ノトレムの実力
そんな殺人鬼と二人のリアクションにもエンスの心には響かない。恐らく、メンタル面ではこの世界最強の男だ。
「えぇ〜傷つくな〜。まぁそんなのは置いとくとして〜...いくよノトレム。」
唐突に真剣な口調へと変わるエンス。それと同時に銀色の玉を発射し、虚をつかれた殺人鬼の魔力を帯びた右手が再び弾かれた。
「グッ!」
右手を弾かれた影響で身体が横向きへ強制的になる殺人鬼。弾かれた直後にノトレムは地面を蹴りあげて一気に殺人鬼へ急接近、サチコも何かしようと立ち上がるが、すぐにリーヤに肩を掴まれて座らされる。
「り、リーヤちゃん!?」
「大丈夫だってサッチー。ここはあの二人に任せてウチらはここで待機だよ。」
「で、でも!エンスさんとノトレムさんは魔力制限あるし、殺人鬼も何か凄そうな魔法使ってたよ!?地面が吹っ飛んだし...私らも行かなくちゃ!」
「だから、大丈夫だって。ウチらがここを離れたらこの女の人を誰が守るの?」
サチコはリーヤの言葉で冷静になり、小さい声を漏らしながら気絶している女性に目線を向けた。小さい鼻息だけが聞こえ、まだまだ起きる様子もない無力な女性。
サチコは焦りで頭が沸騰し、すぐわかるような事柄を見失っていたことに反省した。
「サッチー、安心して。ウチら復国軍の中でもエリートみたいな感じだし余裕だよ。まぁ、あの変態は置いといて、今はノットーがいるしね。」
――え?ノトレムさんが?
そんな気になる言葉に誘導されるかのように、サチコは突っ込んでいくノトレムの姿を見た。
ノトレムはエンスの援護射撃に乗じて殺人鬼への距離を詰めていく。殺人鬼は襲いかかってくるノトレムをどうにかしようとするが、正確なエンスの援護射撃は次々に殺人鬼の身体に命中。
大したダメージではないがそれだけで一瞬思考停止してしまう。やられてる方はストレスでたまったものではなかった。
そうこうしている間にノトレムは目の前にまで接近、大きな両拳で殺人鬼に向かって大振りの連打。
身体のそばで風を切る音と振動に身震いさせながらも殺人鬼は何とか攻撃を避け、家の壁へジャンプした。
二階程の高さを飛んでみせると外壁にピタリと密着、まるで地面に立っているかのように殺人鬼は壁にくっつき、両手をノトレムに向かって掲げる。
両手が薄黄色になったのと同時に壁から触手のようなものが生えてくる。正確には壁が触手になる、壁を操り触手のような形を生成したのだった。
殺人鬼の左右から壁の触手が生え、更に魔力を発すると触手が猛スピードで見上げているノトレムに襲いかかる。
触手は標的ごと地面に突き刺さり、破壊音と共にホコリで周囲が見えなくなった。
冷や汗をかいたサチコはやられてしまったのではと思い、ノトレムを呼びかけようとする。だがその直前にホコリから猛スピードで殺人鬼に向かってノトレムが飛びかかる。
予想外のスピードに殺人鬼も汗を垂らす。ノトレムの握る大きな右拳が視界に入り、たまらず殺人鬼は足元の壁を押し上げて反対側の家の壁へと移動。
移動するのを目でとらえたノトレムは拳を開いて壁に捕まる。ドンッと重い鉛が壁に激突したかのような衝撃と音が発せられ、再びノトレムは壁を思いっきり蹴って殺人鬼を追う。
先程より素早いノトレム、まるで大きな銃弾が襲ってくるような脅威に殺人鬼は逃げる。壁を操り元の地面の方へ着地、そしてノトレムは壁に着くと一息つけずに斜め上の方へ飛び上がる。
丁度、殺人鬼の真上の位置におり、そのまま落下する。そこで殺人鬼は自分を襲ったノトレムの姿を知ることとなった。
――こ、こいつ。ガタイもデカくてパワーもあるからおかしいと思ってたが、やっぱり獣人か!
小さく舌打ちをしつつ、殺人鬼は再び魔力を放ち、地面で生成された触手で落ちてきたノトレムに攻撃する。
――宙で俺の攻撃を避けれる素早い行動出来るか?出来ないね!お前が下級国民なのは無用に宙に身を預けるような頭の悪さが原因のようだな!
殺人鬼は思わず鼻で笑う。まだ決まってすらいないのに取り敢えず一人邪魔者を倒したと確信した。
そんな殺人鬼はその目で見ることになる。ノトレムは襲ってきた地面の塊に対し、両手を合わせて大きく振りかぶった。
「うおおおおぉ!!!!」
そんならしくない雄叫びと共に両手を振り下ろし、強い衝撃波を感じた直後、地面の触手はヒビが全身に行き渡り破壊される。
――ば、馬鹿な!奴から魔力を感じないから魔法を使っていない!俺だって帝国軍に悟られないようにある程度魔力は抑えていたが、それでも!
殺人鬼はそんなノトレムの力に驚愕するが、リーヤとエンスにとっては当たり前のこと。二人ともニヤッと笑ったのだった。
ノトレムは殺人鬼の目の前に着地し、すぐに下から斜めに一直線へ右拳の攻撃を放つ。今回は大きく足を踏み込ませたノトレムの全力の拳、その威圧感は驚愕で思考が鈍くなった殺人鬼の足をも震えさせる。
殺人鬼は後ろへ飛び避けようとするが距離が足りない。すかさず個性魔法で地面から二本の触手を間に入らせガードをする。
先程のようなスピード重視の細い形態ではない、自分の定めた魔力範囲で生成した厚い触手だ。
二本を重ねるようにしてノトレムの拳をガードした。ニヤッと笑った殺人鬼だが、その顔はすぐに苦痛に変化し舌を思わず出してしまう。
ノトレムの右拳は二本の分厚い触手を突き抜け、殺人鬼の腹を捉えたのだった。威力は落ちたが殺人鬼にとっては絶大、薄いお腹に巨大な鉄の塊が激突したかの衝撃と激痛に吐血する。殺人鬼は家の壁へと激突し、そのまま壁を背にして座り込んだ。
そこから逃げる素振りすら出来ず、見事殺人鬼を制したノトレム。荒れる呼吸を落ち着かせ、近寄ってきたエンスと笑顔でハイタッチをする。
ノトレムの実力と豹変ぶりに目と心を奪われたサチコ、ポカーンとだらしなく口を開いたままだった。
「す、凄い...ノトレムさんこんなに強かったんだ。普段のノトレムさんからは全然....」
「まーね!ノットーは普段温厚だから、ウチも初めて見た時はビックリしたよ!獣人は元々人より身体能力は高いんだけど、ノットーに関しては別。獣人の中でも種族関係なしにトップクラスだよ!
魔法を使わない戦いをするとしたら....ノットーはウチら復国軍では一番。ううん、もしかしたら世界一かもね!!」
サチコは改めてノトレムを見ると、たくましさで輝きカッコよく見え、まるで自分のことかのように誇らしく感じるのだった。
ノトレムとエンスは少し話をし、ノトレムは殺人鬼の元へ、エンスはサチコとリーヤの方へ近付いてくる。
女性が別の意味で危険と察した二人は勢い良くエンスから女性を見えないようにたち塞いだ。
「....何やってんの〜?」
「何やってるのかって聞きたいのはこっちなんですけど!早くあいつ拘束しにいきなって!」
「それはノトレムに任せてあるんだ〜。それよりリーヤちゃん、帝国軍の動きはどう?騒ぎを聞き付けて来てる人いる?」
「あ、あぁそうだった。ごめんごめん。」




