もう一人の運命②
そんな疑問を残しつつ、ナナリー達はゴリアム皇国皇都に辿り着いた。馬車の窓はカーテンで閉められており、僅かに見える隙間から見てみると、どこの誰もが裕福で笑顔、今まで食べたことも無い美味しそうな食べ物をおやつ感覚で食べ歩いているものもいた。
まるで天と地、自分らとはまるで別世界で生きているとナナリーは痛感したのだった。
皇都を少し進んでいくと馬車は止まった。馬車のドアをノックされ、購入者がカーテンを開けると馬車を操っていた人物が頭を下げながらドアを開ける。
「...降りるぞ。」
そう言いながら購入者は降り、ナナリー達も不安そうに馬車を下車する。馬車から降りた光景は凄まじかった。
ナナリー達が降りた場所は綺麗な白い石が敷き詰められ道となり、その他は整えられた芝生が見渡す限り広がっていた。近くには白い噴水、花や木が生い茂り、目の前には大きな白い豪邸。
外見から感じられる清潔感、それはここに住む者の位を表しているかのように感じる。
本来ならここは目を輝かせ、この豪邸を思うように見て回りたいと思うところだが、ナナリー達は自分のされることに恐怖するしか無かった。
すると、茶色の大きな玄関の扉が開き、中からメイド一人にヒツジ二人が出てきた。綺麗で清潔感溢れる衣服を来ている彼らは、靴の音を辺りに鳴かせながら一直線に歩み寄り、ナナリー達三人の背後へ回ると立ち止まった。
なんの事か動揺しているとヒツジら三人は振り返り、ナナリーの方にはピンク色でロングヘアーのメイド、後の二人には短髪でキリッとした顔立ちの者と肌が黒いヒツジがそれぞれ真裏に立った。そして、ナナリーは肩を掴まれたかと思うと、首元には銀色の刃物が置かれた。
刃物を目にしてナナリーはブワッと汗が噴き出し、身も心も硬直した。チラッと隣に並んで立っている二人を見ると、ナナリー同様刃物を突きつけられてガタガタと震えていた。
そんな状況が飲み込めない三人の前に購入者は立ち、口を開いた。
「これから君らにある質問をする。その質問には正直に答えるのを願う。私の個性魔法は嘘を見抜く魔法、故に虚言することは出来ない。答えをうやむやにするのもなし、はいかいいえでしか回答は認めない。
もし、嘘を付いていたり、変なことを言い出した時の処遇は言うまでもないな?」
購入者がそういうと、ナナリーの首元にある刃物がゆっくりと当たってくる。冷たい金属の熱はナナリーの心も冷やし、恐怖で頭をいっぱいにしていた。
「....さて、質問をしよう。君らには帰る場所があるか?君らを出迎え、匿ってくれるような人物は存在するか?答え給え。」
そんな質問にナナリーは頭が真っ白になる。言われたことに答えることは簡単だが、どうも裏があるようにしか思えなく、何を言ったらいいか分からなかった。その感覚には刃を向けられる二人も同じなのか、呼吸だけは荒れて誰も話さない。
すると、ナナリーの後ろにいたメイドがしびれを切らしたか、ナナリーの肩を強く掴んでぐーっと圧力をかける。"早くしろ"と行動で言われ、ナナリーは汗まみれになりながらもゆっくりと口を開いた。
「い、いいえ...い、いない...です。」
恐る恐る言葉に出したナナリーを購入者はジッ見つめる。個性魔法で嘘か真か見極めているのか、重い空気が漂っていた。
「....他の者はどうだ?早く言わなければ命を落とすことになるぞ?」
「い、います!貧民街に僕の両親が...」
小太りの子供はその購入者の圧に耐えきれず、声を出した。それに慌てて、鳥の獣人も続いて質問に答えた。
「ぼ、僕もいます!結構田舎の方の村で....」
「.......なるほどな。」
購入者はそう呟くとその場でパチンッと指を鳴らした。それが処刑の合図のように聞こえた三人は顔を真っ青にするが、実際に起こった事は逆。刃は首元を離れていった。
「....え?」
ナナリーはあまりの動揺に思わずそんな声が漏れだした。殺されると思ったらそうではない、二択のどちらの答えも出たのにどうもしない、場は異様な雰囲気へ変わっていく。
「ふぅ〜...それじゃあブラウンとナルバはその子二人を馬車に乗せて。その子は私についてきなさい。」
購入者は先程までの重苦しい言葉とトーンが消え、首裏をポリポリかきながら指を差して指示をする。
名を呼ばれた二人のヒツジは裏奴隷の二人の背中を押しながら動揺している二人を馬車へ乗り込ませた。
そんな状況を呆然とナナリーが見ていると、背中をポンっと叩かれてビクッとする。背中を叩いたメイドの女性はニコッとナナリーに微笑みかけ、顎で購入者の方を差した。
先程まで真顔で刃物を突き立てていた人間が人が変わったかのように愛想良く、ナナリーは目を丸くしながら購入者の方を見ると、首裏をまだポリポリ齧りながら購入者は手招きしていた。
「何してるの、早く来なさい。」
現段階の状況が全く飲み込めないナナリーは恐る恐る、購入者の元へと寄っていく。ナナリーが来たのを見て購入者は足を目の前の大きな豪邸へ進めた。
ナナリーは購入者の背中について行きながら豪邸の中へ入る。白い清潔感ある外見とは違い、中はどこもかしくも金色でキラキラしていた。
階段や壁も金色で赤い絨毯や赤い花が上手くマッチングし、シャンデリアや白い銅像、高そうな絵や垂れ幕がそこら中にあり、正に選ばれたものの住処。
見たことも聞いたことも無い豪邸にナナリーは目を丸くしていると、購入者はさっさと先へ進んでいき慌てて後を追う。玄関先にある階段は登らず真っ直ぐに続く廊下を歩く。
玄関だけでなく廊下も綺麗で派手なだけでなく清潔感にも溢れていた。まるで観光しに来ているかのような気分になっていたナナリーだったが、購入者がある一室へ入ると同時に警戒心と嫌な予感を感じる。
飲み込みずらい唾を飲み込み、意を決して部屋に入る。その部屋は食堂のようだった。白い布をしかれた長い机が部屋の中心にあり、高そうな椅子が綺麗に並べられていた。
購入者は机を回って窓際の椅子を引くと、ナナリーに座るよう目で訴える。ナナリーは少し警戒するが購入者が何をするでもなく、ただ普通に座った。
その対面に購入者は腰をかけ、ため息を吐きながらマントを外した。
マスクを外した購入者の顔を見てナナリーは瞳孔を見開いて驚いた。購入者は女性、鼻や目は小さく目もまん丸で可愛らしいのだが、彼女の頬には三本の細長い毛が生え揃い、目も人間のように丸い動向ではなく縦に長い。耳は目の横ではなく頭の上に生え揃っていた。
彼女が青い体毛で覆われる猫の獣人なのは見てわかる。獣人なのはこの世界では珍しくはないが、ゴリアム皇都で手錠もなく存在しているのが珍しかった。
ゴリアム皇国はイザゼル帝国以上の差別国家、人間が代々王となっている為、獣人の扱いは酷い。
獣人の殆どは城外へ追いやり、上級へ上がるのは人間の条件以上に厳しい為、城内で見かける獣人はまず奴隷というのがゴリアム皇国に生きるものにとって常識だったからだった。




