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出発

 ―――――――――――――――――――――――――


サチコが復国軍に入ることを決意してから一ヶ月間、彼女はナルテミ村で生活をした。

 基本的にはシアラのお手伝いということで、保護されている子供の相手や村の補強、清掃をしている。


 村の人達と会話をする事でサチコが分かったことは、ここには保護の子供と復国軍の人員しかいないようだ。

 戦闘面に自信がなく、主にサポート。来るべき日の人数合わせという意味も兼ねて、ここで復国軍のエリート、言わいるバルガードのギルドの安置ということで待機している。

 そしてそれはナルテミ村だけでなく、他にもそう言った村はあるらしい。



 因みに、シアラは非戦闘員としてナルテミ村へ在住しているが、ラーズは戦闘員として灰色の十字架(グレークロス)に在籍しているとのことだった。



 ここでの生活もサチコは悪く思わなく、寧ろ楽しい日々だった。携帯がないこの世界だったが、目にするものは殆どが初めてで飽きることは無かった。



 そしてこの世界はやはり自分の知る文字はなく、この世界特有の文字を勉強する為、シアラの教会に置かれている書物を使ってシアラに度々教わりながら習得していた。

 ある程度理解してくると、次はこの世界の歴史やそれぞれの国の仕組み、勿論魔法に関する本をスピードは遅いが読んでもみた。



 本に書かれていた魔法を試そうとサチコは練習しようとしたが、本の通りには出来なかった。段階魔法(レベルマジック)の初級魔法ですら発動出来ず、本格的な魔法の練習をしたいとシアラに伝えるが、練習はギルドでと言ってただ知識が身につくだけだった。



 少し不満もありつつも一ヶ月という楽しい時間は過ぎ、シアラに事前に言われていた受け渡しの日が訪れた。


 サチコの心臓の鼓動が激しくなっていく。それは期待や好奇心というより不安や心配によるドキドキ。

 ギルドで役に立てるのか、厳しい人達で溢れかえっていたらどうしよう、自分に自信を持っていないサチコはそんな事を思うだけで呼吸すらしんどく思ってしまう。


 サチコは約束の時刻から半刻前に、自分の寝泊まりしていた宿を出ると、シアラがいる教会へと足を運んだ。


 ここの教会は現代にあった白くて大きく清潔感溢れる教会ではなく、木造で構成されている。田舎村ということもあるのだろうか、そこまで大きくない上、中の家具等も良い物を使っている訳では無い。

 ただ、清潔感は大事にしているのはこの一ヶ月間の教会清掃で知っている為、今日もピカピカだった。


 シアラは教会の祭壇前に置かれている巨大な女神像に祈りを捧げている。

 シアラに用があったサチコだったが、邪魔するわけにもいかなくて困っていると、サチコの気配を察したシアラはクルッと振り返った。



 「あら、サチコさん。どうしました?まだ受け渡しには時間がありますけど」

 「あ、いえ...シアラさんにお礼を....」



 サチコは顔を真っ赤にしながらモジモジと床を見ていた。この一ヶ月間飽きる程見ていたシアラの顔だが、改まってお礼をする事に免疫なく、恥ずかしさでいっぱいだった。



 「あの...この一ヶ月間....本当にありがとうございました。初めて会った時も...私、シアラさんと出会って良かったと本気で思ってますから....」



 精一杯の勇気を振り絞って出した言葉にサチコは更に顔を赤く染めた。まるで顔にマグマが滾っているかのような感覚になり、身体全体もカーッと熱くなる。


 この一ヶ月の生活でシアラもサチコの事をよく見ていたのもあり、サチコが勇気を振り絞った言葉だと理解している。



 「えぇ。私もそうですよ。正直、最初の貴女には恐怖を抱きました。魔力の大きさもありましたが、凄い殺気を放っていましたからね」

 「あ!あの時は本当に」

 「気にすることはありませんよ。短い時ではありましたが、私はサチコさんを理解した気です。貴女はとても素直で人を想える心優しい良い子です。

 そんな貴女があんな状況になるなんて余程の事...恥ずべきはサチコさんじゃなく、あの時の苦しみをすぐに理解出来なかった私です」



 シアラはサチコにゆっくりと近付き、そっとサチコを抱き締めた。苦しくはなく、サチコは温かさで満たされていく。



 「これから貴女には色んな苦難が待っていると思います。苦しくて悲しくて絶望するかもしれません。....そんな時は貴女の心に宿す光を強く感じて下さい。目先の事に囚われず、自暴自棄だけにはならないで下さい。

 もし、耐えきれなくなった時は私達の所へ来てください。私達は何時でも待っていますから」



 シアラの力が少し強くなり、サチコの背中で握り拳が作られるのが感覚で分かった。サチコはシアラが本気で心配してくれてる事を理解し、同時に感謝した。

 自分の事を想ってくれている、それだけでサチコは幸せだった。



 「...ありがとうございますシアラさん。お世話になりました....」

 「えぇ...サチコさんもお元気で...あ!そうだサチコさん!サチコさんに渡したい物があったんですよ!!」



 シアラは駆け足で祭壇に近付き、祭壇の下でゴソゴソと何かを漁っていた。少ししてシアラはそこから少し大きめの布袋を渡してきて、サチコは検討もつかないままそれを受け取り中身を見る。


 そこには灰色の服。否、サチコの学生服だった。そしてそれが何枚も小袋の中に詰まっている。



 「え!?これって...汚れて捨てちゃったんじゃ....」

 「元々汚れていましたけど、クリーンついでに特注で作ってもらいました。それって新天地の衣装ですよね?中々可愛らしくて捨てるのは勿体無いと思ったんですが...余計なお世話でしたか?」




 シアラはサチコの様子を伺うように聞くと、サチコは一組だけ小袋から学生服を取り出した。

 サラサラとした生地に新品特有の香りが漂う。そして何より、この服を見ると現代の事を思い出す。



 ――シアラさんの行為を無駄にするわけにいかない...そして何より、これを着ていればもしかしたら日本に関する情報を得られるかもしれない。帰る気はまだ無いけれど、いつかそんな時が来るかもしれない...



 「....ううん、シアラさん。ありがとうございます。有難く使わせてもらいます。あの、早速着替えても?」



 何処かソワソワしているシアラに気を使ったサチコ、案の定シアラは一気に明るい顔になって今にも飛び跳ねそうだった。



 「勿論ですよ!!私も今一度目に入れておきたかったんですよ!!」



 そんなシアラを見るとサチコは嬉しくなり、まるで伝染したかのようにニヤニヤしながら小部屋に入って着替えた。

 一ヶ月間着ていなく生地も新品だった為、何だか初めて着るかのような気分にサチコはなった。


 襟や胸当て、カフスに白いラインが入っているブレザー。その間から見える白シャツに中心には紺色に白ラインがあるネクタイ。紺色スカートは膝辺りまで伸びている所まで忠実に再現されていた。

 靴や靴下もあの時のままで、サチコは何だか落ち着かない気持ちのまま小部屋から出てシアラに見せる。


 シアラの目が輝き、その反応を見ると何だか照れ臭く感じてしまうサチコだった。



 「わぁ!!やっぱり綺麗ですねその衣装!新天地は服装も素晴らしいセンスをお持ちのようで、サチコさんもよく着こなしていますよ!

 あの時は雨で濡れていましたし、タダでさえ薄暗かったので見ることが出来て良かったです!」

 「そ、そうですか?でも、私より着こなしてる人なんかいっぱい居ますし、そんな褒めてもらうほど...」

 「そんな事はありません!サチコさんは元々綺麗ですし、もっと自信を持っていいと思います。周りの環境のせいかサチコさんは控えめですが、もう少し見栄を張ってもいいですよ」



 止める手を知らないシアラの褒め言葉はサチコの顔に熱をともし、更に恥ずかしさを膨らませるのだった。

 すると教会の扉からノック音が聞こえ、一人の男性の村人が入ってきた。



 「シアラさん、サチコさん。灰色の十字架(グレークロス)の方が....」

 「あ、もうそんな時間でしたか。それではサチコさん、行きましょう」



 サチコとシアラは二人揃って村の門まで歩いていった。木で作られた大きな門、そして門の上に設置してあるこの村のオブジェであり、村の名前が掘られた看板。


 清掃の為に登ったが、中々の高さにビビって思ったより手が進まなかった記憶がフッと蘇る。


 門の前には村人全員がサチコを待っていた。あまり話し込むことは無かったし、一ヶ月という短い期間だったが、全員がサチコを温かく見送るために集まったのだ。

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