謎の黒ローブの者達
「ステア...ロベリング。」
突然背後で聞こえる男性の声にサチコとステア、他の三人の目線も同じ方向へ向かれる。
ステアらと少し距離を開けて黒いローブを被っている人物がポツンと立っていた。
サチコはステアの知り合いかと思うが、顰めっ面のステアを見てそうでないと確信する。
「誰だいアンタ。私に何か用か?名前は?」
「俺の名前なんてどうでもいい。話がある。勿論二人っきりでだ。」
「二人っきりのデートのお誘いは嬉しいけど、生憎私は名も教えない人間に着いていくほど安っぽい女じゃないよ。もう一度聞く、誰だアンタ?」
「....俺は黒爪のメンバーだ。鬣犬についての話がある。これで十分だろ?」
その男性の言葉にステアはピクっと眉を動かし、睨み付ける。ステアの怒った姿を二度見たことあるが、それとは比べ物にならない本気の睨み付けにサチコは息を飲む。
「す、ステアさん...」
「サチコ、私はちょっくらコイツと話すよ。
サチコはマラ達と家ん中でご馳走の準備しててくれ。マラにはいい酒買うよう言っといてくれよ?」
ステアはサチコの返事を聞く前にマラの方へと背中を押した。サチコは何を言っていいかわからず、ステアの言われた通りにマラ達と共に家の中に入っていった。
ステアはサチコ達が家に入ったのを確認すると、その男性と距離を詰めて威圧的に見下ろした。
近付いて見えるローブの中身、案の定ステアの知る顔ではなかった。
「で?天下の日陰者の黒爪が鬣犬の何を知ってる?
....あんたら何かしたのか?え?」
ステアは目を見開き血管を浮かび上がらせ、魔力を威嚇の如く上昇させる。魔獣顔負けの獣人の睨み付き、その息をするのも苦しくなる威圧感にローブの男も唾を飲む。
「...場所を変える。ついてこい。」
「変える必要ある?ここでいいでしょ。さっさと聞かれたことを答えるだけ。でしょ?」
「そんな単純じゃない。話すと長くなるし、誰かに聞かれる可能性をなるべく避けたい。俺自身リスクがあってお前に会いに来ているんだからな。」
ステアは少し黙っていると顎で先に進むように指示をした。ローブの男性はゆっくりと振り向き、ステアの威圧感に当てられながら歩き始めた。
ステアはその後を一定距離開けて着いていくが、この時のステアは気が付いていない。ローブの男性が不敵な笑みを浮かべていることに。
そんな姿をサチコは窓越しで心配しながら見ていた。ステアの顔や聞いたことも無いワードが何やら不穏に感じて仕方がなかった。
「サチコ〜。そんなとこで突っ立ってないで手伝ってくれよ〜。」
ノムに声を掛けられて振り向くと、ノムとマラが台所で色々作業をしていた。サチコも手伝いたかったのだが、どうしてもステアのことが気になって仕方がない。
「で、でも....ステアさん、大丈夫かな?」
「大丈夫に決まってるだろ?なんたってステアは強いんだ!あんな大きな魔獣を一発で倒しちゃうんだぜ?誰だってかないっこないよ!」
嬉しそうに自慢するノムを横に、嬉しそうにしながらマラは食器を布で拭いていた。
「へ〜。そんなに強いんだステアさん。
....サチコさん、言いづらい話になるかもしれませんが、ステアさんってあの"人獣・ステア"って呼ばれてたりしてました?」
「あ!それ俺も思ってたよ姉ちゃん!もしそうだったら、俺達凄い人に教わったって事だよな!色んな人に自慢できる!で、どうなんだサチコ!?」
そう言われてもサチコの頭は疑問でいっぱいだった。ステアとの付き合いはまだほとんど無い、今の頼りがいのある彼女の背景がどんなものか全く知らなかった。
「す、すいません...私もステアさんの事がまだよく分からなくて....あの、その人獣・ステアってどういう意味なんですか?獣人じゃなくて人獣って...」
「それに関しては私もよく分からないんです。ただ、凄く強くて話題になる事件を起こしたってだけしか...
まぁ、仕事の依頼関係でしかない私達にそこまで知る権利は無いですし、これ以上突っ込まれたら本物でもそうじゃなくても嫌な思いさせるだけですもんね。
そして、そんな人の大切なお酒を使っちゃったんですよね?サチコさんは?」
マラはニヤッと笑いながらそうからかってくる。そのからかいがサチコの気持ちを和らげ、後頭部を掻きながら窓から離れた。
「い、いや〜...あれはその....き、緊急事態っていうか...」
「そうだよ姉ちゃん!サチコのあれが無かったら俺達勝ててなんかいないんだ!でも、あの時のステアはカンカンに怒ってて面白かったな〜。サチコ絶対ボコボコにされるよ。」
「ちょ、やめてよノム君。そう考えたら違う心配が....」
「フフッ。じゃあそんなステアさんの怒りが収まるようなお酒を買ってこないとね。じゃあ私は買い出し行ってきます。ノム、時間になったら部屋で休んでるおばあちゃんに薬をね。
サチコさん、引き続きノムとお願いできますか?」
マラはサチコの返事を聞く間もなく台所を離れて出かける準備を進める。そんな慌ただしいマラに反論することなど出来ず、サチコは流れるように台所へ立った。
「それじゃあ行ってきます。ステアさんが帰ってきて料理ができていたら先に食べててくださいね。」
ノムが元気よく手を振り、サチコもそれに釣られて手を振った。そんな二人を見てマラも笑顔で手を振り返し、玄関のドアを開いた。
するとドアの目の前には大きな黒ローブの二人組が立っていた。勢いよく外へ出ようとしたマラは、ギリギリ二人の存在に気が付き、何とかぶつからずに耐えた。
「っ...えっと....どちら様で?何か御用ですかね?」
マラは急に現れた訪問者に動揺しながらもそんなことを聞くと、二人組の一人がそれを言葉ではなく暴力で答えた。
その一人はマラの頭を掴むとドアふちに思いっきり叩きつける。ドアふちはマラの顔を中心に曲がり、木材が破壊される音が鳴り響く。
マラは顔半分を血で染め上げられ、ピクピクと痙攣していた。そんなマラをまるでゴミを捨てるかのように投げ捨て、サチコとノムは目の前の現実に呆気を取られて思考が停止していた。
「おい、コイツ女だぞ。頭狙うなよ、商品になんなかったらどうすんだ。」
「別に下級国民はどうだっていいって言われてんだからいいだろ?コイツはただのついで。本命はアイツなんだからよ。」
マラを攻撃した黒ローブはサチコに向かって指を指す。サチコは状況が全く理解出来ていなく、目の前の恐ろしい現実に震えるしか無かった。それはマラを攻撃した黒ローブが近付いてきてさえ続いた。
訳もわからずサチコは黒ローブに首を捕まれ、凄い力で台所から引きづり出される。
「サチコ!!!」
ノムの声、落ちる食器や器具の音、そして無理矢理引きづり出される事でようやくサチコの思考が動き始める。だが、それはあまりにも遅すぎた。
サチコはまるで奥に引っかかった人形を無理に引っ張り出すかのように台所から引き抜かれると、床に叩き付けられる。
床が割れる音が響き、サチコの首に激痛と息が出来ない苦痛が伴い、折角戻った思考は再び停止、頭が真っ白になる。
「段階三・電気。」
黒ローブはサチコの首から手を離してからすぐに人差し指を彼女の首に当て、魔法を発動する。
サチコの首に弱い電撃が当たり、サチコの身体は電気ショックを受けたように跳ね、そのまま白目を向いて動かなくなった。
「よし、終わったな。」
「んじゃさっさと帰んぞ。時間がねぇ。」
黒ローブはそれぞれ一人づつ肩に乗せると早急に家から出ようとするが、いつの間にか剣を手にしているノムを見て足が止まった。
「ふざけんな...なんなんだよお前ら....サチコと姉ちゃんどうする気だ!!」
「...遊ぶ暇ねぇから死にたいなら来な。」
マラとサチコを攻撃した黒ローブは呟くようにノムに伝えると魔力を上昇させる。魔獣とは違う威圧感にノムは引き下がりそうになるが、歯を食いしばって本能が感じてる危機を意思の力で押さえ込んだ。




