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vsグリム③

 サチコの降伏宣言も意味もなく、グリムの釘がノムに襲いかかった。



 当然ノムにそんな攻撃を避ける技術も時間もない、狙いも完璧で当たらない道理などなかった。



 だがその釘は狙い通りノムには当たらず、飛び込んできた別の何かに刺さったのだった。




「...姉ちゃん?」



 ノムは震える声で自分を抱きしめているマラを呼ぶ。砂埃や傷だらけで髪もボサボサのマラだが、ノムにそう呼ばれると顔が汗だらけになりながらもいつものようにニコッと笑った。


 大きな釘はマラの背中に痛々しく残っており、サチコはその光景に言葉を失い、グリムは更にイラついた。



「本当にムカつく....庇うんじゃねぇ!!さっさと死んどけぇぇ!!!」



 グリムはノムの魔法で固定されていた右手も強引に動かし両手をマラに向けると釘を容赦なくどんどん連射する。掌程の大きさの釘がまるで銃弾のように飛んできて、何本か外れるものはあってもそれ以外は全てマラの背中へと刺さる。



「姉ちゃん!!!」



 血反吐を吐き、激痛に襲われ、ノムを抱きしめている力さえも消えかかっている、でもマラはノムを離さなかった。ノムを守り続けた。

 動向が見開いているノムに対して、マラは苦しみながらもニコッと笑った。


 その瞬間、マラから笑顔が消えた。ピタリとロボットのように顔を固まらせたマラにノムは恐怖を覚えた。


 背中を襲い続けていた釘が、マラの頭へ直撃したのだった。



「ね...姉ちゃん....」

「.......ノ............ム...」



 血の涙を流しながらか細い声で愛しい弟の名前を呼んだマラは、身体の力がスっと消え失せ、ノムの横へ倒れ込む。今起きていることが信じられないノムは、必死にマラの身体を涙を流しながら揺さぶっていた。




「姉ちゃん!!姉ちゃん!!姉ちゃん!!!」



 そんなノムの泣き叫ぶ声が響き渡るが、マラの声は聞こえない。そんな胸の中に黒い物が溜まるであろう空間で、ただ一人笑っていた男がいた。



「アハハハハっ!馬鹿な小娘ね!!そんなクソガキほっとけば生きれたかもしれないのに、自分から死ぬなんて本当におかしいわ!!

 まぁいいわ、そのクソガキもすぐにあの世に送ってあげる。」



 グリムは笑い涙を流しながらも、ノムの頭に狙いを定める。必死に泣き叫ぶノムを見て笑いが止まらないグリムだったが、その表情はすぐに固まった。


 異常な程のドス黒い殺気と魔力に一瞬自分の首が撥ねられたと錯覚してしまう。全身から冷や汗が拭きでてノムに向けていた手を自分の首元へ移し、本当に無事なのかを確認してしまう始末。


 その異常な殺気を放っていたのはサチコ、自分の中に染まっていく黒い感情を感じつつ、鋭い目つきでグリムを睨みつけた。



 ――....私は自分の魔法が嫌いだ。こんな時にしか、手遅れになってから力を与えてくれるこの魔法が大嫌いだ。でも、それ以上に私は...私自身が憎い...私がもっとしっかりすれば、魔法に頼らない力、精神さえあればマラさんを救えた。試験や魔獣狩りで上手くいったからって鼻を伸ばして....

 臆病で小心者で泣き虫の弱い自分が本当に憎い!!



 グリム、そして自分自身に対する怒りに近い憎しみを感じれば感じる程サチコの魔力は底なしに膨れ上がっていく。周りの空気もどんよりも冷たく重く変わっていき、息をするだけで苦しく、白い息さえ出てしまうんじゃないかとグリムは感じる。


 それと同時に察する。技術では埋めることが出来ない強大すぎる魔力、自分ではどうすることも出来ないという敗北が頭を過り、そして死を察してしまう。


 重い唾を飲み込み、グリムは何とか笑顔を作って下手の態度を示した。



「や、やだね〜サチコちゃん。そんな本気にならなくてもいいじゃない。サチコちゃんがそんなに怒るなんて想定もしてなかったし、私はただ楽にサチコちゃんとお出かけしたかっただけなの。

 だから、あそこの娘もしっかり治すし元の家に戻してあげるから機嫌直してくれない?ね?」



 そんなヘラヘラしているグリムをサチコは一瞬見るだけで、すぐに自分の足に目線を向けた。足に刺さって血がドクドク流れている右足を諸共せずサチコは平然と立ち上がり、刺さっている釘を乱暴に引き抜いた。

 血の流血に対してサチコはリアクションも取らず、その事にゾッとしているグリムにサチコは引き抜いた釘を思いっきり投げた。


 魔力の力で増大した遠投は凄まじく早く、足元の地面に深く刺さってからグリムはようやく反応する。

 その事実にグリムは顔を青ざめ、ノムの魔法を強引に引きちぎって拘束から逃れると、必死に両手を合わせて何とかサチコの魔力を抑えようと善処した。



 ――この子は感情型、その感情だけ何とかしてしまえば魔力は収まるはずだからそこだけが勝機。

 感情型だからある程度予想はしてたけどここまでなんて....



「何するのよサチコちゃん〜、確かにちょっとやりすぎた所はあるけど、こんなのただの冗談よ〜。その証明にあの娘を治してあげる!だから、その魔力何とかならない?気が散っちゃって治療どころの話じゃないのよ〜?」



 こんなことを言うグリムだが、マラが生存する可能性は無いのは分かっていた。致命傷なのは間違いなく、当然治せる前提で攻撃した訳では無いのでグリムにとっては当たり前の結果だった。


 そんなグリムの思いがサチコにも伝わっていたのか、グリムの虚言に耳を傾けずにサチコは思いっきり大地を蹴って突進する。


 そのスピードと威圧感はさながら坂道を急速で駆け下りる暴走トラック、自分ではどうしようもない殺意の塊がグリムに近付いてくる。


 グリムはその恐怖で身を震わしながらも、両手をサチコに掲げて釘を次々に乱射する。が、それに対してサチコも手をかざして力を込めると、黒い霧が噴出され、グリムの釘をはじき飛ばしてそのままグリムへ直撃した。



 グリムはその霧に弾き飛ばされ、後方へとゴロゴロ転がりながら倒れた。するとサチコの魔法の影響で凄まじい吐き気と苦痛がグリムを襲った。



「う、うげぇぇぇぇぇ!!!」



 ボトボトと口から胃液を吐き出し、下からも体液が漏れ出す。上品さを兼ね備えていた時とはうってかわり、グリムの荒れ果てた姿をいつの間にか急接近していたサチコは見下ろしていた。


 荒れて苦しい息をしながらグリムは自分の間近にいるサチコを見上げ、その冷たく鋭い目線に心から恐怖してしまう。

 だが、奴隷に追い込まれた事実が奴隷商人のプライドを傷付けたのか、グリムは力をふりしぼり、立ち上がりと共に右手に生える釘をサチコに突き刺そうとした。


 その攻撃は命中、サチコの左肩へ深く刺さり、グリムの頭には勝機の二文字が思い浮かんだ。



 ――ここ! ここしかない! この娘は魔力以外がまるでポンコツ、その隙を突くしかない!左肩に意識がいっている間にこの娘の首にもう一方の釘で討ち取るしかない!!



 苦しみながらも微かに見えた勝機の光にグリムは笑い、左手を思いっきり振りかぶってサチコの首へと釘を伸ばす。

 グリムの狙い通りにサチコの意識は完全に左肩の方へと移っていたが、サチコは首元にくる殺気を無視し、自分の左肩に伸びている釘の先、グリムの右腕をグッと掴んで爪を食い込ませる。


 服を貫き、皮を破り、肉に侵入する爪。そこにサチコは意識と魔力を集中させた。



 ――もう...動かないで!!!



 サチコの恨みと思いが握力と魔力へと伝わり、グリムの顔も歪んでしまうが、それに耐えつつグリムはサチコの首に釘を刺すことを優先させた。


 そしてその釘はサチコの首に触れる手前でピタリと止まる。



「....え?」



 その現象にグリムも思わず間抜けな声が出てしまう。腕は伸びきっている訳でもないのにまるで見えない壁があるかのように首元へ攻撃は届かない。否、腕だけでなく身体全身も石になってしまったように動けなくなっていた。

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