魔獣狩りへ
料理が出来てテーブルに並べると、ノムが一階の自室から飛び出し、ステアは頬を赤らめて酒を片手に降りてくる。そしてマラは叔母を連れてきた。
白髪で顔もシワシワ、車椅子に座っており身体が良くないのは見てて分かるが、叔母は常にニコニコしていた。
「どうもぉ....話はマラから聞いてます。明日は何卒宜しくお願いします...」
「あ、これはこれは....こちらこそよろしくお願いします...安心して下さい!ノムには怪我ひとつ負わせませんから!ヒック」
ステアはだいぶ酒が回っているのか、動きに落ち着きがなくフラフラしながらそう言った。
――ステアさん...最後のシャックリで一気に説得力が....
「今回お世話になるのでこれを...受け取ってください....」
叔母は弱々しく自分のポケットから何かを握り差し出してくる。ステアが取りに行こうとしていたが、フラフラしていたので流石にサチコが受け取った。
叔母が渡してきたのは赤い石、当然サチコにはこれが何なのか検討もつかない。
「...これは?」
「それは着火石でございます....魔力に反応して周りを明るく照らしたり、石を壊して火を放つことも出来ます。何か役に立てればと思いまして...」
「あ、すいません。ありがとうございます。」
サチコはその着火石をノワトレがくれた菓子の布袋に入れて腰に括りつけた。
「よし!じゃあ早速食べよっか!!お腹が減りすぎて死にそ〜!」
明らかに酔っ払っているステアは誰よりも早くご飯とお酒を喰らっていた。そんなステアにサチコを含めた四人は笑いながら食事を始める。
食事も常に笑い声が飛び交い、とても初対面とは思えないほどの打ち解けっぷり。
サチコにはまるで幸せの時間だった。誰かと笑いながら食事などほぼ初めてと言っていいくらいだったので、こんな時間がずっと続けばいいとさえ思っていた。
たが、楽しい時間はいつもあっという間。気がついた時には食事は終わり、就寝の時間もすぐに訪れた。
朝、まだ霧が街を覆い隠す時間帯にサチコは先に荷物を持って玄関で待機していた。朝の冷気を感じつつ、サチコはふと昨日の出来事を思い出して深いため息を吐いた。
――なんでつまらない時間は長くて、楽しい時間は短く感じるんだろ....うぅ...もっと話していたかったなぁ〜。普通にプライベートでここに来てもいいのかな〜。そしたらまた来たいな...
「どうしたサチコ、暗い顔して。」
「あ、いえ...そんな大したことではないんで....」
「ふーん。で、何持ってくつもり?」
「えっと...着替えの服と、水筒....後は短刀くらいですかね。ステアさんはどんなの持っていくんですか?」
そう尋ねるとステアはニヤッと笑い、肩にかけていたカバンをゴソゴソ漁る。何か参考に出来ないかと期待したサチコだったが、ステアが取り出したのは明らかに酒だった。
「え?お酒?」
「そ!私は今回そんな手は出さないし、任務が終わった帰り道に飲みたくてね。これ、そこそこ高い酒で滅多に飲めないんだ〜。ロアに隠れてコソコソお金貯めた甲斐があったもんだよ〜。まぁ....別の一本は没収させられたけど...」
ステアは頬で酒の瓶をスリスリしてとても嬉しそうだった。
「おうステア!こっちは準備できてるぜ!!さっさと行こうぜ!!」
ノムは白い歯を見せながらニッと笑っていた。背中には最初に会った時とは違い、木の棒ではなく銀色の剣。服も少し本格的で鎧とまでは行かないが動きやすく頑丈そうな服を着ていた。
その後ろではマラが不安そうに立っており、サチコと目が合った。サチコはこくりと頷くとマラの表情も少し緩くなった。
「お、やる気満々だな。じゃあさっさと行くか。」
そして三人はステアを先頭に街を出た。目的地は差程遠くはない森林、そこに目的としている魔獣が生息しているのだとか。
――説明だと半日かからないって言ってたよね。正直ここからまた二、三日かかるって言ったらしんどかったな〜。
...ノム君は大丈夫なのかな?街から離れて不安かもしれない。
不安がりながらもサチコはノムを見るが、ノムはそんなことも気にしないほどニコニコしていて、周りをキョロキョロと輝く目で見ていて、少しホッとした。
「あ、あの....ノム君?やっぱり魔獣狩りは楽しみなの?」
「ん?当たり前だろ!これで上手く行けば姉ちゃんもきっと納得する!いつも『子供だから』とか否定してばっかり...だから、ここでギャフンと言わせてやんだ!」
「おぉ〜いいじゃんノム。私そう言う考え嫌いじゃないよ、姉ちゃんに驚いてもらおうね。」
ノムは白い歯を見せながら大きく頷き、ステアも微笑んだ。
――この二人もう打ち解けてる。ご飯を一緒に食べたって言うのもあるけど、最初に会った時の事が大きく影響してるっぽい。....私もあんな感じにすれば仲良くできるのかな?
「あ、あの...ノム君。その....私も殴っていいよ?」
「は?何言ってんの?キモ。」
七歳年下に軽く流され、泣きそうになるサチコだった。
「こ〜ら、女の子にそういう言い方良くないぞノム〜。っと言っても、サチコ...お前も悪いぞ?」
流石のステアもフォローし切れなく、それも加わり地面にめり込んだと錯覚する程サチコは落ち込んでしまった。
――どうすれば仲良くなれるんだろ....結局私発信で仲良くなれた事ないし、寧ろ嫌われてたからな〜。こんな事なら現代で見つけた『今日から君はコミュ力爆発!!』って本買えばよかったのかな...
あまりのショッキングにそんな血迷ったことを考えてしまうサチコ、歩きながら空をぼーっと見上げていた。
「....なんだあんた?変な奴だな〜。なぁステア、こいつも強いのか?」
「こいつじゃなくてサチコね。サチコはまだ新人だから、ノムと同じ腕試しって感じ。」
「そっか、よろしくなサチコ。足引っ張んじゃないぞ?」
ノムはそう言って小さい手を差し出してきて、サチコはペコペコしながら両手で優しく手を握って握手をする。
「...サチコは俺より年上なんだろ?何でペコペコしてんだ?」
「な、何か癖みたいなもの....なのかな?あんまり堂々するのは苦手で...」
「ふ〜ん。なぁ、サチコは何でギルドに入ったんだ?何か戦いが強いって感じじゃなさそうだし、弱そうだし。」
「それは....上手く言えないけど、簡単にするなら生まれ変わりたいって理由かな?」
サチコの答えにノムは不思議そうに首を傾げた。
「生まれ変わりたいのに堂々としないのか?生まれ変わりたいって前まで出来なかったことを出来るようにするんだろ?出来てないじゃん。」
――ノム君の言葉がグサグサ刺さる...何だか情けなくなってくる....自分より小さい子よりオドオドしてる自分が。
「...まぁ、ここから治していくって言うか....そ、それより、ノム君も何で強くなりたいの?マラさん達を助けたいから?」
聞かれてばかりだと悪いと思ったサチコはそんな質問をする。マラから話を聞いているから答えは分かりきっている、その分リアクションも取りやすいと思ったサチコ。
だが、ノムの顔が暗くなるのに気が付き、その思いは消えていく。
「....うん、そんな感じかな。」
ノムは先程までの元気を失い、とぼとぼと歩いた。サチコは話を振ってしまった後悔と、ノムの疑念に頭を悩ませた。
――マラさんと叔母さんを助ける以外にも目的が?もしかしたら誰かにやらされてるとか?
色々思いつくが、それをノムに聞くことは無かった。話を聞いていたであろうステアも何も言わず黙って歩いているのを見て、サチコは何も出来ない。それはロア同様何か過去にあるのかもしれないという思いが出てきたからだった。




