解放
サチコは食べ終わると、飲み物を少し体内に入れて残りは手錠が少しでも脆くなるようにとぶっかけた。そして手錠を床に付けて、思いっきり踏んだり壁に叩きつける。だが、そんな事では当然壊れる訳もなく、その物音に黒ローブらも反応して小窓から覗いてくる。
「お、何か元気になったけど....姉ちゃん!それ以上はもうやめな!壊れるわけないんだし、姉ちゃんが傷つくと俺らも怒られるんだわ。」
そう声をかけられるがサチコは手をとめなかった。だが、いくら時間をかけても無駄で、サチコは手錠を見つめながらも決心する。
深く深呼吸し、小さく蹲る。そしてサチコは脳内で家族の罵倒やグリムにされたことを思い出し、憎しみを心に宿す。
すると発動する電流、一つの時とは比べ物にならない電流にサチコの意識は飛びかけ、倒れてしまった。
「おい!やめろばか!!死ぬぞ!!」
黒ローブの声も今のサチコには聞こえない。プルプルと身体全体が震え、サチコは痛みに怯える。だが、マラの姿を思い浮かべると行動せずにはいられなかった。
マラと出会って殆ど時間は経っていない、だがそんな僅かな時間でもサチコはマラのことを尊敬していた。
自分の家族を大事に思い信じる、人間の器としてサチコは憧れを持っていたからこそ、そんな彼女が自分以上の苦しみを与えられて黙ってじっとしていることが我慢ならない。
サチコは黒ローブ達に背を向け立ち上がると、再び魔力を込めた。凄まじい電流が再度発動される。激痛が全身を包み、今にでも泡吹いて倒れそうだったが、そんな意識を保とうと頭の中で必死にマラの姿を思い浮かべる。
そして同時に思い出す。マラの受けた仕打ち、グリムの行動、そして今目に見えぬゲルガムという人物がマラにしている行為。酷いことをされてると思えば思うほど憎く感じ、魔力が溢れる。次第に黒目が真っ暗に染まっていく。
「お、おい!やばいぞ!マジで死ぬ!!早く開けろ!!」
いつまでたっても諦めないサチコに焦りを感じた黒ローブは急いで鉄の扉を開けようとしていた。それと同時に手錠が一つヒビが入り始めた。
黒ローブ達が鉄の扉を開け、サチコに近付いたその時。
バキッ!!ジャラジャラ...
何かが壊れ、金属が地面に落ちる音が聞こえる。その音に黒ローブ二人は冷や汗が一気にブワッと沸き起こる。
そして再び
バキッ!!ジャラジャラ....
その音が鳴ると、サチコに走っていた電流がピタリと止んだ。黒ローブ二人はサチコの手首を見ると付いていた手錠が無くなっていた。
サチコはゆっくり振り向いた。鼻と目から血が流れ、血管が浮かび上がり、口からは泡が少し吹き出していた。フラフラしていて今にも倒れてしまいそうだったが、サチコの真っ暗な黒目には力が入っており、黒ローブ二人を睨みつけていた。
「...うっそ....だろ?....んなバカな...」
まるで蛇に睨まれたカエル、黒ローブ二人は恐怖で身体をかたまらせていたが、サチコが一歩前へ進むとそれがきっかけで黒ローブは急いで部屋から出ようとする。
黒ローブ二人の後ろ姿に、サチコは今積もらせている恨みをぶつけた。両手を思いっきりかざすと、黒い霧が突風のように黒ローブに襲いかかり、黒ローブ二人は勢いよく部屋から黒い霧と共に外に飛び出し、目の前の別の独房の鉄扉に叩きつけられた。
「ガッ!!グゥ....ウッ!!オェェェェェ!!」
叩きつけられた痛みの直後、サチコの魔法に当てられた二人は凄い吐き気に襲われてその場で吐いてしまった。身体の全てのエネルギーを吐いてるかのように胃液が出続け、サチコはゆっくりと部屋から出てその二人を見下した。
ようやく吐き終えた二人は真っ青な顔でサチコを見上げ、ガチガチと震えながら左右にそれぞれ逃げ出した。
だが、すぐに不運の呪いが発動された。左に逃げた黒ローブは自分のゲロに滑り、床に思いっきり頭をぶつけて気絶。
右に逃げたマラの身体を思う存分撫で回した黒ローブは同じくゲロに滑り、床との間に右手があり、自分で自分の両目を潰してしまった。
「グギャァァァァァ!!!目が!!!目がァァァァァァ!!!」
ジタバタと震える黒ローブにサチコは近づき、黒ローブの首を強く掴んだ。
「はぁ...はぁ....マラさんは...何処!!?」
黒ローブは強烈な痛みと恐怖で返事など出来なく、加えてサチコの魔法に当てられガクガクと震えて今にも死にそうだった。
「早く答えてよ!はぁ....はぁ...時間が無いの!!」
サチコは息を整えながらも凄い剣幕で黒ローブに問い詰めると、操られてるかのように黒ローブは震える手で左に倒れる黒ローブの先を指さした。
「お....く.......この....廊下の...さ....きの...上.......」
それだけ言い残すと黒ローブはブクブクと泡吹いてピクピクと痙攣してしまう。
サチコは貧血のように身体をふらつかせ、自分の牢屋の近くに置かれていた自分の短刀を回収。壁に身体を預けながらも移動する。
「待ってて....マラさん...私が助ける.......助けるから....」
「お、おい小娘!!人間のメス!!待つんじゃ!!」
聞き覚えのある声に引き止められ、サチコはゆっくりと振り返る。それはサチコの独房の目の前にある独房の鉄扉から聞こえた。
サチコは先を急ぎたい気持ちを抑え、その鉄扉の前に行くと、そこからは牢屋で出会った豚の老獣人がいた。
「あ、あなたは...」
「さっきの騒ぎはなんじゃ!?それにお前、外に出れているのかい!?」
「はい....なんとか出ました...それより私これからマラさんを助けなきゃ....」
サチコはそう言って立ち去ろうとするが、老獣人は鉄の扉に食いつき、必死に声をかけた。
「ま、待つんじゃ!ワシも助けておくれ!!老いぼれ言っても死にたくないんじゃ!!」
「ごめんなさい...今はマラさんを....」
「そんなフラフラな身体で助けられんじゃろ!?ワシが回復魔法かけてやる!手を貸してやる!!じゃからそこで泡吹いてるアホから鍵とって開けてくれ!!」
一秒たりとも無駄にしたくないとサチコは思ったが、老獣人の言うことも一理あると思い、何度か倒れそうになりながらも痙攣している黒ローブから纏まった鍵を取り出し、老獣人の鍵を何度か失敗するが開けることが出来た。
「よし、よくやった!!じゃあ次は手錠じゃ!!お前はどうやって開けた!?」
「え?....どうやってって....無理矢理に...」
「ん?....無理矢理?」
「はい....」
なんとも言えない間が続き、老獣人もヒクヒクと口角を動かしていた。
サチコはその場を離れようとする。
「ちょ!待て待て!!あ、ほら!ここに鍵穴がある!その中に小さい鍵も纏まっとるじゃろ!きっとそれじゃ!!」
老獣人に必死に呼び止められ、サチコは震える手で何個か試していると老獣人の手錠が外れて床へ落ちる。




