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探知

 イザゼル帝国を照らしていた陽の光は完全に途絶え、世界が闇に包まれる。上空には大きな雲が佇まい、薄く光を与える星々の影響すら拒もうとしていた。その上風が少し強く肌寒い、これから起こそうとする作戦や起きるであろう戦闘に心を奮い立たさなければならないのに、それすらも氷のように冷たい風は冷やしていく。



 ――一応、灰色のローブは貰って直接風には当たりはしないけどやっぱり寒いな〜。今度バルガードさんにお願いして制服のコート的なものを作って貰えるようにしよっと。



 家同士の間に空いた細い道で待機している復国軍の四人、サチコはそう考えながら自分が身につけている灰色ローブを見る。腕を覆い、地面ギリギリまで伸びている綺麗なスベスベしている灰色ローブ。深くローブを隠せば周りから顔全体見られる心配は無さそうだった。



 ――これって私達を見られない為だよね?灰色も見えにくいかもしれないけど、真っ先に良いと思ったのは黒。....だけどそれじゃあ黒爪(ブラッククロー)と間違えられるし....どうなんだろ?



 そんな不安を感じているとふと思い出してしまうエンスの下ネタマシンガントーク、サチコは再び頭痛がして頭を抱える。そんな異変を感じとったリーヤは同じく灰色ローブを着たままサチコに駆け寄った。




「サッチー!大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫。ちょっと脳に変なダメージが...」



 頭痛に苦しむサチコを心配していたリーヤはキッとエンスの方を睨むが、エンスは背を向けノトレムと話をしていた。

 そんなリーヤの鋭い睨みにノトレムは気が付き、慌ててエンスに教えるが、エンスはニコニコしながら手を振ってリーヤの気持ちに全然気が付いていなかった。



「アイツ...マジ許せない!サッチーごめんね?あんな奴がいて。聞いてみるけど、変な知識とか付いてないよね!?」

「え?....ちょっと付いちゃったかも。」

「あぁ!もう消して!頑張って消してよサッチー!変態の道にいかないで!!」



 リーヤはサチコに抱き着いて頭を何度もサチコの背中に擦った。その必死さにサチコは少しクスッと笑い、いい意味で脱力することが出来た。



「大丈夫だよ、変な事は知っちゃったけど、別にそこまで興味はないし。それに、私はエンスさんに襲われるって思ってたから返って良かったかな?」

「襲う?ないない!それはないよサッチー、安心して。アイツにそんな度胸はないし、そこの所はちゃんとしてるから信用してもいいよ!」



 ――まぁそうだよね。そんな仲間内までに手を出そうとする人をバルガードさんがそもそも復国軍に入れるわけないもんね。

 ちょっと考えればわかること、逆に気が付けなくて変に怖がってたエンスさんに申し訳なく感じちゃう。後で謝った方がいいよね?



 そう思ってサチコはエンスを見るが、相変わらずニコニコしており、下ネタマシンガントークを思い出して謝るのはいいやと心の中で決意したのだった。




「まぁ前まではちょっとやばかったんだけどねアイツ、これでもセクハラ発言は治まった方だよ?前まではもっとエグかったし、ウチら女陣営の風呂場の覗きとかしようとしてたからね。」

「え!?だ、だだ大丈夫なの!?」

「まぁ変な所は見られてないし大丈夫だよ。ウチが何言ってもヘラヘラ、スーさんは少し拳骨するくらいで許す感じだから困ってたんだけど....

 でも、ロアっちの風呂を覗こうとしたのが運の尽き、その場で半殺しにされて素っ裸で半日外で放置されてから大人しくなったね。」



 ――あ、凄い想像しやすい。



「だから大丈夫だと思うけど、サッチーが覗かれたとかあったらすぐにロアっちかウチに言ってね!スーさんは絶対ダメだよ!?中身おっさんだから大抵の事を笑って流す人だから!!」



 ――それも想像しやすいや。『そんくらい許してやれよ〜、私から注意しとくからさ。』って言っておいて本当にちょっとした注意しかしない所まで簡単に想像出来るな〜。



 そんな二人のやり取りとは違い、ノトレムは真剣な表情で手持ちの小さい時計を見ていた。



「エンス君、もうそろそろ...」

「だね〜。お〜い二人とも〜?来てくれない〜?」



 呼ばれたサチコらがエンスの元へ駆け寄ると、ノトレムが手持ちの時計を見せてくる。時を指す針の裏側に金色の歯車が回っているなんともオシャレな時計だった。



「もうそろそろ気を引きしめる時間だね〜。殺人鬼の起こした行動時間内に入りつつある。リーヤちゃん、探知お願い出来る〜?」



「分かった。だけど、魔法制限されてるからそこまで頼らないでよ?」



 リーヤは目を瞑り少しだけ魔力を満たす。丁度段階二(レベル二)を出せるギリギリまで調整しており、サチコは少し驚く。



 ――リーヤちゃん、凄い。魔力調整って案外難しいけど、ここまでギリギリで留めるなんて....



 サチコが関心していると、リーヤは目を瞑りながら膝を落とした。そして右手を地面、左手を耳周りに当ててそのままジッと止まったままだった。


「...あの、これって....」



 いつまでも動かないリーヤが不安に思えたサチコは困惑しながら質問すると、ノトレムは自分の口に人差し指を翳した。


 

「シーっ。あんまり大きな声を出さないようにね、リーヤちゃんがビックリしちゃうから。」

「あ....じゃあ」

「うん、これがリーヤちゃんの個性魔法・音オリジナルマジック・サウンド。音を使って攻撃したり、探知したりするんだ。」




 ――結構便利そうだな〜。殺人鬼を待ち伏せするって言って範囲を決めても、気が付かないんじゃないかってちょっと思ってたけど、これなら大丈夫ってことだよね。

 リーヤちゃんがこの作戦の要、プレッシャーはあるだろうけど、ここまで平然としてるのは場馴れしてるってことかな?



 サチコはリーヤの魔法の重要性を理解し、そこからは話すどころか息をするのも極力抑えた。エンスもノトレムも同じく黙っており、リーヤの合図待ち。風の音、鳥や虫の音でさえ大きく響き、リーヤの努力を知らない住宅からは賑やかな声がうっすらとあちこちから聞こえる。


 様々な雑音があるにも関わらず、リーヤの表情は崩れない。凄まじい集中力と忍耐力を持っているから出来る事。数分、数十分経ってもリーヤの集中力は途切れなかった。


 しかし、物事には必ず限度がある。長時間の集中は体力やストレスを感じる為、リーヤの額からは汗が垂れ流れる。既に半刻が過ぎ、見てわかるリーヤの限界にサチコは心配そうに見つめていた。


 するとリーヤは突然目をバッと見開き、ある方向に目線を向ける。

 リーヤの些細なアクションすら見逃さないようにしていた他三人もすぐに反応、リーヤの目線に合わせると少し大きめの時計塔が見える。



「いたよ!あの時計塔から数メートル手前のところで!逃げてる女の人を追いかけてる男がいる!」

「間違いないのかい!?リーヤちゃん!」



 ノトレムがそう聞くとリーヤはこくりと頷く。



「間違いないよ。男の方が小さく"殺す"やら"俺達の怒り"とか呟いているのが聞こえた。それに女の人が息遣いが荒いし、歩幅的にももうすぐ追い付かれちゃう!」

「人は〜?そこまでのルートに兵士はいたりする〜?」

「....大丈夫、いないよ。」



 その言葉を合図にエンスとノトレムが一斉に走り出した。それに比べ、サチコは頭が真っ白になっていた。覚悟はしていたが、いざその時になると覚悟すら吹き飛ばされ、小さい声を出すしかできない。


 が、それもリーヤは想定していた。サチコの肩をバンっと両手で喝入れし、サチコはビクッと跳ねる。

 驚いているサチコにリーヤはニコッと微笑んだのだった。



「何ぼーっとしてるの?ほら、いくよサッチー!」



 そんなリーヤの行動・言葉でサチコの意識も回り始める。目に力を入れ、歯を食いしばりながらサチコは力強く頷く。


 リーヤも頷くと手を差し伸べてきた。綺麗で小さい掌を向けられ、サチコは緩みそうな顔を何とか抑えながらその手を握る。


 若干リーヤに引っ張られながら、二人は殺人鬼の元へと足を踏み出すのだった。

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