もう一人の運命
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鬣犬対黒爪の死闘、結果は鬣犬の圧勝となったが失ったものも大きく、決して気分晴れるような内容ではなかった。
そんな死闘の最中、別の場所で絶望的な気分に染っていた少女がいた。
少女は揺れる馬車の中、ボーッと薄暗い汚れた両手、そしてその手首に繋がれている魔具の手錠を見ていた。
これ一つ繋がれるだけで自由を失い、人としてのランクを下げる最悪の魔具。そんな魔具に怒りは感じつつも、少女にはそれを覆い尽くす絶望を感じて薄れてしまう。
その絶望とは馬車に乗せられて少しした後、この行く末が地獄ということに失望していた少女が耳にしたことが原因だった。
馬車を運転していた黒ローブが何やら慌てているようだったので耳を傾けると、この馬車発進から間もなくして鬣犬という山賊が襲撃、黒爪が痛手を負っているという情報だった。
そんな大胆な事をする山賊に驚愕すると共に、少女・ナナリーは暗い感情に押し潰されてポロポロ涙を零した。
――なんで...なんで今更なの?もう少し早かったら私だって助かったかもしれないのに....なんで私はこんなに運がないの?神様はどこまで私を見放せば気が済むの?
この感情はナナリーだけでなく、同じく第一郵送で送られている者にも同じなのか全員落胆、悲しみを顕にしていた。
薄汚れた緑色の髪を前に垂れ流し、ナナリーは蹲って静かに泣き、ここに来たことを思い出した。
ナナリーはゴリアム皇国所属の小さい村、クガ村という場所で生まれた。戦線とは大分離れた海に隣接する村で、貧しい村にとって魚を主として生きていた。
この村と戦線を挟んだ所にゴリアム皇国があるという形、ゴリアム皇国は城内の人間しかほぼ守らない。が、例え戦線が崩れてイザゼル帝国が攻めてきてもゴリアム皇国城内、この村に被害はないのはほぼ確定なので実質守られているという幸運な村。
だが、それはゴリアム皇国も重々承知している為、この村とそれに似る村には当たりが酷く、色んな請求をしてくる。金や食料を必要以上に奪い取り、その村は本来他の村と比べて裕福になる筈が一気に最下層の貧民村に化してしまう。
ナナリーの母親は自分を産んだのと同時に死亡、それからは父親が一人で育てるものの、その父親はマトモではなかった。自分が抱えるストレスを自分の娘に暴力としてぶつけ、家事等は全て小さい娘にやらせて自分はぐーたらしている。
つい最近になってからはナナリーは仕事もやらされた。それも父親の分まで稼がなければならなく、もし稼げなかったら自分に罰、そして自分の分は持っていかれる。
ナナリーは何度もそれを村の人に訴えたが誰も手は伸ばさない。助けない方がこの村にとっては都合が良いのだ。
ゴリアム皇国は皇族・貴族・上級・下級と基本的に分けられている。そのランク事に国は国の上納金ランキングを作り、それで身分の移動をしている。
つまり、下級国民も頑張って金を作ってランキングトップにいれば、ランキング最下位の上級国民と入れ替わりで上がることが出来る。
が、それはそんな簡単な話ではない。位が低い者たちには特別厳しくし、中々上がれないような仕組みをとっている。下級国民の上がり方はランキングトップを三年連続、そして上がる際には別にまとまった金も必要なので下級国民から上がるのは滅多にない話なのだ。
このランキングは村、街の決められた区域一丸となってやるものであり、条件を満たしたとしても上級へ上がれるのはその中の一家だけという決まりだ。
そしてここで気になるのはランキング最下位の下級国民の村や区域だ。最下位になった所に付けられる条件とは、その村や区域から一人、奴隷落ちにされるのだ。それは三年連続最下位という決まりはなく、一年で最下位になってしまったら適応される。
故に、貧相な村でまともに上納金を上げられない村にとってベロラム一家は都合のいい生贄、最低でも二年はもつ算段だ。
そんな村の算段に出来損ないの父親は勘ぐり、腹を立て、彼は恐ろしいことをした。それは黒爪との商談、ナナリーは父親に売られて裏奴隷として攫われたのだった。
その事実に村はパニック、自分達の身を守る生贄が居なくなったのでそれは慌てる。そしてそんな慌てる村人の姿を見てナナリー父は満足そうにしていた。
そう、彼がナナリーを売ったのは自分が奴隷に落ちたくない一心でやったことでは無い、ただの憂さ晴らしの為だけにナナリーを売ったのだ。
ナナリーは勿論、父親が裏で手を引いて自分を攫わせ、金を得ていたのは知る由もない。が、その日だけは父親の暴力はなく、常にニコニコと笑っていた為、何となくだがナナリーは察していた。
奴隷よりも遥かに酷な裏奴隷に落ちる現実、ナナリーは幼くも不幸続きの人生に嫌気がさしていた。自分の何が悪かったのか、何をどうすれば幸福に生きれるのか、ナナリーにはまるで思い浮かばなかった。
逆に落ちる想像はこれでもかと言うほど楽に思い浮かぶ、右下転がりの人生を送ってきていたナナリーにとっては造作もないこと。
痛みで苦しみもがき、苦痛の限りを与えられ、人とは言えない肉塊になって命尽きる。そんな想像ばかり思い浮かぶのだった。
すると、急に馬車のスピードが緩まり、馬車は停車。奥からナナリーは強引に馬車から黒ローブに引っ張り出される。それにナナリーは抵抗しない、どうせ足掻いても苦しむ運命は変えられない、どうしようもないと諦めきっていたからだった。
引っ張り出された場所はゴツゴツと小石が転がっている山道、獣と自然の香りが漂い、黒ローブに連れられて少し歩くと立ち止まる。地面に向けていた視線を上げると、黒いマントに黒い革製の服、顔も見られないようにか黒いキツネのようなマスク。全身黒詰めの人物が目の前に経っており、それは自分の購入者だと言うことにナナリーはすぐに気が付いた。
「態々御足労頂き感謝します。早速、これがお客様今回購入されたナナリー・ベロラムです。」
真隣にいた黒ローブはナナリーの背中を押し、購入者の面前へ立たされた。マスクで顔は分からないが目線を感じ、ナナリーはブルブルと身体を震わしていた。
「.......それでは、これは約束の金額だ。受け取れ。」
声で女性としか分からない購入者はマントから袋を取り出し、黒ローブに手渡しする。黒ローブはそれを受け取ると早速開けて、ジャラジャラと金塊の音を出しながら中を確認した。
「...えぇ、間違いなく頂きました。今後ともによろしくお願いします。次のオークション日程が決まりましたら、またお知らせさせて頂きます。」
黒ローブは深くお辞儀をすると急いで馬車の中に乗り込んで、次の場所へと向かう為に引き返して行った。
購入者はジーッと姿が見えなくなる黒ローブの馬車を見つめていると、今度は再びナナリーの方へ目線を向ける。ナナリーはあからさまにビクッと身体をはね上げ、ガタガタと震えていた。
「.......それじゃあ我々も移動する。乗れ。」
購入者が振り返った先には高級感漂う馬車があり、その馬を操る人も購入者同様黒ずくめだった。
ナナリーは購入者に背中を押されながらも、少し段差がある馬車へとゆっくりと乗車する。
中は赤い絨毯に赤い長椅子、壁は白で香水のいい匂いが充満していた。そして、その高級感に不似合いな人間が二人、既に乗車していた。
全体的にシュッとしていて、髪のような白い羽毛、唇にあたる所はクチバシで目もキリッとしている鳥の獣人。そしてその横には少し小太りで鳥の巣のような黒い髪の男の子が座っていた。その二人とも衣服はボロボロ、手には自分と同じように手錠の魔具を付けられている。
また別で売られていた裏奴隷だとすぐに分かり、ナナリーはその二人に対面するように奥へと座り、購入者も乗り込んでナナリーの隣へ座った。
馬車はゆっくりと動き出し、小石にぶつかりながら揺れていた。案の定、馬車内は沈黙で溢れていた。裏奴隷の運命を辿り、これから自分が玩具の如く弄ばれると分かっている三人はそれどころでは無い上、肝心の購入者はマスクすら外さず腕組みをして黙っていた。
変な重圧を感じさせる馬車は長い時間動き続け、途中で何泊もすることになった。
泊まるといっても馬車から出して貰えず、汚い布を渡されるだけで食事も果実のみ。裏奴隷としてはもはや当たり前のような待遇なのだが、ナナリーは購入者も同じように食事も果実で汚い布で馬車内で就寝していた。
――ここから逃がさないって事で馬車にいるのは分かるけど、何で私達と同じなの?...この人も、私達と身分が同じで誰かの命令で動いてるのかな....




