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地獄の中の出会い

 薄暗い牢屋の中はため息とすすり泣きだけが聞こえてくる。それぞれがとっている行動は異なるが、事絶望しているという点については全員共通していた。

 負のオーラが室内に満ち溢れ、その色が強すぎるのか突然発狂し始める者もいた。マラは耳を塞ぎ込んで自分一人の空間を作り上げるが、皮肉な事にそうすればそうする程、自分がされた忌々しい出来事が鮮明に浮かんでくる。


 その気持ち悪い恐怖にマラは自然と小さく縮こまり、涙をポロポロと流す。あの経験、そして吐き気をもようす快楽に耐えられなかった自分が許せなくて堪らなくなる。


 涙で視界が歪む中でマラは牢屋の中を見渡すが、先程の舌を噛み切った女性と小さな少女、老獣人も牢屋内にいたがサチコの姿だけは見えなかった。



 ――サチコさん....あの時、自分も嫌な筈なのに私を精一杯庇ってくれようとしていた。まだ出会ってから数時間も経ってないのに、あそこまで必死になって...

 きっとサチコさんは私以上に酷いことをされているに違いない。あんなに歯向かってタダで済むはずがない。なんで....なんであんないい人がこんな目に....




 ふと想像してしまうサチコの悲惨な姿、仕打ち。それを思っただけでマラの心はズキズキと痛みだし、ズブズブと黒い感情に飲まれていく。



 ――もう嫌だ....なんでこんな目に私は合うの?私はただ貧乏でもいいから普通の暮らしをしたかった。一生下級国民でも別に構わなかった。ただ家族と幸せな時間を過ごしたかっただけなのに、どこから歯車がズレたの?私はどうすれば良かったの?




 そんな解けるはずもない疑問に頭を満たし、マラは更に身体を縮こまって泣いた。口から出そうになる絶叫に近い泣き叫びを必死に抑えながら一人で泣いていた。


 すると、牢屋の外から誰かしらの話し声と足音が聞こえてくる。マラは涙を流しながらもそちらを見ると、牢屋の前にいた見張りの黒ローブは凄い綺麗な姿勢で向かってくる人間に頭を下げていた。


 黒ローブの態度にマラの涙はピタリと止まり、黒ローブの先にいる人物に注目する。

 その人物はグリムとゲルガム、マラはグリムの姿を見た瞬間に自分のされたことをフラッシュバックし、ガタガタと震え出すがもう一人の男の方を見てその震えがピタリと止まる。



 ――あの人....どこかで....




 「ほ〜、ここが女性陣の牢屋か。前の施設より大きくなったな。」




 「えぇ。前の牢屋の狭さだと他の奴隷に隠れて自殺を図る子も居ましたからね。最近はそこそこ儲けが良いのでこういう所にも手が回るようになりました。

 どうです?前回同様獣人のメスなんかは。」




 グリムの話し方と仕草で隣で話している人物は客というのはすぐに理解出来る。牢屋内にいる者は誰しもがゲルガムと目を合わせないようにしているが、マラだけはその顔をじっと見詰めていた。

 まるで取り憑かれたかのように、何かを思い出すために。




 「ん〜....今回はそんな気分じゃねぇな。とびっきりの奴がいたら話は別だが、そうじゃない限りは今回は獣人のオスかな?」



 「あら、そうでしたか。獣人が好みなんて初耳ですがねぇ〜。」




 「違う違う、別にそんなんじゃねぇよ。ただ人間で遊びすぎて特上の奴じゃないとそそられないんだよ。特に人間の男はつまらん。女みたく甲高い声も出さないし、見た目もヒョロい奴は優越感もなくて最悪だな。」




 ゲルガムは煙草を吸いながら、女性陣の牢屋を見渡す。全員が顔を下に向け、自分が選ばれるのではないかとガクガクと震えて恐れる者が大半。しかし、そんな中でまだマラは目線をゲルガムから外さず、やがて目が合う。


 マラはドキッとするが、ゲルガムは見られることに不思議がるだけで特にマラにリアクションをすることは無かった。




 「....まぁ悪いメンツじゃねぇが、そそられる奴はいねぇな。ところでグリムよ、なんでこの牢屋に男の獣人がいるんだ?」



 「あれ...女です。」



 「は?...そうか....色々とあいつも...大変そうだな..」




 何故か変な同情をかけられ、老獣人の脳内は荒れ狂ったのだった。


 

 「...やっぱり今回は獣人の男にするかな。なるべく魔獣に似るガタイがでかいヤツとかいると助かるんだが...」



 「ん〜、そのような者は今回仕入れられなかったのでピッタリと当てはまる獣人はこの場にはいないと思われます。けど、それに類似、近しい者なら何人かおりますよ?

 "ゲルガム"様が気に入る子がいるならいいのだけれども....」




 その者の名にマラは衝撃を覚える。説明の仕様がない衝撃が頭の中で満ちていた疑問を吹き飛ばし、記憶の引き出しから一つの思い出を浮かび上がらせ、鮮明に再生される。


 夕日に照らされる父と母の墓、号泣するノム、悲しみにくれる自分、近所から渡される紙、指名手配犯、拷問魔・ゲルガム.......




 「ま、待って!」



 思考がまともにまとまらずフワフワしている状況で、マラは意図せず声をかける。その声に反応したグリムとゲルガムはゆっくりと男性陣の牢屋からマラに目線を移す。



 「あら....確か...そうそう!マラちゃんね。どうかしたの?」




 「その人....ゲルガムって...あの拷問魔の....」



 掠れるようなマラの声、身体もプルプルと震わし、動揺しているのは明らかだった。そんなマラにゲルガムは首を傾けながら言い放つ。




 「あ?なんだお前、俺の事知ってるのか?」




 その一言にマラは目を見開き、牢屋の鉄格子まで猛ダッシュ。ゲルガムに掴みかかる勢いで鉄格子にぶつかり、鉄格子の間から必死に手を伸ばしてゲルガムに掴みかかろうとするがギリギリ届かない位置にゲルガムはいた。



 「絶対に許さない!許さない許さない許さないいいいい!!!」



 「何してんのマラちゃん、ゲルガム様に失礼でしょ!奴隷の分際でなんて」




 「あんたのせいで私の人生が狂ったんだ!!こうなったのも全部あんたのせいだ!!全部....全部全部全部!!返してよ!お父さんとお母さんを返してよ人殺し!!人殺しぃぃぃぃ!!!!」



 マラは四年もの間溜め込んでいた不満や憎しみ、負の感情をここぞとばかりに解放する。裏奴隷として捕まったのすらゲルガムが原因と決めつけ、とにかく自分の大好きだった両親を奪い、祖母を苦しませた怨みを必死に言葉で表す。


 そんなマラの言葉が全く響いていないのか、ゲルガムの表情は動かなく静かな瞳でマラを見つめる。

 そんな目つきにマラの怒りも頂点を突き抜け、必死にゲルガムを捕まえようと手を伸ばしたり、唾を吐き散らしながらも罵詈雑言を言い放つ。もはや自分でも何を言っているのか分からないほどマラは狂ったように叫んでいた。


 自分の客、ましてやお徳井様に対する言動に流石にグリムも怒りを表す。魔法で釘を発現させ、ゆっくりとマラに近付くが、ゲルガムが手を伸ばしてそれを阻止する。




 「グリムよ...こいつの元値はいくらだ?」



 「え?....およそ金貨百枚程度ですが。」




 ゲルガムは胸ポケットから小袋を取り出し、魔力を発するのと共にその小袋は大きく膨れ上がる。伸縮可能な魔具、それをグリムの目の前に落とすと、金塊の音が聞こえる。




 「金貨三百枚だ。こいつを俺に譲れ。」




 グリムは釘をしまい込み、しゃがんでその袋の中を開封する。中には金貨がどっさりと入っており、グリムはニヤッと笑う。



 「ご購入ありがとうございますゲルガム様。今後ともご贔屓にお願い致しますわ。

 この者はお持ち帰りになります?」




 「いや、今だ。我慢ならない。空き部屋一つ、俺に貸せ。」




 「了解しました。では存分にお楽しみしてくださいませ....あんたら、さっさとこの奴隷を移動させなさい。」




 グリムがそう指示すると、見張りでいた黒ローブ二人は女性陣の牢屋に入ってきて、マラを鉄格子から無理矢理引き離した。



 「いや!触らないで!!やだやだやだやだやだやだ!!!!私に触れないでぇぇぇぇ!!!」



 マラは自分がされた蔑みが脳裏から浮かび、身体をじたばたさせて必死に抵抗する。そんな耳が痛くなるような甲高い声が響く中、ゲルガムはニヤニヤと笑っていた。



 「クククク...いつぶりかな?こんなに気持ちが高鳴ったのは....今回は凄く楽しめそうだな。」



 マラが黒ローブに拘束されながら牢屋を引きずり出され、薄暗い廊下を歩かさせられる。絶叫が廊下に響く中、ゲルガムはケタケタ笑いながらその後ろを着いていく。


 この先に待ち受けるもの、ゲルガムにとっては楽園。マラにとっては業火に包まれる地獄だ。

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