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ゲルガムのゲーム

――――――――――――――――――――――――


 薄暗く悪臭漂う部屋、それに関しては前と同じだがその部屋には一人、マラが拘束されていた。牢屋とは違い鉄格子ではなく完全な密室、換気がされていないのか妙に息がしずらく、何もされていないのに呼吸が粗くなる。


 両手はそれぞれ広げる形で鎖に固定されており、座ったり立ったり出来るものの、目の前にある唯一の出口である鉄の扉には届くはずもない。


 脱出が出来ないと考えることしかマラには残されない。これから自分が最も憎むべき人間と同じ空間を過ごし、そして自分にとって良からぬ事をされる、そう考えるとマラはまたポロポロと涙をこぼす。自分の無力さに怒りと悔しさでどうにかなりそうに感じる。


 その時ふと思い返す、牢屋に入れられたばかりの時の老獣人の言葉を。



 ――あの獣人が言っていた自決....やるなら今しかない。もし、ここで躊躇ったら間違いなく酷い目に合わされる。

 ...怖い....悔しい...お父さんとお母さんをあんな目に合わせたやつに好き勝手されるなんて....でも、死ねない。自決なんて出来ない。私が死んだら誰がおばあちゃんの世話をする?誰がノムを育てるの?私しかいない...生きてればいずれ逃げるチャンスもあるはず、だから



 そんな思考を遮るかのように鉄の扉が勢いよく開く。マラはビクッと身体を跳ねて驚くが、扉の前に立つゲルガムを視界に入れるとすぐに憎しみに脳を満たし、鎖を無視してゲルガムに飛びつこうとする。

 鎖が手首に食い込んで痛みを感じるものの、それを気にさせない憎しみにはマラにはあった。



 「おぉ〜元気いいなお前。」



 まるではしゃぐ子供を見るかのような余裕の表情と発言、火に油を注ぐようにマラの感情も爆発する。

 ゲルガムはそんなマラを後目に、持ってきた木の台車にカバンから道具を取り出して置いていた。


 凶器、日常品と様々だがそのどれもが共通する事柄は人に痛みを与えるのに使えるということだ。

 ゲルガムの通り名のせいか、置いている小道具が全て拷問器具に見える。否、まさにそうなのかもしれない。


 小道具に表情を固まらせているマラを見て、ニヤッとするゲルガム。彼はそこから小さなナイフを取り出し、マラに見せつけた。



 「....マラ、だっけか?苗字はなんだ?」




 「教えるわけない...あんたとなんかと会話なんて絶対にしたくない!!!」




 「おいおいそんな事言うなよ。俺はお前のこと知らねぇんだからよ。それに、教えてくれなきゃお前がもし自由になった時に誰かに語ることもできやしない。」




 "自由"その言葉にマラは過剰に反応する。今、マラはゲルガムに復讐することより自分の家族の方を気にかけているため、ここから解放されることが第一優先事項だったからだ。



 「お前がもし、俺の出す条件をクリア出来たのなら解放させてやる。奴隷脱出ってわけだ。俺は高〜い金を払ってお前を買った、なのに自由にさせるって意味わからないって思うだろ?見てみたいんだよ、俺の経験を超える出来事や生物の耐久力ってものをよ。

 ともかく、お前の本名を知らねぇとこの話は当然なし。お前の苗字は一体なんだ?」




 「....ハースザ。」




 「あぁ〜あそこの一家か。エルブレト街の...確かあれは三件目だったかな?そうかそうか....あそこのガキか...あ!あの婆さんは元気か?あの婆さん良い奴だな〜。老人の癖して良い声出すからよ、俺も張り切ってやっちまって、お前の両親くたばらせちまうの早かったんだよな〜。」




 何度やっても同じなのは分かっていたが、マラは自分の感情をそのまま表へ。ゲルガムに飛びつこうとする力が強まるが、やはりギリギリ届かない。

 涙を流しながらギリギリと歯ぎしりするマラに対してゲルガムはニヤニヤしているだけだった。




 「お前ら下級国民....いや、"元"下級国民も含め本当に面白いよな。力がないから身分が低くて貧乏暮らし、なのに何か奪われたら一丁前に感情を露わにする。力つけて上級国民にでもなれば、こんなことにならねぇのにな。

 あ、でも俺は上級国民も殺すけどな?クククク...」




 ゲルガムは笑いながらも突然マラの首を掴み、勢いよく壁へ着けた。背中と後頭部に痛みが走り視界が歪む。



 「さて、そろそろ本題に移ろうか。俺が出す条件ってのは、三十分だ。たった三十分俺がすることに耐えることが出来ればお前を自由にしてやろう。失敗条件はお前が死ぬか『ギブアップ』と言わなければいいだけ。簡単だろ?」



 ――三十分されること....拷問に決まってる。それに、耐えたとしても最後の最後で絶対に殺されるに決まってる。自由にするなんて...



 「....まぁ、お前の想像通りこれからやんのは拷問だな。だが安心しろ、お前に後遺症を残すような事はしない。目を潰したり腕を切り落としたり、耳を削いだりとかはしない。お前が自由になる時は必ず五体満足だ。約束しよう。」




 「...そんなの信じられない。どうせ耐えてもすぐ殺すんでしょ?あんたの考えてることなんて....」




 「あっそ。なら、この話は蹴ってもいい。別にここから出る別口があるならそっちにしな。まぁ...もし無かったらお前はここで俺に嬲られて死ぬだけなんだけどな?」



 別口があるはずも無い、ゲルガムは知っていてそんなことを言うのは明らかだった。解放を求めるのには嫌な予感を感じつつもゲルガムの条件に応答するしかない。



 ――悔しい....悔しすぎる...お父さんとお母さんを殺して私達の人生めちゃくちゃにした奴なのに....何にも反撃出来ない、何も復讐出来ない...それなのに逆に主導権を握られてる。

 舌を噛み切って死にたい....けど、死ねない。おばあちゃんとノムの為に生きなくちゃいけない。その為だったら...こんな屑の言うことだって....



 「....わか...った。やる....耐えたら約束通りここから出して。」



 「おぉ〜、まぁそれが正しい判断だな。大丈夫だ、約束は守ってやる。」



 ゲルガムはマラから手を離すと再び器具を置いた台車の方へと移動する。マラはケホケホと咳を出し、背を向けているゲルガムを睨みつけた。




 「あんたは....なんでこんな事するの?色んな人を痛ぶって殺して、色んな人に憎まれて、色んな人を不幸にする。そして自分だって逃亡中なんでしょ?拷問やら何やらやって...あんたに何の得があるの?」




 質問されたゲルガムは台車に乗っかっていた短刀を手にしながら振り向く。先端を優しく指で叩きながら、マラに近付いてくる。



 「....俺は痛覚に関してもっと詳しくならなくちゃならない。本ではなく実経験でそれを得たい。自分と他人の感性は微妙に違くてな、だからどういう奴が何処が一番効くのか、そして生物はどれだけの痛みに耐えられるのか。量か?質か?

 今宵もそれらが理由に含まれる。だから、お前が成功して耐えきったら俺の世界観が広がる、十分お釣りがくる結果だ。というのが半分の理由。」



 「.......半分?」




 「あぁ。で、残りの半分なんだが....決まってんだろ?めちゃくちゃ楽しいからだよ!泣き喚くやつを徹底的に潰し、断末魔を聞くのが何より最高に気持ちいいんだよ!お前の母さんは断末魔がピカイチでよ!夜の手伝いになったか分かりゃしねぇよ!お前も...母親譲りの断末魔だったら嬉しいなぁ〜?」



 耳を覆いたくなるほど吐き気を感じる情報に、マラは腸が煮えくり返るではなく、身体全身が焼けるかのような怒りを感じる。涙で視界が歪んでも憎きゲルガムを睨みつけるが、歪んでいてもわかるほどゲルガムはニコニコしていた。




 「クククク....さぁ、始めようか。三十分間、果たしてお前は耐えきれるのか...実に楽しみだよ。」



 ――こんなやつに負けるもんか!!こんな非道なふざけた人間なんかに屈しない!!私は決して強い人間なんかじゃないけど、絶対に耐えきる!耐えきって....無事家に帰ってすぐ帝国軍に情報を流して追い詰めてやる!!



 怒りに満ちたその決心はマラの精神を何倍も強度な物へと変化させた。必ず実行させてみせるという決意の漲った目にゲルガムは期待を寄せた。

 それは成功ではなく失敗、その目を如何にして殺すのか、死んだ目を見たくてウズウズとしていたのだった。




 ある密室から声が廊下に響く。生半可な声は通さない程の密室だが、それは普通に廊下で話し声が聞こえるレベルで響き渡った。



 「いやぁぁぁぁ!!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!ギブアップ!!ギブアップ!ギブアップ!ギブアップゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!」




 その絶叫は丁度ゲーム開始してから五分にも達していない時点で聞こえたのだった。


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