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初任務開始

 出発のテンションとは違い、暗い感じで三人は目的の森へと到着する。森の中は薄暗く、巨大な樹木が無数に生えていて何だか不気味に感じる森だった。



 ――何かこの世界に来てから森ばっかりだな〜。思い返すと良い思い出がほとんど無いよ...



 明らかにテンションが落ちるサチコに対して、ノムは自分の頬を叩き気合いを入れ直す。ステアそんな二人をチラッと見つつ、森へと侵入。

 三人が目的とする魔獣は基本的に洞窟で生活しているらしく、纏まりながら洞窟らしい所があるかどうか見回しながら歩く。



 「....あ!そうだそうだ忘れてた。ノム、お前の個性魔法(オリジナルマジック)教えてよ。一応あんたを預かる身だからね、そんくらいは見ておきたい。」



 「...分かった。サチコ、ちょっと両手を合わせて。」



 ノムはちょっと嫌そうにそんなお願いをし、サチコは検討もつかないまま両手を合わせる。ノムは右手に魔力を集中させ、サチコの両手に手をかざすとそこから緑色の液体がドボっと出てくる。ドロドロしていて、指と指の僅かな隙間まで侵入してくる。




 「ひっ!こ、これって一体....」



 「これが俺の個性魔法・粘着液オリジナルマジック・ベドロム、くっつく液体みたいな感じ。手、取れないでしょ?」



 サチコは試しに手を離そうとするが、ビクともしなかった。ピッタリと張り付き、見た目はまだドロドロの液状だがどうやっても取れずにいた。

 ノムは目線を落としながらも右手をサチコの手に触ると液体がノムに吸収されて行き、ようやくサチコも手を離すことが出来た。



 「...分かったろこれで。俺の魔法は弱いしダサいんだ。みんなにも馬鹿にされる....だけど、俺...強くなりたいんだ。」



 「...凄い。」



 サチコがポロッと零したような言葉にノムはいち早く反応する。サチコは自分の両手を見つつ、興奮していた。



 「凄いよこの魔法!だって全然離れなかったし、ドロドロしてるのにすぐにくっつくってことは、即効性と持続性が凄いあるって事だよね!?しかも罠とかに最適だし、いっぱいばらまけばまともに歩けないじゃん!凄い工夫とか効きそうだね!!」




 「な、なんだよ....でも、かっこ悪いだろ?」



 「カッコイイとかそんなの気にしなくてもいいと思うよ?私だって自分の魔法...絶対初めての人が見たら嫌われるし....その分、ノム君の魔法は普段の生活でも活用出来るから、凄くて良い魔法だと思うよ?」



 ノムはマラがよくするお世辞かと思ったが、サチコは目を輝かせて感心している。自分の魔法に関して素直に褒められたことがないノムにとって、嬉しく感じるのは当然だった。




 「そう....なのかな?」



 「そうだぞ〜。私から見ても結構良い魔法だと思うけど...お、あの洞窟良さそうだな。」



 ステアが指さす先には公道のトンネル程の大きさの洞窟。灯りをともしていないその暗闇を見ていると、この世界に来た時の山賊との出来事を思い返してしまい、ブルっと震えてしまう。


 洞窟に入る前にステアは二人の背負っている荷物を入り口付近に置くよう指示する。別に大した物は入れていないが、少し不安にも思う。


 そんな二人の心情を知らないステアはズカズカと洞窟へ入り込んでしまう。サチコも重い足取りの中進んでいくと、ステアの右手から小さい火が灯されていた。



 「それがステアさんの個性魔法(オリジナルマジック)ですか?」




 「ちがうよ、これは段階二(レベル二)の魔法。はぁ〜、私もこんなカッコイイ魔法だったら良かったのになぁ〜。」



 ステアがガックリと肩を落としているのを見ると、視界の隅で一瞬赤い光が見えた。サチコはそれにいち早く反応し、洞窟の天井であろう所を隈無く見渡す。どこを見ても暗闇だが、また確かに光った赤い光。

 それは電灯のようなものではなく、獲物を狙う猛獣のイメージがすぐに沸き起こった。




 「ステアさん!!上!!」



 サチコが声をかけたのとほぼ同時に赤い光を灯していた何かがステアに襲いかかる。

 ステアはサチコに呼ばれて呆けたような顔をしていたが、自分に迫る危機を感じ取ったのか、目を細めて真剣な表情にすぐに切り替わり、襲いかかってきたものに右フックを当てた。


 拍手を送りたくなるほどの対応力、そして一瞬見せた険しく獰猛な表情。普通の人間と思って話していた彼女が獣人だったのだとサチコは改めて思い知らされた。


 ステアに殴られた何かは壁に当たり、ビクビク痙攣していた。

 ステアが何かに光を当てるとそこには一匹の獣。簡単に言えば六本足の狼の魔獣は舌をダラっと垂れ流してぐったりしていた。



 ――あ、これって私がこの世界に来た時に初めてあった魔獣だ。




 「おお、こりゃあ運がいい。『スパイダウルフ』の子供じゃん。」




 「『スパイダウルフ』....それって確か目的の魔獣ですよね?」



 「ああ。だけど私達の目的は大人の方さ。気を付けな?結構サイズあるし、力も馬鹿に出来ないからさ。」



 ステアは片手でその魔獣を軽々しく持ち上げ、ジッと魔獣の顔を覗いた。その意図は全く分からなかったが、何かを待っているのだけは感じていた。

 すると、魔獣がゴボゴボと口から薄黄色い泡を出し始め、ステアの顔色が変わりサチコに魔獣の顔を向けた。




 「ほい。」




 「え?....キャッ!!!!」



 魔獣は口から液体を吐き出し、それはサチコ身体全体を濡らす。いきなりのことでビックリし、足元もヌメヌメしていてその場でしりもちをついてしまった。お尻の痛みを和らげながら自分にかかった液体を見てみると、ヌメヌメして光沢があり何だか臭った。



 「す、ステアさん?これは...」




 「それはスパイダウルフのゲロだ。」




 「え!!??な、何するんですか!?どうりで臭いが....」



 サチコは改めて臭いを嗅ぐとしっかりと胃酸臭く、自分も出しそうになるのを堪えた。服も台無しでびちょびちょだった。



 そんなサチコを見てノムは少し顔を赤らめ心臓の鼓動が早くなるのを感じる。何でこんなに鼓動が早いのは分からない、病気かもしれないと不安がよぎるが、サチコの姿から目を逸らしたくなかった。


 ノム、生まれ落ちて十年。早くも歪んだ大人の扉を開いてしまった瞬間だった。



 「うぅ...洗いに外出てもいいですか?」



 「まぁ、いいけど....そんな暇があるならね。」




 洞窟の奥から物音が聞こえる。岩が落ち、砕いていく音がこちら側にドンドンと迫ってくる。まるで地鳴り、とてつもない脅威がこちらに迫ってきている。



 「親だな。子供の脅威を察して、子供の命を脅かした者を喰らいに、臭いを頼りに...ね。」




 「え!?じゃあ、私が!?」




 「そういうこと。あ、因みに親の相手はサチコとノムだ。私は手を出さないから、二人でどこまでいけるか頑張ってね〜。」




 「そ、そんな....」




 そんな会話をしている内に奥で聞こえていた物音がすぐ側まで来ていた。ステアの魔法による光で物音の正体が薄暗く見える。

 子供のスパイダウルフをそのまま大きくしたような感じだが、顔の表情は明らかに怒りで満ちており、サチコを唸りと共に凝視している。サイズも洞窟ギリギリ、まるで戦車が目の前に現れたような迫力を感じる。



 「の、ノム君!早く逃げよ!!」



 サチコはすぐに立ち上がり、ノムの背中を押しながら洞窟外へ向かう。魔獣のサイズ感に洞窟の暗闇はあまりに不利だと感じた上での行動だった。




 ――あんな所でやったら多分何も出来ない。少なくとも姿が見えないと!

 ...?ノム君、何で腰を引きながら走ってるんだろ...もしかしてお腹の調子が?こんな時に....



 どうするべきか頭を悩ませるサチコに対し、ノムは下半身の事情に混乱していたのは言うまでもなかった。


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