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vsグリム②

 今のサチコには憎しみを得る材料が殆ど残されていない。あるとすればグローズリーが殺されたことだが、今のサチコにはそこまで気が回らなかった。思い出で憎しみを得られない、それがショックだった。


 何の障害もなく近付くグリムに対して顔を真っ青にして見ることしか出来ない。だが、腰に携えた短刀がふと手に当たり、最後の希望である短刀で抵抗しようとした。



「あら?もしかして私と戦う気なの?貴女は私の大事な商品、傷付けることは極力したくないのだけど、抵抗されるとそうはいかないのよ。さぁ、それを置いてくれれば痛い思いはしないわ。」

「こ、来ないで!お願いだから来ないで下さい!!私達を逃がして!!」




 サチコは拾い上げた短刀をグリムに向ける。意図も容易く人の命を絶てる銀色の刃だが、相手を萎縮させるところがカタカタと先端が震えてしまう。



「強がっちゃって....言っておくけれど、魔力が高いから自分の方が強いって勘違いは辞めた方が良いわよ?いくら強い大砲も当たらなければ意味を成さないからね。私の予想だと貴女戦い慣れなんて全然出来てない、そんなんじゃ魔法に振り回されるのが落ち。どうせ勝てないの。

 じゃあこうしましょ、ここですんなり大人しくなるならそこの二人は見逃してあげるわ。」



 そんな条件を提出され、サチコはチラッと後方に目を向ける。ボロボロのマラに幼いノム。自分の実力と照らし合わせれば、今自分がどんな選択肢を選べばいいのはすぐに分かった。



 ――魔力も使えなくて短刀一本.......私が戦って負けたとしたら、この二人は殺されちゃう....グリムの目的は私だし、この二人は完全に私達の巻き添え。これ以上迷惑はかけちゃいけない...それは分かってるのに....分かりきってるはずなのに、答えたくない....嫌だ、あんな地獄の思いはもう嫌だ...



 顔色を暗くしつつ、中々言葉を出さないサチコにグリムはため息を吐き零した。



「早く答えてくれる?時間が無いのよ。鬣犬がこっち来る前には片を付けたいのに、これじゃあ私が貴女達をここまで誘導したのが意味無くなるわ。」

「え?ゆ、誘導?」

「本来は施設内で片を付けたかったけど、思ったより鬣犬は実力揃い。正直勝てる見込みはないから、サチコちゃんだけ攫ってさっさと退散しようって腹なの。まぁ他のメンバーにもそんなこと言ってないけど....

 大体おかしいと思わなかった?施設内に罠はない、出口のリザドランナーは無事、都合よく後ろだけ逃走経路が確保されてるって。全てはサチコちゃんを誘導する為の私の作戦よ。」



 思い返せば不自然すぎる点が幾つも浮き出る。それ自体には気付いていたものの、自分らに都合の良い解釈しかせず、真の企みにはまるで気が付かなかった。

 その結果、グローズリーという犠牲者が出てしまったことにサチコは後悔する。

 するといきなり右足に鋭い痛みが走り、サチコはその場で尻もちをしてしまう。何とか視界に映ったのは右足に釘が打ち込まれていたことだった。



「これで逃げることは出来ない。戦うか降伏するかの二択だけど、その足で戦える?降伏すれば治してあげるし、その二人も約束通り助ける。いい事づくめじゃない!

 じゃあ、サチコちゃん。答えて?私に降伏しなさい。」



 その言葉にサチコは暫く答えずにいたが、グリムの目が細くなった頃にはサチコはボロボロと涙を流していた。その涙を見てグリムは"堕ちた"と確信した。

 事実、サチコは屈した。自分の無力さ、グリムの実力、脅迫に屈服した。マラとノムを助けれるという事実に酔っていた部分もあるかもしれないが、ともかくサチコは短刀を手放そうとする。しかしそんな二人の間にノムが剣を抜いて立ちはだかった。



「...の、ノム君....」

「サチコ!あんな気持ち悪い奴の言うこと聞く必要ない!こいつを倒して、みんなで逃げればいいだけじゃん!」

「む、無理に決まってるよ!グローズリーさんを見たでしょ?魔獣狩りじゃないんだよ?本当に....殺されちゃうよ...だから、私が犠牲になれば皆殺しなんてことはないから....

 大丈夫、私は平気だから...」



 今にも大粒の涙を流して泣き崩れそうなサチコ、背でヒシヒシとサチコの悲しみ、苦しみを小さい身体で感じ取ったノムは大きく深呼吸をする。



「サチコは....嘘つきなのか?」

「.....へ?」

「そんな泣いてるくせに大丈夫なもんか!それに、サチコは生まれ変わりたいんじゃないのかよ!大きな魔獣を前にしても、怖くても逃げなかったサチコ見てカッコイイって思ってたのに、サチコは逃げるの?サチコは嘘をつくのかよ!」



 その言葉にサチコは弱りきっていた心が回復し、意識と視界がハッキリとする。ノムが前へ出てきたのは明らかな虚勢、ブルブルと目先のグリムに恐怖していた。

 だが、サチコを守るため、強くなるため必死に逃げ出したい足を堪え、剣を向けている。そんなノムの背中は自分の何倍も大きく見えたサチコだった。



「俺は戦う!サチコも姉ちゃんも守ってみせる!こんな気持ち悪い奴なんてさっさと倒して家でご馳走食べるんだ!!」

「....子供の言葉なんてどうでもいいけど、さっきっから気持ち悪い気持ち悪いって癪に触ることばかり言ってくれるわね。寛容な私も限界。サチコちゃん、これから起こる不幸は貴女が早く降参しなかったからってこと覚えておいて。」



 グリムの魔力が上昇し、頭から血管を浮き上がらせていた。強い殺気と魔力、ノムはそんな威圧感に押されそうになるが何とか踏みとどまり、そして意を決してグリムへ突進する。

 サチコは声を上げてノムの背を掴もうとするが、それは届かず、ノムは危険区域に自ら飛び込んでいった。


 刃物は持っていても所詮は子供、魔力も平凡以下の存在にグリムは呆れ果てながらも返り討ちにしようと立ち尽くす。

 ノムは剣を片手で持ちながら走り、右手に魔力を集中させ、自分の個性魔法(オリジナルマジック)を放った。



 緑色の液体がグリムへ飛び、グリムは明らかに嫌な顔をしながら避けるが、ノムは構わず全魔力を注ぐ勢いでグリムに発射し続ける。


 グリムはノムを中心に円を描くように避け続け、苦しそうな表情のまま避けているが、ノムの手の動きよりグリムは早かった。

 このままでは永遠に当たらず、ノムの魔力切れが目に見える。


 そんな風にサチコが思ったその時、グリムの動きがピタリと止まった。ノムの放った個性魔法(オリジナルマジック)がグリムの逃げる先の地面にかけられていたのだ。

 ノムの魔法は即効性があるが固まりにくい性質、故にまだ固まっていないノムの魔法はグリムの靴をガッチリと掴んで離さなかった。


 そしてノムはそんな隙を逃さず、グリムに自分の魔法をかける。



「ギャッ!!」



 普段上品ぶっているグリムから聞こえてはいけない声が聞こえる。緑色の液体が身体半分にかかり、動きが鈍くなっているのを確認したノムは息を切らしながらも両手で剣を握りしめる。




「うぉぉぉ!!くらえぇぇぇ!!」



 ノムはグリムに一気に近付いて飛び掛り、剣を頭目掛けて振った。だが、それは魔法がかかっていない左手による釘で弾かれた。

 地面に着地し、また諦めず次の攻撃を使しようとするが、その前にノムの腹にグリムの左足が飛んでくる。


 ノムは後方へと飛び、吐き気に苦しみながら腹を抑えていた。

 そしてグリムはというと、目つきもより鋭くなり歯軋りをする。頭の血管は更に数を増やしどんどん太くなっていく。



「このガキ....私にこんなことを...この服はあんたが生涯働いても永遠に着ることできない程の価値ある高い服なの!!血は別にいいの、寧ろ血が目立つ為の服だから。でもこんなドロドロと気持ち悪い物体を私の大事な服に....服だけじゃなく装飾品にまで.......許さない!!許さねぇ!!殺してやるクソガキ!!!」



 本来グリムはノムを殺す手前で最後にサチコに脅迫しようとしていたが、元の口調を忘れる程の怒りにグリムの思考は完全に焼かれてしまう。

 左手をこれでもかと言うほど大きく開き、手の中心から大きな釘を出現させ、未だ悶絶しているノムに狙いを合わせる。



 サチコはそのグリムの行為に冷や汗が湧き出て、思考より先に声が出る。




「辞めて!私が犠牲になるから!降参しますから!!」



 そんな言葉はグリムには届かない。ただ自分の怒りを目先にいる小さい子供にぶつけることしか意識はなかった。

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