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手料理

 そして今、この世界では二つの大国が戦争している真っ最中。"金の国・ゴリアム皇国"と"力の国・イザゼル帝国"。数年前から行われているこの戦争は未だ決着する感じはなく、均衡しているらしい。

 因みにその二つ以外の大国は無く、この戦争に勝った国が実質この世界を支配すると言っても過言ではない。



 「....っというのが大体の感じですかね。分かりにくかったらすいません」

 「あ、いえ。とても助かりました。ありがとうございます。」



 ――大体は把握出来たけど、やっぱり気になるのは魔法だよね。あの時の漲った力、あれは私の個性魔法(オリジナルマジック)なのかな?

 だとしたら心配だな...「身分証明に個性魔法(オリジナルマジック)見して」って言われて見したら邪険にされて最悪殺されそう....



 そんな事をボーッと考えていると、部屋にラーズが現れた。両手に持っている御盆の上には湯気が立っている料理、ラーズはそれをサチコの膝辺りに優しく置いた。


 お粥のような料理だが、現代とは違い緑っぽい色をしていた。湯気の温かさとその匂いが鼻を刺激し、今にもヨダレが垂れそうに食欲が湧いてきた。



 「.......この世界の薬膳料理だ。腹には入るが、味は保証しない。...口に合わないなら残して構わない。別のを探す」



 ラーズはなるべくサチコと目線を合わさないようにして喋った。それがラーズの気遣いだと悟り、サチコは罪悪感を感じながらもスプーンを手に取り、一口食べてみた。


 何を材料に使っているが分からないが、フルーツのような甘味が口を満たしていく。噛めば噛むほどより甘味が増していき、口の中に幸せが充ちていく。

 飲み込むのも喉に引っかかることなくスムーズで、体内に入れると料理の温かさが伝わり全身がポカポカ温かく心安らぐ。


 サチコは大食らいという訳でもないが、その料理の美味しさにガツガツと男性のように口に運び込んでいた。



 「美味しいでしょサチコさん!ラー君は人付き合い苦手だけど、料理はとても上手なんですよ!良かったですねラー君!」

 「....まぁ...気に入って貰えたなら....それに越したことはない...」



 ラーズはポリポリと頬をかきながら窓を眺め、シアラはクスクスと静かに笑っていた。そんな二人をよそに食べていたサチコだったが次第に食べるペースが遅くなり、遂には食べなくなった。その代わりにポロポロと涙を零し、シアラだけでなくラーズも焦っているように反応する。



 「そ、そんな無理に食べる事は無い....合わないなら合わないと」

 「違い...ます....美味しすぎるんです。とてもとても美味しくて...涙が.......ごめんなさい....ごめんなさい...」



 サチコは顔をクシャクシャにしながらゆっくりと食べ始める。

 身体が温まると今まで冷めきっていた心が癒される。溜め込んできた不満が一気に押し寄せてきて涙が止まらなかった。

 今までサチコは弱みの吐きどころがなかった。どんなに苦しくても辛くても、サチコの悩みを聞いてくれる友達も家族もいない、そんな壊れていた心を料理が治してくれる。


 「今まで辛かったね。」「もう我慢しなくていいんだよ。」料理の旨みと温かさがそう言ってくれるかのように身体の芯に染み渡る。



 ――手料理がこんなに美味しいなんて知らなかった...こんなにも温かいなんて知らなかった....ありがとうございます...シアラさん、ラーズさん....本当に.......



 「ぅぅぅぅ...ウグッ....ヒグッ.......」



 泣きながら食べるサチコにシアラとラーズは声をかけずにただ優しく見守ってくれた。

 この二人とは出会って間もない、お互いのことは殆ど知らない。

 だがサチコは確かに感じていた。料理ではない、人の温かさを感じている。サチコは今一度人を信用したい、この二人を信じたいと心から思った。



 サチコが食べ終わると、シアラはハンカチを手渡してくれた。涙を拭いているサチコにシアラは優しく声をかけた。



 「サチコさん、貴女は元いた場所に帰らずこの世界を選んだ。その選択を私は尊重しますし、暫くここで落ち着いた生活もいいでしょう。

 ですが、貴女は選ばなくてはいけません。ゴリアム皇国へ属するのかイザゼル帝国に属するのかを」

 「...どういうことですか?」

 「この世界はこの二つの大国で出来ていると言っても過言ではありません。他の村や地域も全てどちらかの国に属しています。

 それぞれの二つ名の通り、ゴリアム皇国は金を、イザゼル帝国は実力を見せれば上級国民へとなります。

 ただ、それが出来なかったら正に奴隷のような待遇、下級国民と称され、国の養分のような存在になってしまいます」



 シアラの口から出た言葉にサチコは少なからず動揺する。元いた世界では奴隷制度が撤廃しているのは勿論、上級や下級で表向きに国民を分けている国は聞いたことも無い。そして、それらの厳しい制度に自分が今から適応しなくてはならない。



 「そんなの、差別じゃ....」

 「お前がいた国ではどうか知らない...ただ、この世界ではそれが常識なんだ....結果を残した人間は美味い飯を食べ....残せなかった人間はゴミを漁る。死体として転がっていても、下級国民と分かれば誰も気にはしない....」

 「それぞれの国に属するルートは確保してあるの。だから後は貴女の選択だけ。イザゼル帝国は戦闘面の実力だから、女の子には厳しいかも...でもゴリアム皇国のようにお金を作る時間はかからない。

 急で申し訳ないけど、今選んで欲しいの。どちらの国で生活するかを」



 急に提示された究極の二択、当然すぐに回答出来る訳もなく頭を抱えた。どちらに行ってもボロ雑巾のように倒れ込む自分の姿しか浮かばない、それは今まで人に見下されていた者にとって必然的に考えることだった。



 「.......なんで人を差別するんですか?」



 サチコが悩んで出たのは回答ではなく質問だった。サチコ自身、キッパリと答えたかった気持ちはあったが、あまりに大きい疑問を優先した。



 「なんで自分より出来ないから、下手だから、弱いからって理由で傷付けるんですか?....差別が出来るんですか?...人を玩具みたいに扱っていいんですか?....

 その人だって好きで出来ないわけじゃないのに、精一杯やってるのに...なんで誰も評価しないの?なんで誰も認めてくれないの....なんで酷いことをしてもいいの...?」



 サチコはグッと拳を作りながら震えていた。自分の経験と重ねるように放った言葉は自分に響く、思い浮かんでくる苦い思い出。

 どれ程頑張っても認めてくれない親、自分より力があるが故にイジメてくる同級生三人、そしてこの世界で巧みに騙して酷い仕打ちをした山賊。

 サチコは涙を堪えながら自分の気持ちを精一杯言葉にした。そうせずにいられなかった。



 ――きっと面倒と思われてるよね....すぐ泣きそうになってモジモジって...本当に嫌だ....こんな弱い自分が嫌いで堪らない...折角親切にしてくれたのに迷惑しか....



 そう思えば思う程感情が高まり、涙を抑えるのがキツくなっていく。

 そんなサチコの肩にポンっとシアラは手を置いた。サチコはバッと顔を上げると、シアラは微笑みながら涙を零していた。


 そんなシアラにサチコは勿論、ラーズも目を丸くしていた。



 「.......シアラ?」

 「あ、ごめんなさい。何だか嬉しくって...別の世界でも同じ感性を持ってる人がいると思ったら....

 サチコさん、ありがとうございます。そうですよね、私もサチコさんと同意見です。

 .......少し、会って欲しい人がいるんですけどいいですか?」



 シアラの反応にどう接したらいいか分からなかったサチコは、流れに身を任せるように頭を縦に振った。

 すると、その直後に部屋のドアが開くと一人の男性が現れる。

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