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無力

 だが、それはもう一人の黒ローブに阻止され、背中を地面に叩きつけられて拘束される。

 そんなサチコを冷たい目でチラッと見たグリムはすぐにマラの方へ目線を移し、天井を見つめる。

 すると、マラは小さい悲鳴を漏らした。



 「!やっぱりね!十六歳でまだ汚されてないなんて商品価値としてはナイスよナイス!!これはそこそこ値段上げても客は全く気にしないわね。今回のオークションは賑わいそう!...感度の方はどうかしらね?」



 「や、やめて!!やるなら私にしてよ!マラさんにはこれ以上手を出さないでぇぇぇ!!!」


 

 サチコは涙を流しながらそう訴える。自分が標的にされるのは嫌だったが、これ以上見続けるのはもっと嫌だと感じていた。だが、グリムはニコッと笑い軽く発言する。




 「大丈夫大丈夫。貴女もこの後やってあげるから楽しみにしといて♡

 それにこの子にそんな乱暴はしないわよ。だってこの子は...商品なんだから。」



 ――なんで....なんで平気でそんなこと出来るの?自分がされたらどれほど嫌なのか分かる筈なのに...他人を思いやる心とか無いの?自分が良ければ何をしてもいいって思ってるの?

 ふざけないでよ!ふざけるなふざけるなふざけるな!!そんな事のために私が...マラさんが苦しむなんておかしい!!アンタらなんて....呪い殺してやる!!



 心の中でドス黒い感情が押し寄せてくる。マラが嫌がりグリムがニヤニヤ笑っているのを見ると余計に恨みや憎しみが膨れ上がる。

 すると手首にある魔具が発動し、サチコに電流が流れる。激痛が全身に流れ、意識が飛びそうになる。

 サチコを抑えていた黒ローブは、手錠の魔具が発動したのを見るとすぐに手をどけ、靴でサチコを踏みつけながら笑った。



 「うおっ!...ハハッ、馬鹿じゃねぇのお前?何必死こいて解こうとしてんだよ。無駄だって分かんねぇのかな?」



 そう、これは無意味な行動。この手錠は溢れ出てくる魔力を検知しそれを吸収、そして電流として装備している人間に浴びせる魔具。耐久性も優れ、怪力自慢の者が壊せないように頑丈に出来ている。


 魔力で壊せない、力で壊せない、解除できるのは外からの干渉がないと無理、そんな解けない迷路を必死に解こうとする愚者をあざ笑うように黒ローブは笑う。

 だが、そんな笑いもどんどん消えていくことになる。


 今にでも意識が吹っ飛びそうな衝撃、全身が焼けるような激痛を感じながらもサチコはグリムを睨みつけてどんどん魔力を増幅させる。

 歯を食いしばっているのも痛みに耐えているのではなく、グリムに対しての憎しみによるもの、真っ黒に染まる目を見開き鬼の形相で睨みつけるサチコに流石のグリムも冷や汗を流した。


 魔具が吸収して電流変換するスピードよりサチコの方が早く、魔具はヒビが入り始める。



 「な!お、おい!!やめろよてめぇ!!!」



 黒ローブは想定もしてなかった異常自体に頭がパニックになり、何度もサチコの頭を蹴り踏むが魔力が収まることはなく寧ろ増大していく。



 ――人の痛みも苦しみも知らないアンタらなんて全員死んじゃえばいい!!呪ってやる...呪って呪って呪い尽くして生まれたことを後悔するくらい酷い目に遭わしてやる!!



 「ぅぅぅぅう....ヴヴヴヴッ!!!」



 歯を食いしばりすぎたのか歯茎から血を流し、眉間を寄せてグリムを睨みつけるサチコ。それはまるで目の前で子供捉えられている壊れかけのカゴにいるライオン、自分を縛る物がなくなったら首を噛みちぎる決意をグリムは感じ取る。

 そんな殺気に当てられながらもグリムは汗を拭き取り、逆に呆れた顔でため息を吐きこぼす。



 「...分かったわ。貴女の言う通りにしてあげるわ。」



 グリムはそう言ってマラのズボンからゆっくりと手を離し、マラを捕まえている黒ローブを睨む。




 「ほら、貴方も離してあげなさい。彼女の言うとおりにするの。貴方も踏むのは良してあげなさい。」



 「え?で、でもグリム様....」



 「あたしに歯向かう気?さっさとその足を退かしなさい!!」



 グリムの言葉に黒ローブ二人はすぐに従い、それぞれ困惑しながらもマラを離してサチコから手を引く。

 当然サチコも困惑、グリムの意図が読めなかった。



 「これでいい?ごめんね意地悪しちゃって。貴女達がそんなに嫌なら辞めるわもう...反省してるわ。」



 ――どういう....こと?何で急に...



 グリムは暗い顔サチコに謝罪し、サチコは分かりやすいほど動揺していた。

 そして、サチコの目は普通の黒目に戻り魔力が収まる。


 その隙をグリムは逃さなかった。

 グリムはすぐに釘を生成してサチコの右肩に突き立てる。激痛で顔を歪まし、そこに意識がいっている瞬間にグリムは首に指先を当てる。




 「段階三・電気(レベル三・スパーク)



 バチッと瞬間的に当てられる電流は先程の魔具と違いサチコの意識を刈り取る。全身の力が抜けてしまい、ボーッと意識が薄れていく。



 「...ステアちゃんのツレだから只者じゃないとは思ってたけど、まさか伝説の感情型とはね。恐れ入ったわ。まぁ、感情型なんて本人の意識をどっかに反らせちゃえばいいってだけで不憫この上ないもんだけど、珍しいものだからね〜。この子も高く売れそう♡」



 「さ、流石っすねグリム様。初見なのにあんなに冷静に....」



 「まぁね。でも思った以上にビックリしたし疲れたわ〜。あんたはその子にもう一つ手錠を付けさせて、どっかの空き牢屋にぶち込みなさい。二個だと死んじゃうかもしれないけれど、この子には丁度いいでしょ。あ、検査も忘れずにね♡」



 「了解っす!」



 黒ローブはサチコの足を引っ張り、そのまま部屋を出ようとした。サチコは引きづられながらマラに向かって手を伸ばす。




 「じゃあ続きをしましょうね。邪魔だから服を全部脱がせましょうか。感度は勿論、性感帯も知っときましょう。あ、貴方本番はダメよ。処女膜は傷付けないでね。」



 「いやァァァァァ!!やめてぇぇぇぇ!!誰か!誰か助けてえぇぇえええええ!!!」



 「...ま........マラ....さ...............ん.....................」




 サチコは薄れる意識の中、涙を零しながら耳を覆いたくなるような叫び声を聞くことしか出来なかったのだった。




 ひとしきり仕事を終え、移動した三人にも同様のチェックをし、グリムは部屋で一服していた。血と涙と体液で濡れてしまった部屋の中だが、仕事柄慣れて寧ろ心地よく感じている。人の叫びや泣き叫ぶ姿を思い返し、頬を赤らめながらタバコの味を噛み締めるように吸った。


 するとノック音が聞こえて一人の黒ローブが入ってきた。先程マラを拘束し、グリムと仕事をした者だった。



 「グリム様、搬送終了しました。」



 「そ、ご苦労様。彼女はどんな感じだった?」



 「ずっとすすり泣いてましたね。牢屋に入っても隅でウザったく縮こまってました。別に本番した訳じゃないのにそこまで傷付くもんなんですかね?」



 「まぁ普通の女の子は傷付くわよ。普通はね?彼女は下級国民。普通以下ってのを自覚してない頭の悪い子だから、あんな一丁前に傷付いて泣くのよ。おかしいったらありゃしないわ。」



 グリムと黒ローブは普通の会話のように笑いながら話していると、黒ローブがある事を思い出した。




 「あ、グリム様。そういえば"ゲルガム様"がお見栄です。部屋に案内しろって仰るのですがどうします?」



 「あら、また来たのあの方。施設は結構移動激しいのにあの方は情報と足が早いわね。お得意先とはいえ不平等な売買は良くないけれど....いいわよ、案内して。」



 そう言うと黒ローブは部屋を出て数分後には一人の男を連れてきた。細く身長が高い髪の赤い男性。オールバックで眉も細く、肩から下は黒マント。隙間から見える情報からでも全身黒の衣服を身につけていた。



 「ようグリム。来てやったぜ。」




 「これはこれはゲルガム様。ようこそいらっしゃいました。態々足を運んでいただき感謝します。今回も引き抜きでこられました?」




 「それ以外じゃこねーよ。オークションにまともに参加したら買いたいやつ買えないからな。まぁいつもみたく元値より多く出すから見してくれや。

 で、今回はどんな感じよ?」



 「それはそれはもう....ここ最近では一番良くなりそうな賑わいになるんじゃないでしょうかね?人数はそれ程ですけど、質が何よりよろしい。」



 ゲルガムはニヤッと笑いながら、グリムの机に腰を下ろした。




 「ほ〜?目玉は?」



 「そうですね...面白さで言ったら個性魔法(オリジナルマジック)の感情型の少女ですかね?中々良い服着てるしルックスも良いんですが、処女じゃないのが気になりますね。」



 「ふ〜ん。感情型ね〜....」



 世にも珍しい感情型、誰しもが目を丸くして驚くワードをゲルガムはすんなりと受け入れ、逆にグリムの目が丸くなる。




 「あら?ゲルガム様ならもっと飛び付くと思ってましたが、どうかなされました?」




 「ん?あ、いやいや...そんな話すことじゃない、気にすんな。まぁ珍しいな感情型なんてな。でもそこは元値高そうだからな〜、俺は手が出せそうにないな。」



 「あら?安くしますよ?金貨五千枚でどうかしら?」




「バッカ、そんな金持ってねぇ。予算オーバーだよ。まぁ見回って別のやつを探すかな....で?グリムはどうよ?良い男見つけられたかい?」




 その問いにグリムはため息を吐きながらポリポリと頭をかいて困っていた。



 「ゲルガム様も人が悪いわ。私が好みにうるさいのは知ってる筈ですよ?こんな仕事してるから殆ど下級国民相手、そんな中でいませんよ私の好みなんて。」



 「ククク...そりゃあ残念だ。俺なんかどうだ?いま俺相手いないけど?」



 ゲルガムは自分の胸に指をさして自信満々にアピールするが、グリムは思わず笑いがこぼれてしまった。



 「ご冗談は良してくださいよ。貴方にその気は無いのは知ってますし、仮にあったとしてもこっちの身が持ちませんよ。」



「そうかそうか....ククク...ところでよ?さっき上でお前んとこの部下がバタついててちと耳に入ったんだが....ステアを捕まえるって本当かい?」



 「えっと...まぁそうですね。次のオークション目玉にしたくて黙っておきたかったのですが....ところでその話を漏らした部下はどんな顔でした?名前知ってます?」



 「よせよせ、すぐ部下を殺そうとするな。そんぐらいのミスは許してやれよ。それより気になるのはステア捕獲の方だ。どんな方法でやつを捕える?アイツはイザゼル帝国の六将クラスだと俺は踏んでるが...

 ....安心しろ。多分ステアも高額だからな、引き抜いたりはしない。単に作戦に興味があるだけだ。教えてくれないか?」



 お徳井様相手にあまり嫌とは言えないストレスか、グリムは二本目の煙草に突入しながら話した。


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