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エンスの正体

 エンスはサチコを呼び止めて手招きをする。サチコは反射的に振り返ろうとするが、リーヤがそれを阻止し、エンスに向けて舌を伸ばした。



「ダメに決まってるでしょ!?アンタにサッチーを壊させやしないよ。それにこれからウチはサッチーと仲良くお話する時間があるからじゃあね〜。ね〜?サッチー。」



 結果的にエンスの誘いを断る形となり、少し申し訳なく感じたサチコはから笑いでリーヤの誘いに答えた。

 だが、肝心なエンスは不気味に笑い始め、リーヤはジト目で彼を見つめていた。




「フフ....それはいけないな〜。とても良くない事態だよリーヤちゃん。」

「あんたとサッチーを会わせる方がよっぽど良くない事態だと思うんだけど?」

「いやいや、これは仕事にも影響する話だよ〜。そんな悪印象を与え続けられちゃ、もし僕が危険な目にあった場合サチコちゃんは僕を助けようと思わないかもしれない。信頼関係っていうのはとても大事と思わないの〜?

 せめて弁明する機会をくれたっていいんじゃない〜?」

「弁明ってあんた」



 リーヤがエンスに言い寄ろうとした時、ノトレムが立ち上がって二人の間に入り、リーヤの肩を軽く掴んで止めた。




「まぁまぁリーヤちゃん。エンス君の言ってることも分かるし、サチコちゃんとはここで別れるわけじゃない、これからも多くの時間を過ごすんだ。

 遅かれ早かれ、サチコちゃんにもエンス君がどんな人物かって言うのは知らなきゃいけないんじゃないかな?」

「で、でも...サッチーはようやく出来たほぼ同年代の友達なの!サッチーが変に壊れちゃったりしたら....ウチ...」

「大丈夫だって。僕も話の場には着くからさ。心配ならリーヤちゃんも残って」

「あ、ノトレムとリーヤちゃんは出て行ってね。サチコちゃんと二人っきりで話をしたいんだ〜。」



 ノトレムの宥めを完全無視した意見にノトレムは固まり、リーヤは目をうるうるしながらノトレムの胸を叩いてエンスを指さす。『あんなこと言ってる!信用出来ない!』と、口に出さず行動で伝えていた。



「ま、まぁ信用しようよリーヤちゃん。エンス君も初対面の人にそんなキツいことはしないだろうから、ね?」



 ノトレムの説得にリーヤは渋々頭を縦に振った。困惑状態のサチコに近付き、半泣き状態でリーヤはサチコの目を見つめ、両手をギュッと握った。



「サッチー、無理することないからね?キツかったり嫌だったらすぐに逃げ出して?大声出してもいいから絶対壊れないでね。」



 リーヤはそれだけ言い残すと、ノトレムに背を優しく押されながら部屋を後にした。

 サチコは嫌な予感しかせず、唾を飲み込んだ。部屋の雰囲気が重く感じ、今にも恐怖で身体が震えそうになる。


 ゆっくり振り返ると、エンスは座り直し、自分の対面する席に着くよう手招きしていた。


 鼻は高く顎もシュッとスリム、目元も二重で、街で見かけたら思わず振り向いてしまうような整った顔、透明感のある茶色の瞳がサチコを見つめ、肘をつきながら少し下から覗くようにしている。

 ダボダボの服の間からは鎖骨が顕になり、何処か色気を感じさせる美形の青年。


 本来なら大抵の女性はここでドキドキと胸が高鳴り、そんな彼に目と心を奪われるだろう。

 だがサチコは違った。度重なった性的暴行と人の怖さに触れた彼女は、自分を魅了するもの全てが妖しく思え、エンスをただただ怖く感じていた。



 怖く感じていたものの、サチコは逃げ出さずに小刻みに震えながらも席に着いた。

 そんなサチコをジーッと見つめ、エンスは少し前のめりになった。



「....どうしたのサチコちゃん?緊張したりしてるのかな〜?」

「い、いえ...そんなことは....」

「はは、そんな震えることないよ〜。小刻みに震えてるのなんか小動物みたいで可愛らしいけど、もっとリラックスして欲しいな〜。これから君のことを隅々まで知る為にもね〜。」



 そんな意味深な発言にサチコの顔色は徐々に真っ青になっていく。震えも少しづつ大きくなり、今すぐにでもリーヤの元へ向かいたかった。



「フフ....サチコちゃんと二人っきりなのは初めてだからね、そんなバッサリと切り込んだりしないよ。話っていうのは君に聞きたいことがあるだけなんだ〜。君は正直に答えてくれればいい...そう、新天地についてね。」

「え?新天地?」



 思いもよらぬワードにサチコは咄嗟に口を開いてポカーンとしてしまう。そんな反応を見てエンスは不思議そうに首を傾げていた。




「ん?どうかしたのかい〜?」

「あ、いえ、なんでもないです...」



 ――なんで新天地の事なの?さっきは私のことを隅々までとか言ってたのに、狙いが全然分からない....危険なのかそうでないのか、判断がつかない。




 困惑して思考を掛け巡らせていたサチコだが、エンスが真剣な表情を見せたことにより思考は停止、考えることより目の前のことに意識は移った。

 常にヘラヘラしていた彼が急に真面目になる。そんなギャップなのか、それともこれから訪れるであろう恐怖体験に対するものなのか、サチコの胸がドキッと跳ね上がる。




「それじゃあ早速だけど聞くよ。

 .......新天地の人達はどんなプレイが流行っているのかな?」

「へ?どんな....プレイ?」

「あぁ、言い方が悪かったね。訂正するよ。

 簡単に言うなら....







 

 新天地にはどんなエッチなお店があるの?」




 サチコの思考と表情が石化したかのように固まる。その硬化は数秒続き、そのまま目線を落として机をぼーっと眺めていた。

 眺めている時間が数十秒流れるとようやく思考が回り始め、サチコの頭の中はクエスチョンマークで満たされていく。




 ――ん?ん?聞き間違えだよね?なんだかさっき"エッチなお店"って聞こえたけど....まぁそんなわけないよね。あんな真剣な表情して聞くことじゃないし、少し考えたらわかるじゃん!私ってそんなにエンスさんのこと怖がってたのかな?耳がバグっちゃったみたい。



 固まったと思いきやヘラヘラ笑っているサチコを見てエンスは不安そうに話しかけた。



「大丈夫サチコちゃん?どうかしたのかい〜?」

「あ、いえ。大丈夫です。ちょっと....聞き取れなかったみたいで、もう一度言ってもらってもいいですか?」

「そうなんだ〜。じゃあもう一度言うね〜。

 新天地にはどんなエッチなお店があったりする?」



 サチコは再び固まった。だが、今回は一度目と違い硬直は短く、思考を回す為に力を入れるかのように眉間に皺を寄せて、ようやく聞き間違いではないと理解する。



 ――あぁ...なるほど....リーヤちゃん、こういう事なんだね....



 眉間のシワを摘み、考える人のような姿勢になるサチコ。エンスという人物がどういう類の危険人物か、ようやく理解して崖が崩れるかのようにエンスの第一印象が崩壊する。


 失望されているのを知る由もないエンスは弾丸の雨を浴びせるかのように、言葉によるセクハラを放ちまくった。



「やっぱこの世界だとスライムとか触手だらけの魔獣を使ったり、魔法で感度や大きさ、意識まで干渉して色んな人を極楽へ連れてってるんだ〜。

 ステアちゃんから聞いた話だと新天地は魔法が無いんだってね〜?じゃあ魔法がない分、人体の知識としては新天地側が勝ってると思うんだ〜。魔法を使わずに満たすのはどうやってしてるんだい〜?」

「いや....あの...私そんなに詳しくなくて....」

「あ、そうなの?でも年頃の女の子なんだから興味はあるでしょ〜?じゃあ少なくとも見たり聞いたりしたことはあるはずさ〜。よ〜く思い出してくれないかな?大人の人がどんな風に頂に登っているか、どんな登山方法をしてるのか実に興味があるんだ〜。それを聞いて実際にやってみたいしね〜。

 因みにサチコちゃんは自分でオ」



 "初対面だからそんな切り込まない"、そんな発言が嘘かのようにペースアップ。時間が経つにつれ、隠していた淫語もどんどん数もレベルも大きくなっていき、サチコは聞いていて頭痛がしてきた。



 ――こういうの架空の存在と思ってたけど、本当にいるんだ....外見はいいけどそれを隠すほどの中身の悪さ、残念...残念すぎるイケメン....



 サチコは頭のダメージに伴って目を瞑って頭を抱える。話で気分が上がっているのか、そんな明らか困っているサチコを前にしてもエンスはニコニコと声だけ優しく話しかけ続けていた。


 結局サチコはエンスの下ネタの猛攻に耐えれず、五分後に白旗を上げたのだった。

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