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淹れ終わったお茶を二人の目の前に置き、自分の分を啜り飲みながらラドも着席する。
「...戦況の事だけど、それは殆ど変わらないね。ずーっと睨み合いっこ。ちょくちょく突いたりし合ってる程度で、そこまで両国被害を受けてない。四年前と同じだよ。」
「四年も?それって戦争してるっていうんですか?」
戦争は相手を倒すため、常に試行錯誤で攻撃し合うようなイメージを持っていた為、長期間の停滞が異常とサチコは感じてラドに問いかけた。
「まぁね、ただ睨み合いをしてる訳じゃない。イザゼル帝国はガンガン攻めて潰したいんだろうけど、ゴリアム皇国は莫大な資産による魔具や魔道兵器を装備している。
簡単に言えば攻めのイザゼル帝国より守りのゴリアム皇国が有利なんだ。だけど、ゴリアム皇国は守りが硬い分進行しずらい、隙を見せたら一気に攻められる。だからずっと均衡してるってこと。」
「これだけ長期間睨み合いを続けてるんだ、何か動きとかもない?」
「噂すら聞かないね。まぁでも、もうそろそろ一戦交えてもいいとは思うんだけどね〜。戦況は相変わらず。で、裏奴隷の方だけど、担当責任者がもう決まったらしいよ。」
その言葉にノトレムは目の色を変えて少し身を乗り出してしまう。
「本当に?いくらなんでも早くない?候補とか居たりしたの?」
「さぁ〜?ウチの者によるとそいつは完全に新入りらしい。なのに瞬く間に上り詰め、幹部達も妙に潔く認めたそうだ。まぁ、黒爪の方は情報が入るの遅いし質も良くない。だから盛っている部分もあるだろうから鵜呑みにしないようにね。」
ノトレムは背もたれにかかり、顎を触って考え事をしていた。話の内容は理解できるが、サチコはあまりついていけない話で黙ってノトレムの動向を伺っていた。
「....わかった、ありがとうラド君。また何かあったら連絡取ってね。それじゃあサチコちゃん、行こっか。」
ノトレムは一気に飲み物を飲み干して立ち上がり、サチコも慌ててお茶を飲み干す。二人が出ていこうとする所でラドが呼び止めた。
「あ、そうそう。今日は帝都にずっといるのか?」
「ん?ううん、今から帰るつもりだけど何かあったの?」
「最近帝都が物騒でね、夜間に殺人鬼が出現する。夜間中の外出禁止令は勿論、そこらに兵士が散らばってるから過度な魔法を使うとすぐに飛んでくる。もし今日泊まるって言うならそこに注意してって話しさ。」
ドアノブに手をかけていたノトレムの手が離れ、少し目を細める。
「...被害は?」
「今のところ四人殺られてる。しかもこの数日に立て続け、ターゲットは傾向的にそこそこ実力のある兵士の身内と言ったところさ。
帝国軍も出てはいるけど、あんまりいい働きは期待出来ないね。弱い人ばかり狙う殺人暴動、実力も大したことないと判断したのか、この件を担当する兵士も少なめだ。」
「今のところ捕まる見込みはあるの?」
「帝国軍も馬鹿じゃないけど、個人的にはもう少しかかるだろうね。少なくとも後二~三人は殺られる。ここにいる兵士じゃない上級国民は危機管理能力ないからね、禁止令がひかれてもこっそり外へ出るやつらばっかさ。」
その言葉にノトレムは顔を曇らせ考える。帝国軍に任せておけばいずれ問題は解決する、殺人鬼などといった暴動もこれまで何件も起きるが国には適わない。
だが、自分らに出来ることがあるはずと考えた。しかし、サチコの事を思うとノトレムはすぐに行動には移せない。帝都で傷付いていくサチコを見たくはないし、彼女は一刻も早くここから出たいと思っていたからだ。
「....ノトレムさん、私達で何か出来ることってありますかね?」
少し控え目にサチコは自ら口を開く。ノトレムはその言葉に少しだけ驚き、口を半開きにしながらサチコを見る。
「...いいの?僕らがやらなくたって帝国軍が何とかするんだよ?ここから出たくはないの?」
「ここからは早く出ていきたいですし、私なんかが残って何ができるって言われたら...でも、見て見ぬふりなんて出来ないです。何でもいいから、人の役に立ちたい。だから.......」
サチコは床を見つめながら言葉を詰まらせる。言いたいことはいっぱいあるのだが、適切な言葉が出てこない。それをノトレムは察し、微笑みながらサチコの頭を撫でた。
「うん、わかった。僕も同じ考えだからよくわかるよ。それに、早く問題を解決しないとイザゼル帝国兵士の士気にも関わる所まで発展するかも。僕らの活動の為、人の為に僕らで出来ることをやろっか。」
その言葉にサチコは力強く頷き、ノトレムも合わせて頷いた。
「ということで、ラド君。悪いけどその殺人鬼に関してわかる範囲で教えてくれない?同時に情報調達の方も....」
「情報調達は任してもらっていいけど、説明はもう"エンスとリーヤ"にしたんだ。その二人から聞きなよ。」
「え?あの二人帝都に来てたの?」
驚くノトレムを余所にサチコは記憶を遡る。メンバー紹介された時のリーヤとエンスの顔と雰囲気を思い出すことに成功する。
――あのちょっとギャルっぽい子とあのカッコイイ人だよね確か....挨拶とかしたかったけど、魔獣狩り後は少し引き篭ってたし、全然会えてなかったな〜。
「あぁ。元々は城外の仕事らしかったんだが、そこで殺人鬼のことを聞いて半日前にここへ来たよ。今は少し離れた下級国民専用の宿に居るはずだ。」
「わかった。じゃあ合流してみるよ。また追加の情報があったら連絡してね。」
ノトレムはドアを開け、サチコの背中を押しながらゆっくりと閉める。ドアの隙間からはラドが手を振って見送ってくれるのが見え、サチコは小さくお辞儀をするのだった。




