ちなんだろうな〜。大切な人だけど色んな人を傷付けたって事だもんね....



 少しその女性に同情するサチコ。女性が順番にお礼を述べる中、サチコの番になりサチコも同じくお辞儀しようとする。

 だが、サチコまでスムーズに下げていた頭はピタリと止め、女性はサチコを見て目を見開き酷く驚いていた。


 他三人もその女性の異常に気が付き、サチコと女性に注目するが、サチコは何なのか全然分からず逆に混乱する。


 そこで女性はポソりと呟いた。



「え...........






 

 学生さん?.......」





 その一言でサチコは時が止まった感覚に陥る。身体も思考も硬直し、頭の中にはその一言が大きく響いて回っている。

 この世界で一度たりとも聞いたことの無い単語、だがサチコのよく知る世界では日常的に耳にするその単語。




 サチコも伝染したかのように女性と同じ表情で固まり、何が起こったか三人は分からなかった。だが、この女性が何かしら関係しているのだとリーヤは察し、女性を問い詰めようとするが、サチコはリーヤの肩に触れて彼女の動きを止める。


 サチコは以前として表情と目線を変えず、取り憑かれたかのようにポソりと呟く。



「もしかして....日本人...ですか?」



 その問に対して女性は言葉を発しず、大きな唾を飲み干す。その無言と反応は肯定の答えと言っても過言ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ