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拷問魔・ゲルガム

 「ステアちゃんの元へは一人のメンバーが捕らえられています。その者は最初には適当、拷問やら何やらを少し耐えて次に口にするのは罠が仕掛けられている場所を言えと指示してあります。ステアちゃんも必死こいて拷問して出てきたところが罠場とは思わないでしょうからね、高確率で来ます。

 巨大な落とし穴に催眠ガス、極めつけには我々黒爪(ブラッククロー)の幹部や実力者が待ち構え、捕らえる話です。」



 「なるほどな。ステアも一人じゃないとは言え、そうなってくると捕らえる可能性も高いな。だが、ステアは何故そこに行く?エサがあんのか?」



「先程言った感情型の少女はステアちゃんの仲間です。彼女は何がなんでも来るはず....ようやく...ようやく捕まえることができます。あの事件があってから捕まえて売りたくて仕方がなかった。大金の匂いしかしませんでしたからね〜。」



 グリムは煙草の消えかかる火を見ながら人一倍目を光らせた。まるで少年のようなその輝きにゲルガムはフッと笑みを零す。



 「そんなに捕まえたかったのに今更かよ。あの事件なんて三年前だぞ?お前んとこの情報網はどうした?」




 「私の出世は他幹部から目に余りますからね、例え見かけても奴隷担当の私には教えてくれないんですよ。まぁ、今回のように私が見つけてボスに直接話つけたから従う他ないんですけどね。

 折角見つけた大魚、絶対に逃したりはしませんよ。」




 グリムの野心に火がついた一方、ステアは鬣犬を連れて共にリザドランナーで移動していた。

 全身土色のダチョウと蜥蜴を組み合わせたような魔獣。魔馬のようなスピードは無いが、長距離走れるスタミナと小回りが利く分一人二人で移動するならもってこいだ。


 そんなリザドランナーが合計十五頭で走っている。外に出ているイザゼル帝国兵士に見つからないよう、極力村を外して突き進む。


 ステアはサチコとマラの無事を気にし、どんな目にあっているかと思うと胸が苦しくなる。手綱を握る手も強くなり、気が狂いそうになるが腰辺りに温もりを感じ、正気を取り戻す。



 「....ノム、今ならまだ間に合うぞ?戻っときな。」



 「絶対にヤダ!帰るもんか!!」



 ノムは充血している目でキッとステアを睨み、もう一段階ステアに捕まる力を強めた。



 ――頑固だな〜。この先は子供のお前が役に立てるなんてないのはノム自身分かってるはずなのに。

 ...まぁ、婆さん殺られて姉ちゃん攫われたってなったら何もせずにはいられないか。奴隷商人の目的は明らかに私だし、今度はノムを誘拐されたってなったら堪らないからね....かといって連れてくるのは...う〜ん....



 胸だけでなく頭もモヤモヤして、全身ストレス人間のように感じてしまうステア。すると、一頭のリザドランナーが近付いてきて、それに乗っていた山賊鬣犬のリーダー・メメがステアに話しかけた。



 「ステア姉さん!アイツ居場所吐きましたわ!」



 「どこだ!?」



 「メルト高原です!やっぱステア姉さんの言った通り、"二つ目に吐いた場所も嘘"でした!」



 「でしょうね、奴隷商人は国関係なく奴隷を送るから国境近くだろうし、最初に聞いた時妙に簡単に吐きこぼすもんだからおかしいなって思ったからね。じゃあ...そろそろアイツ解放してやんな。」



 ステアが思わず目をしかめて見ている先には、派手な髪型している女性が乗っているリザドランナー。そのシッポに縄が括り付けられ、その先にはステアが捕まえた黒ローブがいた。

 黒ローブは腰と砕かれた足に縄が括り付けられ、腰の方には遊びを持っているため、実質は足を引っ張られている形。足が千切れてしまった時の応急用に腰にも括り付けられている。


 折られた足を無理矢理縄で引っ張られる上に地面にある小石や枝にぶつかり、リザドランナーが巻き上げる砂埃でまともに呼吸するのも難しい状況に陥られていた。



 「グァァァァァァ!!ち、ちくしょう!も、もう話しただろ!!もうやめてくれええええ!!!」



 「え〜?嘘つかないでよ〜。私ら知ってるんだからね〜?早く本当の事言いなよ〜。」



 黒ローブが必死に問い掛けるが、女性はリザドランナーを優しく撫でながら適当に返事をする。その事に顔を顰める黒ローブだったが、最早足が限界と感じていたのかすぐに抵抗力は無くなった。




 「わ、分かった!第二地区のバルバロドだよ!!今度は本当だって!!」



 「え〜?逆方向じゃ〜ん。却下〜。早く本当の事言ってくれないと足が千切れちゃうよ〜?まぁ、私ら本当の場所知ってるけど早く言ってね〜?」



「ふざけんな!!どうすりゃあ良いんだよ!!早く解いてくれよぉぉぉぉ!!!」




 黒ローブはもはやプライドなどなく、泣きじゃくりながら懇願するが女性は鼻歌を楽しく奏でながら景色を眺めていた。

 いくら憎き敵側とはいえ、流石に黒ローブに同情せざる得なくなったステアだった。



 「流石に可哀想だぞ....もう許してやれよ。」



 「ん〜....いや、まだまだ余裕っぽいんでこのままやらせますわ。到着くらいが丁度ええんとちゃいますかね?」



 「到着って...日を跨ぐぞ....」




 そんな事を言ってもメメはニコニコしたまま、ステアはため息を吐きながら頭を抱える。ステアは鬣犬の目論見は大方予想していて、見事的中した事に悩ませていた。


 ――やっぱ皆殺しにする気か...あの黒ローブはまず助かる道はないな.....まぁ私がまだ鬣犬のメンバーだった時なら同じ感覚だし必ず皆殺しにしてる。気持ちはわかるがどうしたもんかね〜...




 「ところでこのボウズ本当に頑固やね。私らが今からどこ行くか分かってんのかい?」



 メメは首を傾げながら優しく問いかけるが、興奮状態のノムは鼻息荒れながらメメを睨みつけた。



 「よく分からないけど....でも、姉ちゃんがそこにいるならいかなきゃ!!絶対に助けないと!」




 「いや、そんなこと言ってもねぇ...あんたが助けられるわけないやろ?大の大人ならまだしも子供なんやから。」




 「関係ない!!絶対に行かないといけないんだ!!もし、待ってて姉ちゃんが死んだら....絶対に後悔する。あの時みたいに...」




 ノムは目に涙を浮かばせながらそんなことを言う。ステアとメメは互いに顔を見合せ、ステアは煙草に火をつけた。




 「ふぅ〜....ノム、それってご両親の事かい?」




 その問いにノムはステアの背中に顔を疼くめながら、こくりと頷いた。



 ――やっぱりな。婆さんはいんのに両親がいないのは最初から気になってた。何かワケありだろうとサチコも私も話題には出さなかった訳だが...




 「教えて貰ってもいい?何があったのかを。」




 その言葉にノムはまた一段階ステアに抱き着く力が強くなるが、震える声でゆっくりと話し始めた。




 「....あの時はあの家に母ちゃんと父ちゃんもいたんだ。母ちゃんはいつも優しくて、父ちゃんはいつも面白くて凄い好きだった。だから、俺と姉ちゃんは誕生日の日になると料理とかしたり、何か珍しい物を探しに行ったりするんだ。

 どんなにヘンテコな料理でも物でも、母ちゃんも父ちゃんも喜んでくれた。勿論、婆ちゃんだって...でも、四年前に....」




 ノムはそこで言葉を切らし、涙目になってグッと堪えていた。



 ――思い出すのも辛いか。無理もない、まだノムは子供だし、四年前っていうと当時六歳か。



 「....殺されたんだ。母ちゃんと父ちゃんが...あの...."ゲルガム"に...」



 ノムから発せられた意外な人物の名にステアとメメは目をぎょっとさせ、お互いの顔を見合わせる。お互いがお互い信じられないと言った顔をしていた。



 「俺と姉ちゃんが誕生日プレゼントで出掛けてる時、母ちゃんと父ちゃんはアイツに捕まって...酷い殺され方されたんだ。そんな時婆ちゃんは縛られてて、酷い事をされてるのを見ることしか出来なくて....そこから婆ちゃんがおかしくなって薬が無くちゃならない生活になって....最近ようやく落ち着いてきたのに...あんな....」




 「ノム....ゲルガムって、あの"拷問魔・ゲルガム"か?」




 ステアが恐る恐る聞いてみるとノムはバッと顔を上げ、赤く充血している目でステアを見つめる。



 「し、知ってるのアイツのこと!?母ちゃんと父ちゃんの仇なんだ!教えてくれよ!!」




 「ま、待てノム。私は殆ど知らないよ。ただ名前と事件の事しか...」




 「拷問魔・ゲルガム、四年前にイザゼル帝国内で起きてるってことだけで下級、上級構わず襲って酷い拷問の末、その場で殺す殺人魔。五件目で初の上級国民が被害者でようやく帝国軍が動いて、名前や顔が割れてからスッカリ雲隠れしたんよね。当時話題になったやんね〜。

 噂じゃ裏で処刑されたとか、ゴリアム皇国へ逃げたとか、普通に生活してるとか飛び交ってるだけで、私も殆ど死んだもんやと思ってたけど....」



 ステアとメメから情報を得られず、分かりやすいほど落ち込むノム。そんなノムを見てステアの手綱を握る手が強くなる。



 ――私らが直接被害にあった訳じゃないが、事件の事を思い出すだけでムカついてくる。アズザに負けず劣らないゴミクズ野郎...そうか、そんな奴に両親を手にかけられたのか....悔しいだろうな....両親を失っただけでなく、婆さんは生き地獄を与えられた。

 ようやく落ち着いてきた所でこんな事起きたら余計に待つ選択肢はないか....



 ひたすら目的の場所へ向かう鬣犬ら、一行の姿を照らす光は徐々にオレンジ色へと変化し、気温が徐々に下がっていく。ステア達が出発してからもう半日以上は経っており、リザドランナーだけでなく乗っている人間にも疲労が見えてくる。


 夜を過ごせる何かしらいい場所を目的地に向かいながら探す一方、ステアはただ先を見ていた。この先に捕らえられているサチコとマラを救う事だけ考え、これ以上の悲劇を起こさせないと願いに近い決心をするのだった。


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