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副責任者ボルド

 今まさに戦闘が行われる所から数メートル下、施設で言う所の四層の通路は血の香りで充満していた。その通路はメンバーの罰則室やゲルガムの遊び部屋があるのもあり、普段から他のエリアとは違って血の香りはほんわか臭う。

 が、今日は違い、その廊下は鼻が折れるレベルの臭いで満たされていた。ただの一般人がここへ来るならきっと吐き気を催してししまう、そんなレベルだった。


 その臭いの中心には一人の獣人、両拳は体毛を更に赤く染め上げ、返り血も浴びている。臭いをものともせず、無くなっていく体力をわずかでも回復させようと、深く深呼吸しながら一歩一歩と自分と対立している黒爪(ブラッククロー)の集団へと歩いていく。



 そんな獣人、ステアを目の当たりにする黒ローブ達は唾を飲み込みながら武器を構える。その武器も微かに震え、ステアはそれを見てため息を吐く。


 魔力や殺気を表に出しながら近づくステア、その威圧感に恐れる先頭の黒ローブ。その恐怖感でも尚、後ろへ引くことは出来ない。逃げたら即刻処刑、彼らは勝てないと確信しつつも自ら死刑執行人に立ち向かうしか無かった。



 先頭の黒ローブがヤケになって飛び掛るが、ステアは素早い右フックで敵の頭を捉え、壁とサンドイッチ。自分が手にかけた黒ローブが生きているかどうか確認するまでもなく、ステアは顔に付いた返り血を拭く。



「あんたらそんなに死にたくないなら逃げればいいのに....もう分かるでしょ?あんたらは私に勝てない。今まで傷一つ付けれてないんだから、天地ひっくりかえっても無理だって。もう玉砕覚悟で自分の上司に牙向けた方がいいでしょ。」



 そう伝えても彼らはステアに刃を向けていた。ステアは大きなため息を吐き、両手の指関節をゴキゴキと鳴らしながら近付いた。


 すると、集団の奥の方からクスクスと笑い声が聞こえてステアの足が止まった。黒ローブ達は慌てて両方の壁に寄って真ん中に道を開けると、一人の男が悠然と歩いてくる。




「そんな虐めてやるなよ、すぐ後ろには逃亡者を狩り殺す俺がいるんだ。お前に捨て身で挑むしか無かったんだよ。」




 そう言いながら現れる男。黒いマントに緑色の革製の服、薄暗くても分かる光沢を放つ靴、両腕の裏には棒状の銀色の兵器化した魔具である魔兵器が取り付けられており、服に合わせたかのような緑色の髪。

 無傷で返り血を浴びているステアを前にしてもニヤニヤと余裕の表情の男にステアの表情も強ばる。



「へぇ〜、そんな逃走防止の奴が何で前に?」



「これ以上は兵の無駄遣いって分かったんでな。出来る限り戦りたく無かったから持久戦もいいかと思ったが無理そうだし、俺が出るしかなくなったってわけだ。」



「そういう自信丸出しの奴らは大抵大したことないんだよね〜。相手の力量分からないで勝手にはしゃいじゃって...私に勝てると思ってる?」



「じゃなきゃ前には出ねえよ。それに、お前を倒せりゃ俺の株が上がるしな。あのステアを倒した男ってな。」



 男の言い草にステアは眉をピクリと動かす。それを見て、男はニヤッと笑いながら喋り始めた。



「三年前、イザゼル帝国兵士一行が城外で襲われる事件が起きた。国家反逆罪になってもおかしくない事態だが、王はこれを追わなかった。何故なら奪われた物はなく、命を落とした兵士がいないから。その兵士が弱いから悪いだけの話と片付けた。

 だが、それから数日後、別の箇所でまた同じ事件が起き、その数日後にも別の場所で事件は起きる。

 流石に何件も起きて、兵が弱いイメージを付けられたくないのか王国は圧力を強めた。」



 男はタバコを吸い始め、当時を思い出すかのように天井を見つめていた。



「犯人は山賊・鬣犬。下級国民の集まり故、兵士の油断もあったろうが、鬣犬はそんな兵士らを返り討ちにしまくった。が、流石にそんなに上手くいくはずなく全員制圧され王の前に首を出された。

 そしたら驚きだ!捕まえた奴が逃亡中の元グルエル王国の兵士なんだからな。

 当時、連合軍の兵士は口を揃えて言う。「戦場には獣がいる。人ではあるが、とても人には見えない。」とな。

 数多の兵士を殺し、鬣犬という新たな兵隊を使って国に喧嘩を売った赤狼の女獣人......"人獣・ステア"。弱き下級国民の英雄....」



 ステアは何も言わず、ジーッと男を睨んでいた。そんな鋭い目にも動じず、男は寧ろ鼻で笑った。



「当時は話題になったもんだ。どこいってもステアと鬣犬の話題で持ち切り、逆に捕まった後はどうなったか気になってしょうがない奴らがわんさかいたよ。あれから鬣犬メンバーを見たって情報なんて聞いてねぇからな、死んだと思って話題に出てこなくなったが...

 どうやって生き延びた?王に媚でもしたか?」




「それ、答える意味ある?昔のことなんてどうでもいい、重要なのはそれを知り得ながら私の前に立つあんた。そんなに死にたい?帝国軍に自首するなら見逃してあげるけど....

 忠告してあげる。戦うならあんた、私が本気出すまでもなく死ぬよ?」



「俺の戦い方すら目にしてねぇのに何言ってんだ?そんな下手くそなハッタリかますなんて、俺が思ったより疲弊してんのか?

 遅れたが自己紹介してやる、俺はこの施設副責任者、ボルド。人獣を狩る男だ!!」



 ボルドは咥えていたタバコをステアに投げたのと同時に飛び掛る。

 タバコが顔に当たっても動じないステアは、飛びかかってくるボルドの腹に拳をめり込ませる準備をするが、ボルドの魔兵器が発動したのを見て一歩下がった。



 ボルドはステアが立っていた場所に着地し、ニヤッとステアを見つめた。



「へぇ〜、てっきり速攻で攻撃してくるもんだと思ったが、様子見んだな。カウンターでやってやろうと思ったが、その辺は場数踏んでるって訳か。」



 ボルドの両腕に着いていた魔兵器は赤い炎を放っていた。人一人を包めるくらいの炎は、たちまちに転がっていた黒ローブを燃やしていく。

 息はないが、仲間である筈の黒ローブを燃やしていることを全く気にせず、自分を見つめてくるボルドにギリっとステアは歯ぎしりした。



「ククク...いい火力だろ?普通のやつはこれだけで充分なんだが、お前には特別に俺の全力形態見してやるよ!!|段階四・倍増《レベル四・ダブルアップ》と個性魔法・形態維持オリジナルマジック・シェイプキープ!!」




 ボルドは歯を食いしばりながら両腕に魔力を込める。すると、魔兵器の炎はどんどん膨れ上がると思うと、それはすぐに伸縮、刀のような形状になるのと同時に淡く変化していった。



「へへ、さっきと同じだと思うなよ?倍増させたやつを形だけ整えた。火力が違ぇぞ。お前の魔法はどうせ"硬化"だろ?強度は鉄並と見た。なら、そこらの武器じゃ傷一つ付かねぇよな?だがよ、これはそんな甘くはねぇ!!」



 ボルドは、下に倒れている黒ローブの握っていた刀に向かって淡い炎の刀を振り下ろす。すると刀は元々柔らかかったかのようにスっと切断される。



 そのデモンストレーションを見たステアの顔色が変わり、ボルドは満足そうにすると笑みを浮かべたままステアに切りかかる。


 ここでステアは初めて敵の攻撃を避けた。その事実にテンションが上がるボルドは続いて二の刃、三の刃と切りかかるが、全てステアは紙一重で避けた。




「はははっ!!どうしたステア!!さっきまでの堂々とした態度見してくれよ!俺の刃を受け止めてみろよ!!」



 大振りのボルドの攻撃はステアに避けられると壁や床へ切りつけられる。何度も何度も切りつけられ、その全てを避けるステア。次第に二人の空間は周りが焼き切れた跡だらけになり、倒れている黒ローブ達も焼き切られて燃えていく。


 血の香りでいっぱいだった廊下からは焦げ臭さと肉が焼ける臭いで充満、自分が作り出した空間にボルドのテンションは最高潮に近かった。



「はははっ!!逃げてばかりでどうやって俺を倒すってんだ?まぁそうか、怖いもんな、俺の刃を受け止められねぇからビビってるもんな!?どうせ連合軍戦や三年前も弱い兵士ばっか狙ってきただけだろ?本当の強者にはそんなもんだよな!?」



 その言葉にステアは更にボルドを睨み、足を止めて仁王立ちをした。そんなステアを見てボルドは吹き出しそうになった。



 ――単純なやつだ!こんな分かりやすい挑発に乗っかるなんてよ〜耐えられるわけねぇだろうが!俺の刃は全てを焼き切るんだぜ!?


 


 笑みを零しながら、ボルドは思いっきり飛び掛る。どれ程近付いてもピクリとも動かないステアに応えるように、ボルドは思いっきり右の炎の刃でステアの脳天から床まで身体ごと一気に振り切った。

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