vsグリム
鬣犬と黒爪の衝突が始まった頃、サチコ達はリザドランナーで北へと移動していた。リザドランナーでの移動は結構揺れて不安定、落ちそうにも何回かなるが、悪いと思いつつマラの腰はサチコは必死に捕まっていた。
時々グローズリーが声をかけてくれるが、捕まって落ちないのに必死であまり返事が出来ずにいた。
そんな静かだが確かに自由へ向かっている最中、リザドランナーが急に転倒した。何が起こっているのか理解する暇もなく全員地面へ叩きつけられ、サチコは右肘から手首まで擦りむいていた。
「痛っ!ぅぅ....ま、マラさん!大丈夫ですか!?」
サチコが真っ先に心配したのはマラ。すぐに顔をバッと上げ、未だ倒れているマラに駆け寄った。
マラは意識はハッキリとしており、近くで倒れているグローズリーもノムも無事そうなことにサチコはホッとする。
転倒した原因であるリザドランナーを見てみると、太い首には銀色の大きな釘が埋め込まれており、その先にいた人物を見てサチコは顔を真っ青に染めた。
白いスーツと髪がない丸い頭が特徴的、グリムが立っており、サチコと目が合うとニコッと笑い手を小さく振ってきた。
「あら、サチコちゃんお久しぶりね。大丈夫?大きな怪我してない?貴女は私の大切な商品なんだから障害とか勘弁よ?値が落ちたら大変。サチコちゃんが売れるから私こんな事までしたのに。」
そう言ってグリムは後ろに隠していた六つの生首を前に転がした。その顔はサチコが助けて逃げたはずの裏奴隷達だった。初めて見る生首にサチコは絶句し、吐き気を強く感じる。
「サチコちゃん、後ろ下がっててな。」
グローズリーはサチコとグリムの間に割って入り、足元に装着していた短刀を手に取るのと同時に魔力を高めた。
「名前を聞こうかカマ野郎。」
「身なりどうり口の利き方もガサツね。あんたみたいな雑魚と会話してる暇無いんだけど教えなくもないわね。
私の名はグリム。黒爪の裏奴隷担当責任者よ。」
グリムは礼儀正しくぺこりと頭を下げると、グローズリーはチラッと倒れているリザドランナーへ目をむけた。
――リザドランナーを襲ったあの釘は間違いなくアイツの個性魔法。それにアイツは担当責任者、つまり幹部か。
幹部言っても所詮日陰の組織、釘飛ばすなんてショボイ魔法持ちやがって、幹部って肩書きにこれでもかって似合わねぇな。
「....へぇ〜、今回は色々と諦めてたんだけど人生我慢してみるもんだな。黒爪の幹部に会えるなんて運がいいわ。
そこらの雑魚殺すよりよっぽど有意義だね。」
「そうね、貴方みたいな人間と息が合うのは変な気分。私の予想だと二~三人はいると思ってたんだけど、一人しかいなくてこんな弱そうなんて仕事楽で運いいわ〜。」
グローズリーは頭に血管を浮かび上がらせ、ピクピクと瞼が痙攣している。明らかに怒りを顕にしており、先程まで優男と思っていた彼の豹変ぶりにサチコは少し身震いをする。
ポケットからグローズリーは手に収まるほどの大きさのガラス玉を取り出す。中心が小さい赤い光が灯っており、それを上に投げたりして遊んでいた。
そのガラス玉を見てグリムの表情はより一層柔らかくなった。
「鬣犬といえば山賊中の山賊、魔兵器とかに頼らず自然にあるものだけ使う正に獣の集団ってイメージだったけれど...魔兵器・爆玉とはね、使いやすいだろうけど、手作りの爆弾とかの方が威力はいいんじゃない?」
「適切なアドバイスをありがとうよ、遺言替わりに受け取っておく。だが、俺は使いやすさ重視なんでね。屑のアドバイス貰って戦い方変えるなんて以ての外、俺が弱いかどうか教えてやるよ!」
そう言葉で言い放ったと同時にグローズリーは爆玉をグリムに投げる。まるで野球選手かのように一直線に爆玉はグリムに向かい、それをグリムは左へ飛び避ける。
グリムが着地をする直前にグローズリーは反対ポケットにも入れていた爆玉を投げる。一投目より早い爆玉はグリムが着地するであろう場所へ投げられており狙いも正確、だがグリムの足が地面に触れる方が早く、後ろへ飛び避けて何とか躱した。
攻撃が不発に終わり、顔を曇らしていたサチコだが、グローズリーの方を見ると驚愕へと変化する。
グローズリーの手をかざす先には軽く十個は超えている爆玉が宙へとフワフワと浮いていたのだ。どこにそんな数の爆玉を隠し持っていたのか検討も付かず、驚きを隠せないサチコだが、顔に迷いがないのを見て攻撃が避けられたのは計算のうちだというのが一瞬で理解する。
事実その通りだった。攻撃を避けられて相手を空中へ追いやる、これがグローズリーの作戦でグリムの逃げた経路は正に理想だった。
作戦通りの結果にグローズリーの口角は上がり、掌をグリムに向けると、十個を超える爆玉が先程投げたの投擲スピードより早くグリムに襲いかかった。
――|レベル二・浮遊《レベル二・アップキープ》と物を増やす個性魔法・倍々。初見で避けられた奴はいねぇ! 爆殺して散れ!
爆玉の集団はグリムへと近付き、そして爆発する。一個だとそれ程威力は無いが数が重なれば別、目を瞑ってしまうほどの爆風と爆音。
グローズリーはグリムを倒したと確信していた。それは過信という訳では無い、空中で身動きが取れず、相殺しようにも爆発が大きい。彼の個性魔法が釘関係であることから、避けることも受けきることも出来ない。
呆気なく散ったグリムに対して高笑いしようとしたグローズリーだが、目の前に降ってきたグリムに顔を凍らせた。
グリムは無傷、何事も無かったかのようにジーッと冷たい目で彼の表情を見ていた。
「何ボサっとしてるの?死ぬわよ?」
その忠告という名の煽りはすぐさまグローズリーを動かした。やっけになって短刀を抜き取り、グリムの首めがけて切り込む。しかし、グリムの出現させた手首から出る釘にそれは弾かれる。
逆にグリムは空いてる方の手に発現している釘でグローズリーの首を突き刺す。
血飛沫が辺りに飛び散り、グリムの白い服が赤く染っていく。目から光、全身から力が失われたグローズリーはそのまま跪き、そんな彼をグリムは最後のトドメとして足裏に出現した大きな釘を彼の後頭部に突き刺す。
釘は肉や骨を突き破り、地面に突き刺さる。
「こうやって避けたのよ。爆玉が当たったのは私の足裏から伸びた釘、地面に刺さった時点で私は釘を切り離して少しジャンプ、爆玉の爆風でここまで飛んだって訳よ。
それにしても本当に良かったわ〜、こんなこともあろうかと安物の靴にしておいて。
って、聞いてる?あら、もう死んでたわね。」
クスッと鼻で笑い、グリムは悠々とサチコへと足を進める。グローズリーが目の前で殺されてしまったショックで動けずにいたサチコだったが、近づい来るグリムを見て、今自分がすべき事がすぐに分かった。
魔獣とは違う危険な雰囲気、すぐさまサチコは魔力を得ようと記憶を辿る。しかし、
――....え?ど、どうして!?魔力が湧いてこない!!
何度思い返し、何度も憎しみを得る演技をするが、本物の恨みと憎しみは湧いて出てこない。親にされた事やグリムがマラにした事でさえ落ち着いた心で思い返せてしまう。
原因は、サチコが手錠の魔具を破壊した事にあった。彼女は壊すために大量の魔力を必要とし、マラが酷い子をされるという未来の憎しみだけでなく、過去の記憶までも根こそぎ使った。




