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依頼主

 翌朝、二人はすぐに荷物を畳んで出発。世間話で眠気や身体の気だるさを誤魔化しつつ先を急いだ。


 暫く歩き、夕陽が綺麗に当たりを照らし始めた頃、住宅の集合体のような街が見えた。遠目から見ても清潔感はなくボロボロという印象を持ってしまう。



 二人は目的地、エルブレト街へ進入した。入ってすぐ感じ取れる負のオーラ。正に貧乏の人達の集まりのような場所で、建物にはオーラが感じ取れない。イザゼル帝国の言い方で言うなら、負け犬の場所なのだ。


 だが、人もそれ程腐っている訳でなく、一生懸命物を売ろうとしている者や、運搬を汗水垂らしながらしている人、普通に楽しそうに談笑してる人もいた。


 二人が居るのは商店街のような所で、普通に歩いているステアに対してサチコは周りをキョロキョロしながら歩いていく。



 「そんなキョロキョロするなサチコ。変に目立っちゃうだろ?」



 「す、すいません...でも、思ってたよりちゃんと生活してるんですね。あ!わ、悪口とかじゃなくてその....ここにいる人達って皆下級国民ですよね?なんか、凄い仕打ち受けて今日生きるのが精一杯みたいな感じって思ってて...」




 「まぁ、楽では無いけどそこまで追い込まれちゃいないよ。イザゼル帝国は基本的に下級国民に対しては無干渉だからね。だから、半場見捨てられてる感じ。その分、イザゼル帝国の縛りは浅いけど、いざとなったらあんま頼れない。」



 ステアは煙草を吸いながら地図を険しく睨んでいた。見ても分からないのは分かっていたが、サチコもそれを覗きながら歩く。



 「そうなんですね....でも、国がそういうの許していいんですか?その...皆で国を倒そうみたいな話しても...」



 「言ったろ?縛りは浅いって。ここにもイザゼル帝国の帝国軍の基地あるし、時々見回りもくる。

 まぁ、ぶっちゃけイザゼル帝国の下級国民なんて"弱者"の集団だからね。結託してもそんな脅威じゃないと思ってるのか適当だよ。ただ、戦争中にそんな事があると面倒だから念の為って感じ。

 そんな事より....えっと...依頼主はこっちかぁ?」




 ステアは地図と戦いながらヨロヨロと手探りで歩く。そんなステアに不安を感じながらも、二人は入り組んだ住宅街を進んでとうとう依頼主の家へ来た。

 木造のボロい二階建ての一軒家、ステアは地図を閉まって部屋をノックする。



 「すいませ〜ん。灰色の十字架(グレークロス)ですけど〜。」



 そんなステアの声にも反応はなく、奥からバタバタとこちらへ来る物音も聞こえない。試しにステアがドアノブを引っ張ったが、施錠はしっかりしてあるらしく開かなかった。



 「はぁ〜、留守かい。仕方が無いけど玄関前で待つか。すれ違いとか絶対嫌だし。」




 そう言ってステアは玄関前に荷物を置き始め、それに合わせてサチコも置こうとした時、誰かが自分の背後に降り立つ音が聞こえた。ゆっくりサチコが振り返ると、そこには黒髪でみすぼらしい格好の一人の少年が木の棒をサチコに向けて振っていた。




 「おりゃあ!!」




 「キャッ!!」



 少年の攻撃はサチコの左腕に当たり、転倒させた。

 少年はニッとサチコが倒れた事に歓喜し、そのテンションのままステアに向かい、木の棒を振り上げて攻撃する。


 ステアは変に動揺する様子もなく簡単に木の棒を左手で掴み、右手で少年の首を掴んだ。

 少年は少し苦しそうにしながら何とかして木の棒を引き抜こうとするがビクともせず、ステアは呆れたような表情で少年を見つめる。



 「なんだアンタ?私達に何か用か?」



 「グッ!は、離せよ!!」



 「離すわけないでしょうが。何考えてんの?誰かに頼まれた?」



 少年へ問い詰めた所でステアの背後で物音が聞こえ、ステアは目線を物音に向ける。物音は家の中から聞こえ誰かが近付いて、やがてドアが開かれた。

 そこからは黒髪を後ろに束ねている一人の女性が現れた。



 「すいませ〜ん。ちょっと手が離せなくって...え!?何なんですかあなた達は!?ノムをどうする気ですか!!??」



 「は?ノム?....あ〜、大体分かった。なるほどね。」



 ステアは少年と棒から手を離すと、少年は女性の側へサッと駆け寄り、ステアはまだ倒れていたサチコを立たせた。




 「大丈夫サチコ?頭打ってない?」



 「は、はい。別に何処も痛くないですけど、この人達って...」



 「まぁそうだと思うよ。この人達が私らの依頼主だね。」




 目を丸くして二人を見ていた女性はその言葉に眉をピクッと動かし、恐る恐る近付く。



 「あ、あの....もしかして灰色の十字架(グレークロス)の方々ですか?」



 「あぁ。ここへ来ても誰も出ないからどうしようと思ってたらそこのガキが」



 「ガキじゃねぇ!!俺の名前はノムだ!!」



 「あ〜そうそう、ノムが私らを襲ってきててさ。一体なんの事か説明して欲しいんだけど?」



 ステアは目を細めて女性に言いよると、状況を理解した女性はノムの方へ駆け寄り、手で頭をべシッと叩いた。ノムは棒を落として叩かれた頭を抑えた。




 「痛ってぇ〜〜。何すんだよ姉ちゃん!!」



 「『何すんだよ』じゃないでしょ!!これからお世話になる人に何してんのよ!!

 私の名前はマラって言います。この子は弟のノム。す、すいません本当に。なんてお詫びしたらいいか...」



 ペコペコとマラは何度も頭を下げて謝罪する。ステアは大きな溜め息を吐き、煙草に火をつけた。



 「ふぅ〜。別に詫びなんていいよ、私はただ理由を聞きたいだけさ。ねぇノム、何で私らを襲った?」



 話しかけられたノムは木の棒を振りながら調子が良さそうにステアに近付いた。



 「そんなのテストに決まってんじゃん。」



 「....テスト?」




 「あんたら、俺と一緒に魔獣狩りに行くんだろ?だったら弱かったら追い返そうと思ったんだ。あんたは合格だよ。だけど、お前。」



 ノムはステアからサチコへと目線を変え、木の棒をサチコに突き付けた。サチコは驚き、ビクッと身体を跳ねてしまった。



 「お前不合格、絶対足でまといになるに決まってる!お前は来なくていいよ。」



 「ノム!何失礼なこと言ってんの!!」



 「でも姉ちゃん、俺まだ十歳だよ!?確かに強くなる為に身体鍛えてるけど、子供に負けちゃう人なんて居ない方がマシだよ!」



 その言葉はサチコの心にグサグサと刺さり、何とも情けなく感じてしまう。そしてそれを自分より七歳年下の少年に言われると思うと更に傷付き、泣きそうになってしまう。



 「なぁ!アンタもそう思うだろ?あんな奴いても意味無いって!」



 「...なるほどね。テスト....ね〜。」



 ステアは傷付くサチコを横目で見て、ノムに合わせるようにしゃがんだ。ニコニコと興奮しているノムに対して、ステアは明らかに冷めきっていた。

 するとステアはノムの額に指を近づけ、デコピンをする。だがその威力は強く、ノムは頭を弾かれてヨロヨロと後ろに下がって尻もちを着いた。

 非はあると理解しているが実の弟が手を出されたことにマラは慌てた。



 「ちょ!何をして」



 「あんたは黙ってな!!」



 顔を真っ青にして近付こうとしたマラだったが、ステアの怒号と睨みで足が止まってしまう。

 ノムは額から出る血を抑え、涙半分でステアを睨み付ける。



 「.......何すんだよ。」



 「魔獣狩りがどんだけ楽しみか私には分からないけど、そんなくだらない理由で私の仲間を...女に手を出すな。それはその罰。」



 「んだよそれ...じゃあ男は手を出してもいいのかよ!そんなのズルいじゃんか!」



 ステアはフッと笑い、ゆっくりと立ち上がりノムを見つめる。



 「いいや、そうじゃない。男は女を護ってやるもんなんだ。生物的な事だったり哲学は置いといて、それがマナーみたいなもんだし、女は殆どか弱いんだ。本来、強い奴が弱い奴を護って手と手を取り合うべきなんだが...まぁ、今のイザゼル帝国はその当たり前ができてないんだがな。」



 「....何で出来てないんだよ...当たり前じゃないんじゃないの?」



 「いいや、今のイザゼル帝国は腐ってるからな。自分だけで他者を見てない。お前だって今の現状が嫌だから強くなる為に鍛えてるんだろ?そんな自分と同じ辛い目に合ってる人を助けたいとか思わないのか?」



 その問いにノムは黙り込んだ。何を言っていいか分からなそうなのは明らか、ステアはノムが手放した木の棒を拾い上げてノムに近付いた。



 「まぁ下級国民の私の言葉に説得力ないけど、どっちの方がいいか、純粋なノムなら分かると信じてるよ。

 よし、じゃあノム。今度はお前の番だ!ほら。」



 ステアはいつものような明るい口調に変わりに、ノムを立たせて木の棒を握らせた。流石のノムも目を丸くしていてなんの事やら分からずにいた。



 「"女に手を出しちゃいけない"、だからと言って男に手を出して言い訳がない。私はまだその罰を貰ってない、ノムが私を罰してくれ。ほら。」



 ステアはしゃがんでノムに顔を差し出してきた。ノムは握りこんでる木の棒を見てステアに目線を移す。



 「....でも、女の人に手を出すのは」



 「言ったろ?マナーみたいなもんだって。場合によるものだし、私が弱い女の部類に入ると思う?それに、これは罰。ケジメみたいなもんさ。言っとくけど、手加減したら絶対に許さないからね。」



 ノムは戸惑っていたが、ステアの熱に当てられたのか、ステアの言うように歯を食いしばって木の棒を思いっきり顔に当てる。

 木の棒は折れ、ステアの頬は痣になって口から血も流れる。サチコはすぐさま駆け寄ろうとしたが、ステアがすぐに手で『来るな』と合図していた。




 「くぅ〜、効くな〜。いい攻撃だ。見直したよ、中々やるじゃんノム〜!やっぱ男の子だな!」



 ステアは相変わらず目を丸くしているノムを引き寄せると頭をガジガジ掻いて褒めた。



 「センスあるよノム!お前はきっと強くなれるさ、私が保証してやんよ!」



 「...本当に?」



 「あぁ!でも、強くなるには言葉遣いも覚えなくちゃだぞ?特に女の子に酷いことは絶対駄目だ。分かった?」



 ステアの明るさに安心したのか、ノムも徐々に笑いを取り戻していった。



 「うん....分かった。」



 「よし!あ、ごめんね。変な事にノム巻き込ませちゃって。」



 「いいえ、寧ろありがとうございます。本当に何とお礼していいか...」



 マラも安心して微笑みながらも何度か頭を下げていた。ステアは困りながらも笑っていて、そんなステアをサチコは微笑んでみていた。



 ――凄いなステアさん。最初怒った時はビックリしちゃって怖かったけど、やっぱり優しいな。私にもあんなことができるのかな?あんな風に慣れたらきっと....



 ステアに対する憧れと尊敬、見ているサチコまで心暖かくなっていると、ステアに呼ばれて駆け足で近寄る。すると、ステアは満面の笑みでサチコの肩を抱き寄せた。



 「紹介が遅れたね。私はステア、こっちはサチコだ。今回はよろしくね。」



 「はい。ステアさん、サチコさん。どうぞよろしくお願いします。」



 今度はマラだけでなく、ノムも頭を下げて二人を出迎え、四人の空間は何一つ淀みもない明るく温かい空間になっていた。

 初任務ということで不安が大半を占めていたサチコだったが、その肩の重さは解れ、きっと楽しく上手くいく任務なんだと思っていた。







 "思い込んでいた。"









 その四人を建物の上から監視していた人物が一人。その人物は遠視用の魔具でステアを見つめていた。


 鼻で笑ったその人物はポケットから小さい水晶を取り出して魔力を込める。すると、水晶は一人の男を映し出した。



 「何よボルちゃん。何か面白い子見つかったの?」



 「あぁ、とびっきりの大物...ステアだ。」



 その名を聞いて水晶の人物は椅子からバッと立ち上がる。

 ツルツルの肌で髪はなく、目や眉毛を化粧して口紅までして、白いスーツを完璧に着こなしている男性。薄暗く石造りで少し埃臭く感じるその部屋で、指に一つだけ付けている赤い宝石の指輪に負けない程、目をキラキラ光らせながら舌を舐め回す。



 「....本当なの?」



 「間違いないな。ステア含めて四人いるが、内二人はただの下級国民らしい。だが、もう一人は仲間みたいだな。

 どうする?正面からステアを捕まえるのか?仲間の方も未知数だし、俺は気が引けるな。」



 「馬鹿ね、そんな大胆な行動出来るわけないじゃない。あのステアちゃんを捕まえるってなったら結構手間かかるわ。不意をついても簡単に引っかかるとは思えないし。

 ......その仲間ってやつはどんなやつ?」



 そう質問された人物は改めて見てみるが、サチコからはただの少女というイメージしか見えなかった。



 「ただの女にしか見えないな....変に筋肉質という訳でも無いし、偉そうにも見えないな。」



 「なら、その子を使いましょう。ステアちゃんは仲間想いで評判いいからねぇ〜。その子を餌にすればきっと食いつく。ただ、その子も危険かもしれない、捕まえるときには注意ね?」



 「あぁ。で、二人の下級国民は?」



 そう聞かれた化粧をしている男性は目の前の机の上にあるペンを取り、クルクルと何回転かさせると部屋の隅に投擲する。

 ペンを投げた先にはネズミのような小型魔獣がおり、ペンが刺さって悶絶、次第に絶命する。



 「そんな屑は別にどっちでもいいわ。捕まえても......殺しても。」




 「分かった。じゃあこちらで色々と指揮を執る。酒でも飲みながらいい報告待っててくれ。」




 「おっけ〜。上手くいったらご飯奢ってあげるわよ。」



 化粧している男性は魔力で水晶を操作すると、水晶は何も映し出さなくなった。会話がなくなり、静寂に包まれた一室でその男は小さく笑う。



 「ふ...ふふ...ウフフフフフ。遂に見つけたわステアちゃん。私が捜し求めていた女の子...」



 すると聞こえる廊下からの音。人の声が反響し、個室であるこの部屋まで聞こえてくる音、耳で聞き取り存分に味わう。



 「フフ....ステアちゃんには一体どれだけ値段がつくのかしらねぇ〜?」

 

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