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魔獣狩り②

 サチコの表情が決意に満ちたのと同時にスパイダウルフは完全に回復、サチコの魔法を警戒しているのか、一定の距離を離してこちらを伺っていた。

 そんな思わず身体を震わしてしまいそうな魔獣の目をサチコは逆に睨み返し、魔獣の行動を警戒しながら必死に頭を回した。



 「...ノム君、苦しいと思うけど走ったり出来る?」



 「え?....そんな早くは出来ないけど...」



 「じゃあ、ここから少しでも離れて。また私の魔法の巻き添えになっちゃうし、ノム君怪我してるから。」




 「そんなのサチコだって同じだろ...最初吹っ飛ばされたし。俺だけ逃げるのなんて....」



 ノムは目線を落として表情を暗くする。サチコを置いて逃げるのが気掛かりだがこの場から離れたいという気持ちもあると、サチコは少なからずそう感じた。




 「怖いんでしょ?」



 「そ、そんな訳」



 「強がらなくても大丈夫、私だって怖いんだもん。私より小さいのに怖くないなんて嘘だよ。...正直、舐めてた。魔獣狩りって言っても私初めての仕事だし、少し大変な思いする程度と思ってたから、こんな怖い経験するとは思わなかった。

 だから、私もここから逃げたいの。」



 「じゃあ....何で逃げないんだ?」




 サチコは魔獣から少し目線を外し、ノムに向かって笑顔を作った。身体中に駆け巡る激痛を耐え、汗が滝のように流れ、口角もブルブル震えて明らかに無理しているのは一目瞭然。だが、ノムにはそれを分かっていても、サチコの笑顔は輝いて見えた。



 「...生まれ変わりたいからかもね。

 さあ、魔獣が警戒している内に早く行って。」




 ノムはまた何か言おうとするが言葉が口から出ることはなく、歯を食いしばりながら弱々しく走り去った。サチコはノムの背中が離れるのを確認してホッとするが、すぐに意識は魔獣の方へと切り替わる。未だに魔獣はサチコを中心にゆっくり円を描いて移動しているが、徐々に距離が近くなっていた。



 ――今すぐにでも飛びかかってきそう....どうしよ、あんな啖呵をきったはいいけど全然いい案が出てこない。でも、考えろ私。まだ魔力は少しだけ残ってる、でもこの状態で不運な呪い(アンラッキー)はいい効果は期待出来ないし、また現代を思い返しても魔力が溜まるまで時間かかるし...

 あんまりいい案ではないけど、思い浮かんだことからトコトンやってやる!!



 サチコはググッと姿勢を下げて、魔獣が襲いかかる前に自分から飛び出した。

 それに合わせるかのように魔獣の大きな前足がサチコに襲いかかり、それを更に姿勢を落として避ける。

 頭上で通る風を切る魔獣の攻撃に冷や汗かきながら、サチコはすぐにポケットからロアとの教育で使ってそのまま貰い受けた短刀を取り出し、思いっきり反対側にある木に投げ刺した。


 サチコは投げる際、既に|段階三・硬化糸《レベル三・ロックストリング》を短刀に引っ掛けており、サチコは短刀を軸に右回りに回った。魔獣の足に糸が引っ掛かったのを感じると、勢いと体重を乗せて魔獣を転ばそうとした。


 ――魔獣は自分より全てにおいて何倍もの大きさ、だけど転ばせることくらいは


 そう思っていたサチコを裏切るように、魔獣の足はまるで何百年も生えている大木のようにビクともせず、逆にその力に負けてサチコが中に浮いて地面に倒れてしまった。



 ――グッ!やっぱりダメだった!次の...何か次の案を



 頭を更に働かせようとするサチコだが、すぐに右の横腹に強い衝撃を感じ、何メートルか転がっていく。魔獣が足で蹴飛ばしたのだった。

 サチコは強烈な吐き気を抑え、震える足を抑えながら何とか立ち上がった。


 明らかにサチコは弱り果ててスパイダウルフはほぼ無傷、勝敗は明らかなのだがそこは野生、決して油断する様子もなくサチコに襲いかかる。自分に生え揃っている六本の足を最大限に使い、サチコの動体視力では追いつけない程のスピード、切り返し等の変化で錯乱。


 なんとか期待に応えたかったサチコ、諦める気はさらさらなかったが、目の前に広がる自分一人では到底超えることが出来ぬ壁に心が折れかける。


 魔獣はサチコの目から遂には姿を消し、見失っている間にサチコのすぐ後ろに生えている大木に移動している。

 魔獣は呻き声を上げながら口を大きく広げて上からサチコに噛み付こうとするが、魔獣の口に何かが入り込む。魔獣はサチコから逸れて着地し、口に纏わりつく何かを嫌がっていた。


 サチコは気力の無い目で魔獣を見ると、魔獣の口には緑色のスライムがこびり付いていた。



「サチコ!大丈夫か!?」



 聞き覚えのある声にサチコの意識がハッキリする。声の方を見るとそこにはノムが立っていた。



 「ノ、ノム君!何やってるの!?早く逃げなきゃ!」



 「サチコも逃げるんだったら一緒に逃げるよ!サチコを置いて逃げたら....そんなんで強い人間になれる訳ない!姉ちゃんにも笑われたくねぇし、それに...か弱い女の人を守るのは強い男の役目だ!!」



 ノムは汗だくなまま白い歯を見せた。明らかに無理をしていて止めようとするがふと気付く、さっきの逆の立場だと。そう思うと手に取るようにわかる、ノムの感じていた感情を。



 ――そうだね....あんな無理して...ギリギリの筈なのに大丈夫な訳ないよね。あんなの見たら、手を貸さない訳にはいかないよね。



 サチコは何だか嬉しくなって笑みが溢れるが、魔獣の鳴き声にすぐにそちらに意識が行く。

 魔獣は口にくっついていたノムの個性魔法・粘着液体オリジナルマジック・ベドロムを口を開けて無理矢理引き外す。いくら粘着性が強くても子供の魔法、魔力があまりに足りないのは一目瞭然だ。



 魔獣を倒す引き出しは徐々に潰れていく。選択肢が絞られていき、サチコは覚悟をせざる得ない状況になってしまう。



 ――もう...呪いしかない。私の魔法でやるしかない。私の魔力が溜まるのが先か、魔獣の目に止まらぬ速さで私を八つ裂きにするのが先か....後者の方が確率高そうだからやりたくないんだけど...それ以外に方法が...



「......痛っ!」



 サチコは自分の腰あたりに何かが刺さり、少し飛び跳ねた。後ろを見るがそこは大木、腰を見てみると括りつけてある小さい布袋。



 ――これは...確か....



 布袋の中身を思い出すのと同時にサチコの頭にアイディアが落雷のように降ってくる。魔獣を倒しうる策、先程の一か八かをするよりかはずっと効率的な策を。



 ――これなら...これならきっといける!そうだ、何も一人で全部やろうとしなくていい、協力をすればあの化け物を倒すのだって不可能じゃない!!



「ノム君!一緒に来て!!」



 サチコは魔獣に背を向けてノムへ駆け寄って手を掴んで逃走する。ノムは訳が分からず案の定目を丸くし、一緒に走った。

 魔獣は遠吠えを響かせるとすぐにサチコ達を追いかけ、それに続くようにステアも走り出す。



 ――さっきのサチコの反応....何か策を思いついたのか?どんな策か知らないけど、一瞬見えたサチコの顔は自信に満ちていた。私的にはもう何も出来ないだろうから助けようとも思っていたけど、一体どんなことを...



 サチコの未知な策にステアは期待しながらもスパイダウルフを見失わぬように一定距離を保ちながら移動する。少し走るとスパイダウルフの前方に黒煙が充満していた。

 すぐにサチコの魔法だと知り、それが一発二発ではなく何発も繰り出しているのも分かった。



 ――恐らく自分の残ってる魔力を全部使ったんだ。確かに濃くて範囲も広いが、気がついてない訳じゃないだろサチコ。スパイダウルフは洞窟に生息していたんだ。嗅覚にしろ視覚にしろ、そんなの意味が無いことくらい....



 案の定魔獣は煙を恐れず飛び込む。ステアは流石に確認することは出来ないので、肩にかけていたカバンを下ろして、すぐ近くの大木を軽々と登って上から状況を把握する。


 かなりの範囲に黒い煙が撒かれているが、それは横であり縦ではない。魔獣の背中が見えてしまうので、浅く広く煙は広がっている。


 魔獣は走っていなく、ゆっくりとノソノソと動いている。だが、それはサチコ達を探している動きではなかった。目的がハッキリしていて一直線に迷いなく進んでいる。


 そしてその方向の先にある木、その裏にはサチコの服が薄らと見える。



 ――そこにいたかサチコ、そんな木の陰に隠れて一体どうするんだ?確かに魔獣はサチコを目で認識してないが、臭いで感知はしてんだぞ?何を考えている?




 そんなことを考えていると魔獣とサチコの距離は結構縮まっている。これ以上はサチコが重症を負ってしまうと思い、魔獣を捻り潰そうとステアは動こうとするが、既のところである事に気が付き、動くのをやめた。

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