決意
水晶に映る人物達は皆ザワついており、興味深くサチコを見ているのは目線が映ってなくても感じ取れていた。
「フフフ...そうです、今皆様が思っている通り、私自身もこのサチコ・マエダという人物と名を見たことも聞いたこともありません。この少女に付ける値段材料は容姿とこの珍しい衣服だけ、逆に処女では無いので少し値段を落とし元値は金貨三十枚でいい所と思っていました。
ですが皆様ご注目下さい、彼女の手錠を。」
グリムはサチコに近づき、サチコの手をガッと掴むと水晶の者へ見せつける。実際見しているのはサチコの手ではなく、装着されている二つの手錠だった。
「皆様ご存知の通り、二つの手錠というのは命の危機もあり原則一つです。死んでしまっては商品として成り立ちませんからね〜。ですが、この少女には二つの手錠をしていないといけない理由があります。二つの手錠出なければ制御出来ない力の持ち主だと言うことです。
なんと彼女....空想上の存在...個人魔法の感情型なのです!!!」
グリムの一言に全員の顔色が変わり、誰しもが興奮していた。会場を震わすような興奮の波、それは番号を言ってからの発言が原則なのだが、それを無視してグリムに話しかける者もいるくらいだった。
「お、おい!!それは本当なのか!?」
「そうですよ八番様、彼女が暴走した時その片鱗を私に見せてくれました。なんと、この手錠を魔力で破壊しようとしたのです。激痛にも耐えられる精神力と膨大な魔力、そして感情型。これ程珍しい商品は私自身初めて見ました!本来これは後のメインにする者を捕らえるための餌用に捕らえたのですが、まさかのまさか....黄金の財宝とは思いもみませんでした。」
「まさか感情型なんて...本当に実在していたのか....あ、一番だ。こいつは本当に商品として出してもいいのか?手錠を破壊しかけたのだろう?」
「えぇ、そのための二つです。これで御しれる筈ですが私達も初めての体験故、購入者にも危険が及ぶ可能性も有り得ます。しかし、そんな薄い危険性には目を瞑ろうではありませんか。なんせ世にも珍しい感情型、私としてはこれを商品として出さずスクラップにするなど...とても考えられませんでした。」
グリムは驚きに面食らっている水晶の人物達を鼻で笑い、サチコから手を離して一歩前へと踏み出した。
「さぁ!そろそろ競売の方へと移させてもらいます!!元値としては高めにして金貨千枚スタートです!購入したいと少しでも思った方がおりましたら、購入されることを強くオススメします....それでは!皆様いかが」
「待て!!」
グリムの盛り上がった声を遮ったのは、先程ナナリーを購入した十二番の女性だった。上がりに上がったテンションを遮られ、少しイラッとしたグリムだが何とか笑顔を見繕った。
「どうかなされましたか?十二番様。」
「その者の出身国はどこだ?説明をはぶらかすな。」
「この者は確か...イザゼル帝国出身でございます。」
「....ならば好きにしろ。私は降りる。次のオークションの報告も忘れずに頼むぞ。」
十二番の女性はそれだけ言い残すと水晶から姿を消し、水晶は白く石の塊のように変化した。
グリムは顎を動かすと舞台裏にいた黒ローブが急いで水晶だった石を丁寧に運んでいく。
「...十二番様退出ということで....ライバルが居なくなり場の盛り上がりが少し寂しくはなりますが、改めて競売の方をさせて貰います。元値は変わらず金貨千枚!!さぁ皆様いかがでしょうか!!?」
グリムがそう促すと冷めきっていた会場が一気に熱くなる。水晶の人物達の必死の競売の声に会場全体が揺れていた。
「十一番!千二百枚!」
「四番!千五百枚!!」
「五番!金貨二千枚だ!!!」
どんどん値段が膨れ上がる。購入者達も必死でサチコに対する値段を膨れ上げ、グリムは膨大な資産に笑いが抑えられずにいた。そんな中サチコは逆に顔を暗くし、泣き始める。
――ようやく分かった。バルガードさんやラーズさんと普通に接することが出来て、身体に触れられてもそんなに嫌に思わなかった理由が。
違う...男としても違う人種なんだ。この人達はあの二人とは別、私を....異性の人を物として見てる。自分の欲望発散にしか考えていない人が...私は怖いんだ....
スポットライトに明るく照らされてはいるものの、サチコの内は真っ暗な感情にドップリと浸かっていたのだった。
結局サチコは四番の男に金貨三億で購入された。これは破格で、グリムも黒ローブらもオークション終わりには大喜びしていた。
そうなってからはサチコは丁重に扱われる事となった。会場から小さな独房のようなあの場所へ連れていかれるのもサチコの身体を気にして、暖かい毛布や飲み物、食べ物までも支給された。
搬送までの間、サチコ自身に何かあってはいけないと思っての配慮なのは明らか。逆に舌を噛み切って自決してやろうかとサチコは思ったのだった。
だが、今のサチコにはそんな気力は無かった。自殺や支給された食料も口に入れずに、床に寝そべってただボーッと床を見つめている。こんな状況、自分の待遇にサチコは心を無くしていた。
そんなボーッとしていた時間を過ごしていると廊下から声が聞こえてくる。
「おぉお疲れ〜。第一郵送行ったか?」
「ああ。丁度いまさっき行ったばかりだ。で?お前そんなとこ座って何してんだ?」
「グリムさんから言われてんだよ。こん中に例の金貨三億枚の女がいるからよ、見張っとけってさ。」
「いやいや、こんな独房で手錠二つだろ?見張りいるかよ。んで?その噂の女はどんなご様子かな?」
一人の黒ローブが鉄扉の小窓から覗いてサチコは目線に気が付くが、何にも反応せずにただボーッと床を見つめる。
「おい、あいつ大丈夫なのか?ずっとグッタリしてるけど。」
「さっきからずっとなんだよ。まぁここから行く先が地獄だと知ったら当然だろうがな。あ、それでもう一つの地獄の方はどうよ?」
「あ?あぁ〜お前が検査で遊んだ女で名前が確か...マラだっけか?」
真っ白なサチコの頭に突然入り込んだマラの名前。それにサチコは意識を一気に取り戻し、黒ローブの言葉を集中して聞いた。
「そうそう、あいつ相当いい女だったぜ〜?初めてを俺が貰いたかったのに、それは叶わねぇな。まぁ出来たとしてもそんときには死体だな。」
「だな、あのゲルガム様に目をつけられたらもう終いだ。さっきゲルガム様の遊び部屋とこ通ったけど、めちゃくちゃヤバいわ。長くこの世界潜ってるけど、ドン引きするくらい叫んでるわ。相当エグい拷問されてるぜあの女。」
――え?マラさんが拷問されてるの?な、なんで?
「だろうな。俺あの人が遊び終わった後の後始末やった事あんだけどさ、もうヤバいのなんのって。思い出すだけで吐きそうになるわ....もう人の形してねぇよ、肉塊だよ肉塊。」
そんな言葉を聞き、サチコは唇を噛んで怒りに震える。バッと立ち上がり、目の前に置いてある食料を無理にでも腹に入れた。
――私のバカ!!何諦めてるの!?大した行動なんかしてない癖に、生まれ変わるとか言った癖に...こんなんじゃ何も変わってない!諦める人生なんて歩みたくない!私はなんで復国軍に入ったか思い出せ!私はどういう風に生まれ変わりたいか思い出せ!!
マラさんを助ける!絶対に私が助けないと、マラさんが!!




