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商品価値

 グリムは二人の間を通って少女に近寄ると、黒く高そうな靴で少女に刺さっている釘を思いっきり踏み付けた。



 「馬鹿な子ね。逃げれる訳ないのに手間をかけさせるようなことさせんじゃないわよ。さてと、次はあの子ね。ほんと....大人しくできない子達ね。」



 グリムは溜め息を吐きながら舌を噛み切った女性の元へ近寄る。相変わらずそばに居る黒ローブ二人は慌てている様子だった。




 「あんた達何やってんの。早く治しなさいよ。」



 「グリムさん!す、すいません....回復魔法に手をかけてしまってて...おい!早く治せって!」



 身体を抑えている黒ローブにそんなことを言われ、汗だくながらも舌打ちして必死に治そうとしている黒ローブ。

 グリムは二人に聞こえるほどの大きな溜め息を吐き、回復魔法を当てている黒ローブを押し退けた。



 「な、何を!」



 「あんた遅すぎよ。あんたの魔力と段階二・回復(レベル二・ヒール)の回復力じゃとても追い付かないわ。間に合ったとしても障害持ちにさせちゃう。」



 グリムは女性の口に手を突っ込み、切れている短い舌を引っ張った。舌の噛み切られた断面図が顕になり、サチコだけでなく黒ローブさえも目を逸らしたくなる。



 「舌を噛み切って死ぬのは窒息死。舌の筋肉痙攣で縮こまって喉に詰まっちゃうの、だからこうやって引っ張ってあげて空気を喉に通してあげるの。そこからゆっくりと落ち着いてやればあんたの回復魔法でも間に合うわ。

 窒息してると脳にもダメージ入っちゃうからね、脳のダメージは流石に回復魔法でも治せない。だから、今後こういう場面にあったら舌を伸ばしてあげるのを覚えておいてね。」



 「わ、分かりました....」



 「じゃあこの子と逃げ出そうとした子をどっかの部屋に連れてって治療してあげなさい。正直邪魔なのよね。治療が終わったら検査と場合によっちゃ遊んでいいわよ。」



 グリムはそう言うと黒ローブ二人はニヤッと笑い、女性と釘の刺さった少女を連れて部屋を出ていった。

 取り残された二人はグリムを前にぶるぶると震えっぱなしだった。

 先程の騒ぎに何の焦りも感じない冷静的な上に残酷性、ここに呼ばれた理由もろくな事ではないと確信的に思い嫌な想像ばかり思い付いてしまう。



 すると、部屋のドアからノック音が聞こえ、少し間を開けて四人の黒ローブが現れた。その内の二人はサチコらを襲ったあの二人組だった。



「グリム様、連れてきました。」



「ご苦労様。貴方達ね?誘拐担当してた二人組は。えっと〜?魔法を勝手に使った子はどっちかしら?」



 後ろの黒ローブに押され、前にいた一人の黒ローブが前に出る。それはマラとサチコを気絶させた黒ローブで、汗を滲み出しながら唇を噛んでいた。

 グリムはそんな黒ローブの前に立ち、微笑みながらジロジロと黒ローブの顔をのぞき込む。



 「私が過度な魔法を使うなって命令したのは知ってるわね?ステアちゃんをおびき出して、その間に悟られて作戦失敗するのを恐れていたっていうのも理解してるわよね〜?」



 「し、しかしあの時は邪魔をされて...刃物まで突き立てられた為、そうせざる負えないと判断しました....

 結果的に命令違反を犯してしまったのは事実ですが、作戦は成功したのもまた事実だと思ってます。

 なので、その...罰の方は....」



 黒ローブが必死に弁明している中、サチコは所々出たキーワードに反応した。



 ――この人達ステアさんを知っている?やっぱりステアさんに近付いた人はこの人達の仲間なんだ。しかも作戦って....私達を捕まえたのが成功?...もしかしてステアさんも?



 そう考えるとどんどん暗い感情に変わっていく。少なからずステアが助けに来るという可能性すら揉み消された気がして、絶望的状況というのを突き付けられたのだった。

 グリムはそんなサチコの表情をチラッとだけ見て、口に人差し指をくっつけた。



 「ん〜そうね。確かに結果的に作戦は成功、順調に進んでるわ。貴方の起こした命令違反もほんの些細な事、ちょっとしたアクシデントってだけの事。分かったわ、貴方の罰は大目に見て軽いヤツにしてあげる。」



 その言葉に心底ホッとした黒ローブは胸をなで下ろした。身体の中で掬っていた緊張という名の重い空気をゆっくりと吐き出す。



 「あ、ありがとうこざい」




 「そんな事あたしが言うと思ったの?馬鹿な子ね!!」



 グリムは右手の付け根に魔法で手首の三分の一程の太い釘を生成し、黒ローブの頬に突き刺す。

 黒ローブの顔はすぐに痛みに歪み、グリムの手を掴んで引き離そうとするが、視界端でグリムの左手にある大きな釘を見てその抵抗はピタリと止まる。


 グリムは左の釘で黒ローブの脳天を突き刺す。刺された黒ローブの表情は石化したかのように固まり、血の涙を流しながらその場に倒れ伏せた。


 黒ローブから釘を抜いたグリムは血で染った釘をもう一人の黒ローブに向ける。腰を抜かしながらガチガチと震える黒ローブにグリムは微笑んだ。



 「"成功してればどんな命令違反してもいい"って私が思うわけないじゃない。そんなやつ残していても価値なんてないし迷惑がかかるだけ。貴方は幸いにも命令違反はしてないから見逃すけど、罰は受けてもらうわよ?止めれなかったのは貴女の責任だから、この死体を処理したら仕置き部屋に来なさい。いいわね?」



 「は、はい!分かりました!失礼します!!」



 怯えた黒ローブはすぐに立ち上がり、絶命した黒ローブを抱える。自分が血に染まるのを気にする暇がなく、ただ早くこの場を離れたかった黒ローブは駆け足で部屋を出ていく。



 「ふぅ〜...あっ、ごめんね〜?結構バタバタしちゃって放ったらかしにしちゃったわね。今見た通り部下にもだらしないやつがいるから、後で教育するわけにはいかないのよ。

 さて、そろそろ貴女達に来てもらった理由を教えましょうか。」



 グリムはニコニコしながらマラに近付く。マラは恐怖で視線を剃らずが、そんな事を気にしないグリムはマラの頭や腕を撫でてくる。



 「貴女達はこれから商品としてオークションに出されるんだけど、その前に元値を付けておかないとね。貴女達の商品価値を見出すのも私の仕事ってわけ。

 で、貴女....結構肌スベスベしてるわね。やっぱり女子ってこと?下級国民で生活に余裕はないけど美意識は気にしてるってわけね。歳は?」



「じゅ...十六です....」



 「あら!やっぱりそうね!若くて可愛らしいから予想通りってことね。報告で聞いた話だけど、貴女三人で暮らしてるらしいわね。祖母と弟....ふふ....過去に男はいたの?いないなら....流石に小さい弟とヤらないわよね?」



 グリムはマラの耳元でそう囁くと、肩を触っていた右手をゆっくりと身体のラインに沿って下ろしていき、腰あたりで止まったと思うとズボンの中に入れ始めた。



 「い、嫌ッ!!」



 マラは反射的にグリムの右手を掴んで阻止しようとした。先の言葉とこの行動から触られるのはどこか、確認されるのは何かを瞬時に理解し、鳥肌を立たせながらマラは必死に抵抗する。

 だが、いつの間にかすぐ後ろに回り込んでいた一人の黒ローブに両腕を捕まれ後ろに拘束され、身動きがすぐに取れなくなった。



 「や、辞めてください!お願いやめてぇぇ!!」



 「やだわもう....そんな声出さないでちょうだい。私だって触りたくて触ってるわけじゃないんだから仕方ないじゃない。」



 マラは涙を流しながら足をじたばたさせて抵抗するが、グリムは涼しい顔で淡々とマラの下半身に右手を忍ばせていた。

 サチコはその光景を見てフラッシュバックを起こした。


 薄暗い倉庫、三人に呼び出された恐怖感、中に入るとすぐに閉じられた鉄の扉、そこで待っていた三人と金髪の大男。

 助けを呼ぶ、捕まれる腕、殴られる腹、破られる制服、臭い吐息、醜い男性器、入る異物と激痛。

 悲痛の叫びが響き渡る中、周りは笑い声とシャッター音で満たされる空間。



 「ウッ...」



 急に込み上げる吐き気と目眩にサチコは嘔吐く。口からボタボタと胃液のような唾液が手の隙間から流れ落ちる。

 呼吸も苦しくなり今にも倒れそうな感覚に染まるが、サチコは倒れるのではなく前へ進んだ。



 「やめ....やめてよぉぉぉぉ!!」



 サチコは倒れそうになるほどの前屈みでグリムに突進した。後先のことは考えず、今は目の前にいる自分と同じ苦しみに陥る少女を助けたかった、あの時の自分を助けたくて咄嗟に出た行動だった。

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