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アズザの悪行

 「...サチコ、さっきの事なんだけど、あれはバルガードの本心じゃないさ。あいつだってこんな現状納得してないし、サチコにそんなこと頼みたくないのさ。」



 「じゃあ、何でなんですか?」



 「決まってる、アズザが強すぎるんだ。圧倒的に。私達が束になったとしても勝てる相手じゃない。皆殺しは必須、復国は白紙同然。結局、そうせざる得ないんだ。」




 言っていて不満が積もっていくのか、ステアの声も段々と重くなっていく。タバコも美味そうに吸っているとは思えなく、顔を曇らせていた。



 「国を守る人たちもそうなんですか?殺人が起きたとしても...」



 「あぁ。下級・上級・貴族や皇族すらもアズザの手によって殺されたら問答無用で黙認。もし、アズザ一人に対して国が総力を上げて戦って勝ったとしても、壊滅的なダメージを受けるのは確実。とても敵対国の進軍を防ぐ所の話じゃない。

 だから、国はアズザに手を出せない。どんな偉い奴らでもアズザの前には頭が上がらない状況さ。」



 まるで夢物語、冗談だと思いたかったサチコだったが、バルガード達の反応を見れば信じざる得なかった。

 スケールを小さくすると現代で言う有名な不良のよう。不良に目をつけられたくないが故になるべく関わらず、嫌なことを嫌と言えず、先生すら黙認するような大物の不良。


 自分の生きたいように生きるという面では憧れみたいなものは感じるが、人の気持ちをさほど気にしないその勝手ぶりに対する嫌悪がそれを包み隠していく。アズザに対する気持ちはそれと非常に似ていた。



「....サチコは覚えてる?グルエル王国の歴史。二つの国に潰されちゃった私らの目標の王国の事を。」



「はい。それがなにか...?」



「私は元グルエル王国、当時は私も戦場に立って戦ってたから良く覚えてるんだ。

 私らは二つの国が合わさった連合軍に対して善戦したよ。でも善戦したって言うほど私らは強くない、王国って言っても弱者の塊だから。善戦出来てた理由は連合軍は互いに手の内を見せたくなかったからさ。全然本気じゃない二カ国の連合軍にジリジリ押されてた。

 いずれ負けるのは目に見えてた。でも、そんな未来はもう少し後になる筈だった。」



「....どういうことですか?話が全く見えないです。アズザが何か関係してるんですか?」



 サチコの問いにステアは更に顔を曇らせる。しかしそれは問いに対して困っているというより、昔の事を思い出して苦しんでいるようにサチコは見えた。



「....本当だったら後数年は戦えていたんだ。だけど、そこにアズザが現れた。

 一人広大な荒野にポツンって立ってて、何万人と居る兵士に戦いを挑んだ。

 結果は惨敗。数多くの刃、兵器、魔法、何もかもが通じなく、ただただ兵士達は殺されていった。私も少し手を合わせたけどまるで話にならなかった....

 アズザが与えた損害は絶大、それに比べてアズザは無傷。その結果に満足したのか分からないけど、アズザはその場から消えた。そして...」



「....連合軍が攻めてきたって事ですか?」



「そう。....これで分かったろ?アズザは国一つを落とせる程の実力を持っている。だから誰も逆らえないし、邪魔できない。...やりたい放題を黙認するしかないのさ。」 



 「...本当にどうすることも出来ないんですか?その人が病気とか寿命とかで死んじゃわない限り....ずっとずっと....」




 サチコは暗いトーンでそんなことを聞くと、ステアはそれを鼻で笑った。次第に口角も上がり、ステアの顔から明るさが戻っていく。



 「ハッ、そんなわけないだろサチコ。アイツの死は私達の活動のゴールなんだ。国落としだけじゃない。今までアイツのせいでどれだけの人が悲しんで苦しみ、血を流したか....」



 「...ゴール?」




 「....私達は今イザゼル帝国の在籍、理由はイザゼル帝国に加担するため。つまり、この戦争はイザゼル帝国に勝たせる。ゴリアム皇国も大国だからな、イザゼル帝国もそれ相応のダメージを食らう。

 ダメージ修繕、ゴリアム皇国の吸収に体制調整で手が塞がってる時に私達は国取りを実行。王の座を奪うのさ。」



 ステアは口にくわえた煙草を指で上に弾き、目の前に落ちてきた所で右手で包み込むように掴んだ。拳を更に小さくし、指の隙間から出てくる煙草の煙も徐々に小さくなっていく。



 「そして....二つの大国が一つになった時、私達はアズザを狩る。最後の戦争を起こすんだ。あんな理不尽の塊みたいな奴は生かせない。こんな世界が生み出したクズ野郎。私ら元グルエル王国の者らにとっては勿論、それから今に至るまで理不尽な搾取をされ続けられている全世界の人間にとって、アイツの死は希望だからな。」



 言葉、表情共にステアからは強い意志を感じる。『必ずやり遂げてみせる』と言っているような雰囲気を肌で受けるサチコ、その熱意のようなものに尊敬の念を抱き、微笑んだのだった。



 それからは二人で話しながらひたすら歩いていた。それぞれの世界の話が殆どで、互いに互いの世界が魅力的で話が途切れることはほぼ無かった。

 ノワトレの菓子も歩きながらポリポリ食べたが、これまた絶品ですぐに無くなり、少し気分が落ち込んだ。

 日が沈んでいき、野宿の準備をする時にサチコは凄い疲労感を感じた。話に夢中だったおかげで疲労を感じていなかったのだった。


 だが、サチコはそれを表には出さなかった。それはステアも同条件と思っていたし、何より少しでも早く一人前と認めてもらいたいというサチコの意地もあった。


 野宿に慣れているのか、ステアの動きは無駄がなく、すぐに寝床とご飯の準備をし始める。サチコもステアに教えて貰って料理をするが上手くいかず、自炊にも手を出せばよかったと少しだけ後悔するのだった。


 着けていた焚き火も消えかかり、辺りは暗く染まり肌寒さは一向に増していく。


 そんな中、ステアは煙草を吸いながら輝く星空を一人で見ていた。

 ボーッとサチコの興味深い話を思い返しながらふと魔具の時計を見ると、寝ようとしていた時間に差し当たっていて、ステアは煙草の火を消して寝床へと向かう。


 寝床にしていたのは森の小さい石でできた穴蔵。外とは違い、冷たい風が及ばない中は少し暖かかった。

 消えかかる焚き火の前では歯を食いしばりながら腕立て伏せをしていたサチコがいた。



 ――ロアに言われたトレーニングか....真面目だな〜。ロアが見てないっていうのに馬鹿正直にやるなんて、私だったら絶対サボるんだけどなぁ〜。



 「サチコ、もうその変にしといたら?もう寝るよ。」



 「あ、えっと、先に寝てて下さい。もうちょっとで終わるんで、終わったら私も寝ます。」



 「いいよいいよ、明日も早いんだしゆっくり休んだら?一日くらいサボっても平気だって。心配しなくても私はチクらないよ?」



 そう言ってもサチコは腕立て伏せを辞めることは無かった。寧ろ苦しいはずなのに笑みが零れ始め、ステアは別の意味で心配になった。



 「初めてなんです、認めて貰ったの。」



 「...は?」



 「私、元いた場所だと本当にダメダメで、努力しても結果が実らなかった。小さい頃は親に毎日怒られて、その内何も言われなくなって、見放されちゃったんです。今後の人生もこうなんだろうなってずっと思ってました。

 だけど、ロアさんとの教育でロアさんは私を認めてくれた。結果もそうですけど、経緯も含めて評価してくれて...「よく頑張った」って一言が嬉しくて嬉しくて....

 今回休む期間が無いのも私に期待してくれてるって思ってて...なら、私はそれに応えたいんです。」



 サチコはそのまま嬉しそうに腕立て伏せをしていた。眠気を感じていたステアだったが、明るい表情をしているサチコを見て微笑んだ。



 「そうか...それなら何も言わないよ。でも、身体壊さないようにしてよ?そんな事になったら元も子もないんだからね。」



 「はい、そこも考えてやって行きます。」


 

 その返事を聞くとステアは寝床に入り、サチコを背にして目を瞑った。その間、サチコの踏ん張る息遣いは続き、ステアはゆっくりと目を開いた。




 「...サチコはさ、親を憎まなかったりしなかったの?『なんで認めてくれないんだ。』って思わなかったの?」



 「前の世界では憎みませんでした。結局のところ私がダメだったのがいけませんですし、私が直せばいいってひたすらに思ってたので。まぁ、結局何も出来なかったですけど。」



 「そっか...親ってやっぱそんな大事なもんなのか?自分が苦しい思いしてでも立てなきゃいけない存在なの?私にはそんな人いないから分からないや。」



 ステアは寝転がり、両手を後頭部に当てながらゴツゴツの石の天井を見た。から笑いしていたサチコの笑みはピタリと止め、段々と暗い顔へと変化していく。



 ――そっか...ステアさんの両親は....




 「......意外だね。こんな時、サチコならすぐに理由を聞きに来ると思ってたけど。」



 「いえ....ロアさんに『人の過去をあまり探るな』みたいな事を言われたので...」




 「ロアに?まぁ、私達の中にはそう思ってる奴はいるとは思うけど、ロアの場合は特例だよ特例。私だってロアの過去は知らないよ。」




 その言葉にサチコは腕立て伏せをピタリと止め、目を丸くした。



 「え!?そうなんですか!?」



 「うん。アホバルガードに聞いても『表情崩させるな。』『過去を聞くな。』って言うばっかで全然教えてくれないよ。おかげでメチャクチャ気になる....ロアの過去知ってるのはバルガード、シアラ、後は復国軍のボスくらいかな。どいつも口が固くて謎のままさ。

 まぁ、そこまで揃って口堅いなら余程の事だと思うから、しばらくは聞いてないけど。」



 ――そうなんだ...別に私が新人だからとかそんな理由じゃないんだ。じゃあ、ロアさんの過去を知れるのはだいぶ先の話なんだな〜。それじゃあ...




 「....あの、ステアさんの...過去話って聞いちゃダメですかね?」



 サチコは恐る恐る聞いてみるが、ステアは変に表情を崩すこと無く目線を合わせてきたので、少しホッとした。



 「う〜ん....別に喋ってもいいんだけど、大したことじゃないし、話しててそんなに良い気分にならないからね〜。また今度酒入ってる時に教えてあげるよ。」



 「はい、分かりました。それじゃあ...明日のことも考えて早く寝ましょう。」



 「あれ?もうノルマは終わったの?」



 「実はまだ....でも、身体壊しちゃって着く前に倒れちゃったらダメですし。それに、ロアさんには内緒にして貰えるんですよね?」




 ――これ以上私起きてたらステアさんも寝れなそうだし、正直疲れて眠いや。



 「当たり前だよ。その代わり...私の時もよろしくね?」




 サチコは頷くとすぐに寝床と入り、ステアは焚き火を消した。辺りが暗くなり、サチコは目を閉じるとスーッと意識が引き込まれていく。

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