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イザゼル帝都

「そうか....皮肉なものだな。強くなるため、生存確率を上げるためには傷つかなければならないなんてな。サチコは俺達の仲間であり素直でいい子だ。そんな子が傷付き、壊れていく様を見たくないお前の気持ちは痛いほど分かるよ。」



 バルガードにずばり自分の考えを見抜かれ、言葉にして言われるとステアはより一層暗い表情になる。が、床を見つめていた視界から自分のいつも吸っている煙草が目に入り、顔を上げてみるとバルガードは微笑みながら差し出してくれていた。



「ロアさんに言われたことだが、これはサチコ自身が決めて進んだ道だ。誰かに言われたなんかじゃない、自分の意志で歩いている。俺達がやるべき事はそんな子を見守り、支えてやることなんじゃないか?だから、お前がそんな調子じゃあサチコも俺達も調子が狂う。

 前を見続けれるのがお前の長所だからな。」

「...バルガード。」




 バルガードの言葉が胸に響き、少し目頭が熱くなるのを感じる。だが、それはすぐに治まった。

 原因はバルガードの白い歯に食事した時に付いたであろう野菜がこびり付いていたのを見たからだ。


 折角の良いムードが台無しになってステアは気が抜けて笑ってしまうと、当然バルガードは不思議がった。



「何笑ってんだ?俺、変なこと言っちまったか?」

「いや....あんたには救われてばっかだなって思ってさ。」



 ステアから笑みが戻り、嬉しさもあるが言葉の意味がわからず、バルガードは混乱しっぱなしだった。



「なんだよそれ?...あ!もしかして、今の俺ってすげぇカッコイイか?」

「いいや、すっげぇかっこ悪い。」

「は!?んだよそれ!!何が悪かったんだよちくしょう!!」



 頭を齧りながら悔しがるバルガードを見てステアはゲラゲラ笑い、バルガードが差し出してきたタバコをとって火をつける。

 天気がいいせいか心の重みが無くなったのか、いつも以上に美味しく感じるのだった。



「....楽しみだね。」

「フッ...あぁ。不安は少なからずあるが、サチコは強い子だ。彼女が何を学んでどう成長するのか、本当に楽しみだ。」



 二人は陽の光が照らす景色を見つめ、バルガードはふいに煙草を取り出して火をつける。だが、ムードで苦手が克服されることはなく、咳き込むバルガードをステアはまたゲラゲラ笑ったのだった。



 サチコとノトレムがラナ村へ到着したのはそれから二日後の事だった。田舎村といったものの、ナルテミ村とは違い一軒一軒綺麗でまるで新築、村の門も大きい割には設備はちゃんとされており、下級国民の村の中ではいい方とノトレムも話した。


 二人が訪れたのはラナ村でも目立つ石造りの小さい塔のような建物。中に入ると若い男性と黒澄んで汚れている老人がいた。依頼人はこの老人で、イザゼル帝国へ搬送する魔鉱石を回収に来た馬車に指定数の納品し忘れたのだと言う。


 この建物の地下にはその魔鉱石・ロコラドが眠っており、地下を掘り進めて採取している。

 魔鉱石・ロコラドは白く輝く鉱石で、軽く頑丈な剣を作るのに欠かせない。採取場所も限られているため、この村が比較的豊かなのはこの鉱石のおかげだという。


 だが、今回のような納品ミスを犯すと、それにつけ入りペナルティをかせられるため、ここの住人は安心しきってはいない。


 袋に敷き詰められた魔鉱石を渡され、ノトレムはそれを受け取ると軽々しく肩に乗せた。

 今回お世話になるということで少し休憩させてもらってから二人はイザゼル帝国を目指して移動を始めた。


 イザゼル帝国に到着したのは村を出発してから一週間経過した後だった。


 帝国の近くに聳え立つ山を下山している際に帝国全体を眺めることが出来たが、その大きさは視界に収まりきらない大きさだった。

 日本にいた時に測ることや全体を眺める事などなかったが、帝国は県一つ、二つに匹敵する大きさだと感じていた。


 そしていざ城壁近くへ行くと、そのスケールの大きさにサチコは驚愕する。建物のかのように聳え立つ城壁、縦はビルのように大きいが横は曲線を描きながらもどこまででも続いていた。



 ――教科書くらいでしか見たことないけど、まるで万里の長城みたいだ。これが帝国...もっと小さいものかと思ってたけど、この中には上級国民とかもいるんだよね。そうなったらこの大きさはあくまで自然なのかな?


 サチコはこの世界に来てから自然という自然を味わっていたため、このような巨大な人工物を見るとまるでこれからまた別の世界に行くような気がして緊張していた。



 城壁をジーッと見つめるサチコにノトレムは声をかけた。帝国に入る手前には魔獣を置いておく施設があり、そこに魔馬は置いていくとの事だった。


 施設内の人は下級国民で親切、上級国民からの制裁が加わるんじゃないかと妄想していた分サチコはホッとした。


 アビアをその施設に預け、ノトレムとサチコは城壁の前に移動する。

 すると、ノトレムはゴソゴソとカバンを漁ると、木造のスタンプを取り出した。



「何ですかそれ?」

「下級国民の紋章だよ。これがないと国民として扱って貰えないし、帝都に入れないんだ。まぁ紋章だけで入れるわけじゃないんだけど...でも、サチコちゃんはこれを身体の何処かに付ければ入れる筈だから心配しないで。

 じゃあどこに付ける?痛みはないし好きな所でいいよ。僕なんてここにあるし。」



 ノトレムは上着を半分脱ごうとすると、彼の右肩には小さな龍を描く白い紋章が貼られていた。



 ――これが下級国民の証か...痛みはないって言ったから、感覚的にはタトゥーシールみたいな感じなのかな?



「あ、でも見えやすいところはあまりしない方が良いのかも。僕らって復国軍で活動する時は基本的にバレちゃいけないから変装するんだ。その時に紋章が見えたらどっち側の国民かって情報が入っちゃうからね。」

「なるほど...じゃあどうしよう....お、お腹でもいいですか?横腹に付けるみたいな感じで...」

「うん、全然いいよ。じゃあちょっと服上げて。」




 ノトレムに言われて彼女はブレザーの下の白シャツを捲った。スカートから上の素肌が顕になり、そこにノトレムはスタンプを近付ける。

 この時、サチコは上を見つめて後悔していた。



 ――あまり考え込むのは迷惑だから何となくで言ったけど、辞めた方が良かったな〜。紋章見せる度お腹見せるなんて絶対恥ずかしい...今更訂正する訳にもいかないからもう無理だけど....



 そんな後悔を感じていると、右横腹に冷たい感触を感じる。冷えた金属を当てられるかのようなひんやりとした感覚、それが数秒続くとノトレムはスタンプを離した。



「はい!これでいいよ。痛みとかなかったでしょ?」

「....はい、ちょっとひんやりとしましたけど。」

「これでもう帝都には入れるはずだよ。これから入る為の検査を受けることになるんだけど、相手は今までみたいな下級国民じゃない、上級国民の兵士だからくれぐれも気をつけるようにしようね。」



 その注意喚起にサチコは息を飲みつつこくりと頷いた。一歩一歩とノトレムに着いていき、城門手前の人通りがある場所へ向かう。



 ――正直何が待っていてどんな事をされるか分からないから怖いけど、頑張らなくっちゃ!



 サチコは己を奮い立たせつつ、二人は大きな城門横にある丸い部屋へと入室した。本来大荷物の運搬とかは城門で行われるが、手荷物であり少数人だとこの部屋へ来るのだとノトレムは言う。

 暗くて何も音が聞こえず、ノトレムの服をつまみながら彼について行く。やがて二人は部屋の中心へ来ると部屋の周りに火が灯り始めた。

 光で照らされた部屋の中は細長い銀色の銃口が二人を囲うかのように並べられていた景色へと早変わり。


 石作りで外の景色は何も見えず、薄暗い空間でフワフワひとりでに浮いている妖しく光る銀色の銃。サチコはビックリして思わずノトレムにしがみついた。



「ハハッ、大丈夫だよサチコちゃん。」



 ノトレムは微笑みながらサチコの頭を撫でた。その手と言葉でサチコは銃口を向けられているのに関わらずホッとしていた


 すると、どこからか男性の声がその空間に響いた。



「何者だ?所属を言え。」

「第四区間にある灰色の十字架(グレークロス)というギルド所属、ノトレムと彼女はサチコです。本日は運搬の仕事を引き受け、ここに来ました。」

「...紋章と証拠となる物を提示せよ。」



 ノトレムは上着を巻くって紋章を斜め上方向に見せるようにしており、サチコもそれに習って同じように出した。先程後悔していたのが早速活かされ、サチコは顔を真っ赤にしていた。


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